2023年10月23日(月) 18:00
単勝オッズ7.3倍(4番人気)で菊花賞を制したドゥレッツァ(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
AIマスターM(以下、M) 先週は菊花賞が行われ、単勝オッズ7.3倍(4番人気)のドゥレッツァが優勝を果たしました。
伊吹 いろいろな意味で、恐れ入りましたと言うほかありません……。大外枠からやや掛かり気味に先行し、1周目の4コーナーで早くも先頭に。正直なところ、この時点では「さすがにこのまま押し切るのは難しいだろう」「おそらく、陣営やC.ルメール騎手が意図した形ではないはず」と考えていたんですよね。2週目の向正面でパクスオトマニカ(17着)やリビアングラス(4着)を先に行かせて、自身は先団のインコースに収まりましたが、3〜4コーナーでは後続も迫ってきて、一見すると苦しい形に。しかし、ゴール前の直線に入ると、まるでずっと脚をためていたかのような反応を見せて抜け出し、そのまま後続に決定的な差をつけました。結局、上がり3ハロンタイムは出走メンバー中単独トップ。タスティエーラ(2着)あたりもほぼ完璧な競馬をしていましたが、この日のドゥレッツァはどう乗っても負かしようがなかったのではないかと思います。
M ドゥレッツァはデビュー2戦目の未勝利から5連勝でGIタイトルを奪取。ダービーウィークの時点ではまだ2勝馬でしたが、一気に現3歳世代のチャンピオンホースとなりました。
伊吹 前回の当コラムでも紹介した通り、2019〜2022年の菊花賞は、“同年4月以降の、JRAの、GI・GIIのレース”において3着以内となった経験のない馬が[0-1-1-42](3着内率4.5%)。皐月賞や日本ダービー、もしくはその主要トライアル競走で上位に食い込んだことのある馬が優勢だったと言えるでしょう。ところが、ドゥレッツァはGI・GIIどころかオープンクラスのレースも今回が初挑戦だった馬。JRA重賞未出走だったにもかかわらず菊花賞で優勝を果たしたのは、1990年のメジロマックイーン以来で、実に33年ぶりの快挙です。圧倒的なポテンシャルの高さで近年の菊花賞馬像を打ち破った――と見て良いのかもしれません。
M 当然ながら、次走以降もかなりの注目を集めることになると思います。
伊吹 今後に向けた不安要素を強いて挙げるならば、ゴール前の直線に急坂があるコースへの対応。現状唯一の敗戦を喫したのが中山芝2000m内のデビュー戦だったうえ、2勝目をマークした中山芝2200m外の山吹賞は6頭立ての少頭数でしたからね。順調であれば次走は有馬記念や香港国際競走あたりが有力候補になると思いますけど、もし仮に有馬記念を使ってくるようなら、少なくとも私にとっては悩ましい存在となるでしょう。ただ、そういった些細な懸念をあっさりクリアしてしまいそうな器であることもまた事実。年長世代のトップホースに挑むところを早く見てみたいです。
M 今週の日曜東京メインレースは、今回が通算168回目の開催となる伝統の一戦、天皇賞(秋)。昨年は単勝オッズ2.6倍(1番人気)のイクイノックスが優勝を果たしました。どちらかと言うと堅く収まりがちな印象のあるレースですが、単勝人気順別成績はどうなっていますか?
伊吹 過去10年の単勝1番人気馬10頭中、4着以下に敗れてしまったのは2018年のスワーヴリチャード(10着)のみ。対照的に、単勝7番人気以下の馬はあまり上位に食い込めていません。
M これはわかりやすい。単勝2〜3番人気馬や単勝4〜6番人気馬の好走率も、それぞれ及第点と言えるのではないでしょうか。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝2〜7番人気の馬は2013年以降[4-7-8-41](3着内率31.7%)、単勝8〜13番人気の馬は2013年以降[0-1-1-56](3着内率3.4%)、単勝14番人気以下の馬は2013年以降[0-0-0-29](3着内率0.0%)となっていました。極端に人気のない馬が波乱を演出する可能性は、相当に低いと見て良いと思います。
M そんな天皇賞(秋)でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ガイアフォースです。
伊吹 なかなか面白いところを挙げてきましたね。超人気薄ということはないでしょうし、それでいて手頃なオッズがつきそう。
M ガイアフォースは昨年のセントライト記念を勝っている4歳馬。2走前の安田記念でも、勝ったソングラインから0.2秒差、2着のセリフォスとはタイム差なしの4着に健闘しています。ただし、前走のオールカマーで5着に敗れてしまった分、やや注目度が下がっている印象。絶好の狙い時かもしれません。
伊吹 十分にチャンスがあると考えている方も、さすがに今回は厳しいと見ている方も、それぞれたくさんいるはず。見方によって大きく評価が変わってくる一頭ですよね。Aiエスケープが有力視している点を踏まえたうえで、好走馬の傾向と見比べながら、この馬のプロフィールをチェックしていきましょう。
M 最大のポイントはどのあたりだと考えていますか?
伊吹 近年の天皇賞(秋)は、コース適性の高い差し馬が優勢。2018年以降の3着以内馬15頭中12頭は、“前年以降の、東京・京都の、GIのレース”において“着順が5着以内、かつ上がり3ハロンタイム順位が3位以内”となった経験のある馬でした。
M 今回と同じ東京、もしくはゴール前の直線に急坂がない京都のビッグレースで善戦してきた馬を重視したいところですね。
伊吹 ちなみに、“前年以降の、東京・京都の、GIのレース”において“着順が5着以内、かつ上がり3ハロンタイム順位が3位以内”となった経験がなかった馬のうち、前走の4コーナー通過順が2番手以下だった馬は2018年以降[0-1-0-45](3着内率2.2%)。アエロリット(2019年3着)やパンサラッサ(2022年2着)のような、超一線級の逃げ馬でない限り、この条件に引っ掛かっている馬は強調できません。
M 先程も触れた通り、ガイアフォースは2走前の安田記念で4着に食い込んだうえ、当時の上がり3ハロンタイム順位は3位タイ。この傾向は強調材料のひとつと見て良いでしょう。
伊吹 あとは馬齢も素直に評価したいところ。同じく2018年以降の3着以内馬15頭は、いずれも5歳以下でした。
M 5歳馬も3着内率が2割を切っていますし、若い馬ほど信頼できるレースと言えそうですね。
伊吹 おっしゃる通り。今年は3歳勢がエントリーしてこなかったので、4歳の各馬を中心視するべきだと思います。
M こちらもガイアフォースにとっては心強い傾向。この2条件を両方ともクリアしている馬はそう多くありません。
伊吹 ただし、前哨戦で大きく崩れてしまった点は少々気掛かり。同じく2018年以降の3着以内馬15頭中13頭は、前走の着順が3着以内でした。
M 基本的に前走好走馬が強いレースなんですね。
伊吹 該当馬が上位に食い込んだ例もあるとはいえ、さすがに評価を下げるべきでしょう。
M ただ、人気薄であることを考えると、それなりに魅力的な存在にも見えます。
伊吹 実は私も「あえて穴を狙うならガイアフォースあたりかな……」と思っていました。堅く収まったら仕方ないと割り切ることができる方にとっては、良い選択肢のひとつと言えそう。Aiエスケープが有力視しているのであれば尚更です。買い目の組み立て方を検討しつつ、この馬の最終的な位置付けを週末までじっくり考えていきましょう。
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伊吹雅也
競馬評論家。JRAの公式ホームページ内「今週の注目レース」にて“データ分析”のコーナーを、TCK(東京シティ競馬)の公式ホームページ内「分析レポート」にて重賞競走のデータ分析を担当しているほか、グリーンチャンネル、JRAのレーシングプログラム、『週刊アサヒ芸能』、『競馬王』などさまざまなメディアを舞台に活動している。主な著作に『WIN5攻略全書 回収率150%超!“ミスターWIN5”のマインドセット』、『コース別 本当に儲かる騎手大全』シリーズ、『コース別 本当に儲かる血統大全』シリーズ、『ウルトラ回収率』シリーズ(いずれもガイドワークス)など。
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