被った人気の本命馬がいずれも敗れた凱旋門賞の前哨戦

2023年09月13日(水) 12:00

凱旋門賞への勢力分布が明確に

 9日にレパーズタウン競馬場で、10日にカラ競馬場で「アイリッシュ・チャンピオンズ・ウィークエンド」が行われ、10日にはパリロンシャン競馬場で「アーク・トライアル・デー」が開催された。

 これをもって、10月1日にパリロンシャン競馬場で施行される第102回凱旋門賞(芝2400m)を巡る勢力分布が、ほぼ明らかになっている。

 9日のレパーズタウン開催では、10ハロンのG1アイリッシュ・チャンピオンS(芝10F)が行われ、3.75倍の1番人気に支持したファンの期待に応えて、オーギュストロダン(牡3、父ディープインパクト)が優勝を飾った。10着という不可解な大敗を喫した6週間前のG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝11F211y)とは一変し、勝負への執念を最後まで見せ続けた同馬を、レーシングポスト紙は「ヨハネによる福音書」第11章にある記述を引用し、「ラザロの復活」と形容した。

 数ある前哨戦の中でも近年、凱旋門賞との結びつきが最も強いのがアイリッシュ・チャンピオンSではあるが、オーギュストロダンを管理するエイダン・オブライエンはレース後、「次走はおそらくアメリカになると思う」とコメント。重馬場になる可能性が高いロンシャン競馬場の凱旋門賞やアスコット競馬場のチャンピオンSに向かうよりは、サンタアニタ競馬場のBCターフを狙う公算が大きいことを明らかにしたのである。

 凱旋門賞と同じコース・同じ距離を舞台とした前哨戦が3つ組まれていたのが、10日のパリロンシャン開催である。

 発走順が最も早かった、4歳以上によるG2フォワ賞を制したのは、2番人気のプレイスドゥカルーゼル(牝4、ロペデヴェガ)だった。昨年のアーク開催では、距離2000mの牝馬限定G1オペラ賞(芝2000m)に出走し、見事にそこを制してG1初制覇を果たしていた同馬。そのオペラ賞を含めて、ここまで制した3つの重賞は2000m-2100mで、2400mの距離を走るのは、この日が初めてだった。

 フォワ賞を制し、距離克服のメドがついたプレイスドゥカルーゼルは次走、凱旋門賞に向かうことになるようだ。

 一方、首差の2着に敗れたG1、2勝馬イレジン(セン6、父マンデュロ、1.6倍の1番人気)は、セン馬のため凱旋門賞の出走資格はない。

 フォワ賞に出走したプレイスドゥカルーゼルとは対照的に、初距離の2400mをこなせなかったのが、牝馬限定G1ヴェルメイユ賞(芝2400m)に出走したブルーローズセン(牝3、父チャーチル)だった。

 2歳春に制したG1マルセルブーサック賞(芝1600m)、3歳春に制したG1仏1000ギニー(芝1600m)、G1仏オークス(芝2100m)と、2100m以下で3つのG1を制している同馬。ヴェルメイユ賞でよい競馬が出来れば、現段階では未登録の凱旋門賞に追加登録して参戦の意思を表明していたのだが、残念ながら同馬はオッズ2.1倍の1番人気に応えられず、5着に敗退。同馬を管理するクリストファー・ヘッド師はレース後、次走については明言せず、その一方で「来季も現役を続ける」とのみコメントした。

 G1ヴェルメイユ賞を制したのは2番人気だったウォームハート(牝3、父ガリレオ)で、これで前走のG1ヨークシャーオークス(芝11F188y)に続く、この路線のG1連勝となった。同馬の次走に関して、管理するエイダン・オブライエン師はレース後、「3週間後にここに帰ってくることは、おそらくないと思う。アメリカのBCフィリー&メアターフが、次の目標になる」と語った。

 3つめの前哨戦、3歳馬のためのG2ニエル賞(芝2400m)は、ドイツから遠征してきた2番人気(6.2倍)のファンタスティックムーン(牡3、父シーザムーン)が、1番人気(1.5倍)に推されていたG1パリ大賞(芝2400m)勝ち馬フィードザフレイム(牡3、父キングマン)を2着に退けて優勝。アーク前哨戦3競走は、被った人気となった本命馬がいずれも敗れる波乱となった。

 ファンタスティックムーンは、7月2日にハンブルグで行われた今年のG1独ダービー(芝2400m)勝ち馬。古馬との初対戦となった前走G1ダルマイヤー大賞(芝2000m)でも、2着に健闘していた。

 ところがこのファンタスティックムーンは、現段階で凱旋門賞は未登録だ。今後について、馬主リバティ・レーシングの代表者ラーズウイルハイム・バウムガルテン氏は、「この馬は、道悪が巧い馬ではない。天気予報を見ながら、凱旋門賞への追加登録も考慮するが、むしろ、ブリーダーズCやジャパンCに興味がある」とコメントしている。

 しかし、凱旋門賞のアンティポスト・マーケットは、直前の前哨戦を使わなかった馬たちが上位を占める状況となっている。

 具体的には、8月15日のドーヴィル競馬場で行われたG2ギヨームドルナノ賞(芝2000m)を制し、デビューから継続している無敗の連勝を5に伸ばしたエースインパクト(牡3、父クラックスマン)が、オッズ3.5倍-4.33倍の1番人気。7月29日にアスコット競馬場で行われたG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝11F211y)で2度目のG1制覇を果たしたフクム(牡6、父シーザスターズ)が、オッズ6倍-7倍の2番人気となっている。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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