【AR共和国杯 AI予想】見解が割れる一頭! AIが挙げた注目馬の信頼度を別角度からチェック

2023年10月30日(月) 18:00

天皇賞(秋)はイクイノックスが驚異的な末脚で勝利(撮影:下野雄規)

netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。

(文・構成=伊吹雅也)

とにかく堅く収まってしまいがちなハンデキャップ競走

AIマスターM(以下、M) 先週は天皇賞(秋)が行われ、単勝オッズ1.3倍(1番人気)のイクイノックスが優勝を果たしました。

伊吹 月並みですけど「凄いものを観てしまった」というのが率直な感想です。スタートが良かったこともあってスムーズに好位へ収まり、道中は先頭のジャックドール(11着)と2番手のガイアフォース(5着)に続く3番手を追走。1000m地点の通過タイムが57.7秒と、かなり速いペースでジャックドールが引っ張っていたにもかかわらず、残り400m地点のあたりで早くも前の2頭に並びかけ、すぐ後ろを追走していたドウデュース(7着)らを引き離しにかかっています。そこからようやく鞍上のC.ルメール騎手が追いはじめ、残り200m地点のあたりで独走態勢に。

 最後は後方から伸びてきたジャスティンパレス(2着)が差を詰めてきたものの、ゴール地点までセーフティリードを守り切りました。言うなれば、逃げたGIウイナー(=ジャックドール)やマークしてきたGIウイナー(=ドウデュース)を自力で潰し、上手く流れに乗ったGIウイナー(=ジャスティンパレス)の追撃も危なげなく凌ぎ切った──ということ。こんな競馬をされてしまったら、他の馬はなす術がありませんよね。

M イクイノックスはこれでGI5連勝。勝ち時計の1分55秒2は、2011年の天皇賞(秋)でトーセンジョーダンがマークした1分56秒1を1秒近くも上回る驚異的な日本レコードでした。

伊吹 プログノーシス(3着)とダノンベルーガ(4着)の走破時計も従来の記録を上回る1分55秒8で、その2頭との差が4馬身くらいあったというのは、本当にとんでもないことです。もちろんハイペースの影響もあったと思いますが、この流れを横綱相撲で押し切ったわけですから、数字通りの価値があるパフォーマンスだったと言って良いでしょう。

M 当然ながら、次走に予定しているジャパンCでも人気が集中するのではないかと思います。

伊吹 通常であればレコード勝ちの反動を心配しなければならないところですが、今秋のイクイノックスはもともと天皇賞(秋)からジャパンCに転戦する計画だったわけですし、大きく評価を下げる必要はないかもしれません。

 ただし、前走から中5週未満の間隔でレースを使うのは今回が初めて。また、ここ2戦が阪神芝2200m内の宝塚記念と東京芝2000mの天皇賞(秋)でしたから、東京芝2400mへのコース替わりが堪える可能性もゼロとは言い切れないのではないでしょうか。

 日本の、そして世界の競馬史にその名が残るような存在だからこそ、世間の雰囲気に流されてしまわないよう気を付けながら、この馬のことを徹底的に分析し尽くしたうえで最終的な評価を下したいです。

M 今週の日曜東京メインレースは、芝中長距離路線の個性派が集まるハンデキャップ競走、アルゼンチン共和国杯。昨年は単勝オッズ17.7倍(6番人気)のブレークアップが優勝を果たしました。伏兵の台頭を期待している方も多いと思うのですが、単勝人気順別成績はどうなっていますか?

伊吹 過去10年の3着以内馬30頭中、単勝7番人気以下だった馬はわずか4頭。ハンデキャップ競走の一般的なイメージとは対照的な、堅く収まりがちなレースと見るべきでしょう。

M 上位人気グループの馬がまずまず優秀な好走率をマークしていますし、超人気薄の馬を積極的に狙うべきではなさそうですね。

伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝4番人気以内の馬は2013年以降[8-6-8-18](3着内率55.0%)、単勝5〜7番人気の馬は2013年以降[2-4-0-24](3着内率20.0%)、単勝8〜11番人気の馬は2013年以降[0-0-2-38](3着内率5.0%)、単勝12番人気以下の馬は2013年以降[0-0-0-51](3着内率0.0%)となっていました。ちなみに、2010年以降の過去13年まで集計対象を広げても、3連単の配当が10万円を超えたのは2020年(20万2520円)の1回だけ。ほとんどの年は順当な決着となっています。

M そんなアルゼンチン共和国杯でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ヒートオンビートです。

伊吹 荒れにくいレースであることを考えると、妥当なところと言えるのではないでしょうか。おそらく、上位人気グループの一角を占めることになりそう。

M ヒートオンビートは今回と同じコースで行われた2走前の目黒記念を勝っている馬。昨年のアルゼンチン共和国杯でも勝ち馬と0.2秒差の3着に食い込みました。実績上位で、なおかつコース適性の高さも証明済みですから、今回もそれなりの支持が集まるのではないかと思います。

伊吹 信頼するにしろ疑ってかかるにしろ、買い目作りのポイントとなる一頭ですよね。Aiエスケープが中心視しているという事実を踏まえたうえで、好走馬の傾向とこの馬のプロフィールを比較していきましょう。

M 真っ先に注目しておくべきファクターはどのあたりだと見ていますか?

伊吹 臨戦過程はしっかりチェックしておきたいところ。前走の着順が3着以内だった馬は2015年以降[4-4-5-22](3着内率37.1%)と比較的堅実です。一方、前走の着順が4着以下・競走中止だったにもかかわらず3着以内となった11頭のうち7頭は、前走の条件がGI・GII、かつ前走との間隔が中6週以上でした。

M 前走好走馬を除くと、その前走が今回より格の低いレースだった馬や、前走との間隔が詰まっている馬は不振──ということでしょうか。

伊吹 おっしゃる通り。ちなみに、前走の着順が4着以下・競走中止、かつ前走のレースが京都大賞典だった馬は、2015年以降[0-0-0-19](3着内率0.0%)とまったく上位に食い込めていません。

M ヒートオンビートは前走の京都大賞典で9着に敗れたばかり。やや気掛かりな傾向です。

伊吹 あとはキャリアも重視したいところ。同じく2015年以降の3着以内馬24頭中16頭は、出走数が16戦以内でした。

M キャリア17戦以上で馬券に絡んだ馬も決して少なくはありませんが、好走率には大きな差がついていますね。

伊吹 今年もキャリア16戦以内の馬がそれなりの割合を占めていますし、ベテラン勢は扱いに注意するべきでしょう。

M ヒートオンビートはキャリア25戦。この傾向に従うならば、疑ってかからざるを得ません。

伊吹 さらに、同じく2015年以降の3着以内馬24頭中19頭は“同年の、JRAのレース”において“着順が1着、かつ4コーナー通過順が7番手以内”となった経験のあった馬。こちらの該当馬も好走率が優秀です。

M なんと、ヒートオンビートにとって不安要素となる傾向がまだあったとは……。

伊吹 ただし、この経験がなかったにもかかわらず3着以内となった5頭は、いずれも“前年以降の、東京・中山の、GI・GIIのレース”において“着順が3着以内、かつ上がり3ハロンタイム順位が2位以内”となった経験のある馬でした。関東圏のGIやGIIを主戦場としてきた馬は相応に高く評価して良さそうですし、こちらの条件はヒートオンビートもクリアしています。

M 強調材料もなくはない、といったところでしょうか。

伊吹 まぁ、人気の中心となりそうな馬ですし、私の立場からすると、重いシルシを打つわけにはいきません。もっとも、これだけの実績がある馬で、他ならぬAiエスケープも有力と見ているわけですから、無理に嫌う必要はないはず。最終的なオッズも踏まえたうえで、買い目上の位置付けをじっくり検討するつもりです。

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伊吹雅也

競馬評論家。JRAの公式ホームページ内「今週の注目レース」にて“データ分析”のコーナーを、TCK(東京シティ競馬)の公式ホームページ内「分析レポート」にて重賞競走のデータ分析を担当しているほか、グリーンチャンネル、JRAのレーシングプログラム、『週刊アサヒ芸能』、『競馬王』などさまざまなメディアを舞台に活動している。主な著作に『WIN5攻略全書 回収率150%超!“ミスターWIN5”のマインドセット』、『コース別 本当に儲かる騎手大全』シリーズ、『コース別 本当に儲かる血統大全』シリーズ、『ウルトラ回収率』シリーズ(いずれもガイドワークス)など。

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