また新たな5Gに

2024年07月25日(木) 12:00

 史上初めてJRAを挟んで地方に復帰する小牧太騎手が、先週の日曜日、JRAのラストライドを勝利で飾った。鹿児島出身の彼にとって地元とも言える小倉で、一昨年の10月2日以来658日ぶりの勝利となるJRA通算911勝目をマークした。地方競馬に縁のある矢作芳人調教師が管理する12番人気のモズアカボスを勝利に導き、単勝5780円という高配当をファンにプレゼントした。

 ドラマチックな旅立ちを演出した小牧騎手は、7月31日にJRAの騎手免許が取消となり、8月1日に地方競馬の騎手免許が発効。同日、園田競馬場で「ファン紹介式」が行われ、8月14日から園田で騎乗を再開する予定だという。

 私にとっても小牧騎手は大きな存在で、何といっても、贔屓のスマイルジャックで2008年のスプリングSを勝ち、日本ダービーで2着になったことが思い出に残っている。

 もうひとつ個人的に忘れられないのは、彼がマカニビスティーで2012年のドバイゴールドCに臨んで10着となったあとの囲み取材のことだ。騎手であれ、調教師であれ、あるいは別の競技の選手であれ、囲み取材をしたことのある人なら一度は経験していると思うのだが、あのとき、私から何か質問したわけではないのに、小牧騎手はずっと私の目を見て質疑応答をつづけた。

 時は前後するが、2008年のドバイデューティーフリー(現ドバイターフ・アドマイヤオーラ、9着)と2009年のドバイワールドC(カジノドライヴ、8着)に騎乗した安藤勝己さんの囲み取材でも同じことがあった。そのときは追い切り後の取材だった。

 小牧騎手もアンカツさんも、私が誰なのかを認識はしていなかったはずだ。なのに、2人とも、終始私に向かって話しつづけた。私の顔に何かついていたのかもしれないが、訊かれて答える生活をつづけている人は、そうして言葉を向ける対象を固定したほうが話しやすいことをわかっているからそうしたのか。その対象は誰でもいいのだが、たまたま体を向けた正面に立っていたり、頷くタイミングがちょうどよかったりしたので、そのまま目を逸らさずにいたのだろう。念のため加えておくが、小牧騎手もアンカツさんも、こちらを睨みつける感じではなかった。かといって、目が合った瞬間「おう、あんたか」といったふうに表情を変えたわけでもなく、ただ静かな目でこちらを見ていたのだ。

 さて、JRAで年齢が上から2番目だった小牧騎手が兵庫に戻ることにより、JRA騎手界の「5G(ファイブジー)」のメンバーが、また変わることになる。

 昨秋、熊沢重文さんが引退したことで、5Gは、上から「柴田善臣、小牧太、横山典弘、武豊、内田博幸」になっていた。それが今回どう変わるかは、クイズにしてもいいくらい、ちょっと難しい。正解は「柴田善臣、横山典弘、武豊、内田博幸、岡田祥嗣」である。

 岡田騎手は1971年10月16日生まれの52歳。誕生日が来て53歳。本稿がアップされる翌日54歳になる内田騎手より1歳下だ。

 では、岡田騎手の次、現時点で「5G予備軍」の先頭に立っているのは誰かというと、1972年2月8日生まれ(52歳)の江田照男騎手で、その次が1974年3月12日生まれ(50歳)の岩田康誠騎手、1975年4月19日生まれ(49歳)の吉田豊騎手とつづく。

 騎手は、極限の瞬発力や持久力を競うわけではない。だから、どの国にも一線級で活躍する四十代や五十代の騎手がいるわけだが、それにしても、彼らのタフネスぶりには驚かされる。

 柴田善臣騎手は、7月30日に58歳になる。勝つたびにJRA最年長勝利記録を更新するのだから、「歩くレコードブック」と言ってもいい。

 前にも書いたかもしれないが、彼がジャスタウェイで2014年の安田記念を勝ったあとの共同会見で、「この勝利で自身にとってプラスになったことは?」という質問に対し、「特にないと思います」と答え、そりゃそうだろうという感じで笑いが起きたのだが、あれからさらに10年が経過しているのだ。

 善臣ジョッキーをはじめとするベテランも、もちろん中堅も、若手も、これからも怪我なく乗りつづけてほしい。

 今週末(7月27、28日)と来週末(8月3、4日)の新潟開催で、暑熱対策として初めて昼休みが設定される。

 相馬野馬追も人馬の熱中症対策として、7月下旬の開催が、今年から5月下旬となった。おかげで、晴れても酷暑ではない気持ちいい陽気となり、「世界最大級の馬の祭り」を、担い手も観客も楽しむことができた。

 レースの時間帯が変わると、競馬場周辺の交通状況などにも影響があるはずだ。それらを含め、意外な「昼休み効果」も出てきそうな気もして、楽しみである。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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