2024年08月25日(日) 18:01
▲札幌2歳Sに挑むキングスコールについて久保公二調教助手にインタビュー(撮影:山中博喜)
パドックで放馬しながらも、その後の新馬戦をあっさりと勝ったキングスコール。レコードタイムでの勝利でもあり、底知れぬポテンシャルを感じさせました。
一方で陣営にとっては苦労も絶えないようですが、「札幌2歳Sはかなり好勝負になるはず」と期待を寄せます。デビュー前、同馬の調教に騎乗した矢作芳人厩舎・久保公二調教助手に伺いました。
※同馬は札幌2歳S回避が発表されました
(取材・構成:大恵陽子)
──入厩した頃の様子から教えてください。
久保 入厩初日に鞍をつけて馬房から出した時にいきなりボーンと立ち上がって、全然降りてきませんでした。ずっと立ちっぱなしのこの馬を見て、「あぁ、僕は今からこの馬に乗るのか……」と思いました(苦笑)。僕が乗った状態で厩舎の後輩に引っ張ってもらいながらも、今にも立ちそうな歩き方をしていました。1分ほどして危なそうだったので、「もういいよ。危なそうやから離して」と言って30秒もしないうちに落とされました。立ち上がって降りてこないから、ズルズルズルッと。新馬戦を使うまではずっとそんな感じでした。
──なかなかのやんちゃっぷりですね。
久保 ドゥラメンテ産駒の牡馬はそういう馬が多いです。堀厩舎(ドゥラメンテを現役時代に管理)の友達に「この馬、ドゥラメンテ産駒やで」と言ったら、「やっぱりドゥラメンテに似てるわ。目つきがヤバそう」と。そういうところは親父に似たのかなと思います。担当しているミスタージーティーは同じドゥラメンテ産駒でもあんなに大人しいのに。
──日本ダービーのゆるい出馬表に出ていただいた時、ミスタージーティーは鼻先を撫でると舌を出すとおっしゃっていましたね。
久保 めっちゃ可愛いんですよ、牡馬なのに。まぁ、ミスタージーティーが特殊なんでしょうね。何頭かドゥラメンテ産駒を担当したことがあるんですけど、元気すぎる馬が多かったですね。その中でも特にキングスコールは抜けています。
24年5月ゆるい出馬表でのミスタージーティーと久保公二調教助手(撮影:大恵陽子)
──元気すぎる気性とレースでの爆発力は表裏一体のように感じます。
久保 キングスコールも調教はすごく真面目なんです。全然物見をしないし、真っ直ぐ走るし、抑えれば収まって、行けと言ったら行って、手前を替えるのも上手。「なんやこの馬、完璧やな」と驚きました。
──新馬戦でも好スタートを決めましたよね。
久保 ゲート練習の時からビックリするくらい速かったんです。ボーンって出たので、自分の体が置いていかれそうなくらいで「おぉー!」となりました。1日だけ練習して、翌日にはゲート試験に合格しました。
──新馬戦では向正面で早めに後続馬が来ましたけど、そこも問題ありませんでしたね。
久保 良血馬や高額馬もいて注目の一戦でしたけど、「出走したらたぶん勝てるだろう」と思っていたので、捲られても気になりませんでした。ただ、レースの前に馬か人か、どちらかが怪我するで、と言っていたんです。
──気性を聞くと、たしかに。
久保 ご存知の通りパドックで放馬して、僕だけが怪我しました。騎乗命令がかかった後に立ち上がって、なかなか降りてこずに前脚をバタバタさせていて、2〜3回くらいは引き手を上手く逃すことができたんですけど、最終的に前脚と絡まってしまって、引き手を離した時に腕を蹴られてしまいました。
──放馬して走っていきましたが、パドックの出口でちゃんと止まりました。
久保 その辺りは賢かったですね。でもその後、捕まえたうちのスタッフも蹴られていました。藤岡佑介騎手にも「この馬、ヤバいから」と何度も伝えていました。「でも、走り出したら真面目。この馬、絶対走るから」とも。
──パドックでの挙動からデビュー勝ちまで、予想通りになりましたね。
久保 クラブの馬で、口取り撮影には会員さんもいらしていて何かあってはいけないので、写真は馬だけ少し離れたところにいるんです。僕は腕を3針縫って肋骨も傷めて、レース後には「二度とやらへんから」って言いました。
▲馬が離れたところにいる新馬戦での口取り写真(撮影:山中博喜)
──素質は光るモノがありますけど、嵐のような一日を思うと、何とも。そういえば、パンサラッサも「僕には無理です」という方がいたことで、池田康宏厩務員(当時)の元に戻ってきたとか。
久保 それ、僕です。福島記念の時に担当していて、大変でした。福島記念を勝って、有馬記念前に「パンサラッサが帰ってくるけど、どうする?」と聞かれて「二度とやりません」と言ってしまったんですよね。やればよかった! ドバイターフやサウジCを勝つなんて、その時は思いもしませんでした。
──久保助手が投げ出した馬は走る説が…(苦笑)。
久保 おかげで池田さんは超有名人になって、引退したいまもトークライブとかを開いて忙しそうにしています。
▲パンサラッサとのコンビで知られた池田康宏元厩務員(撮影:下野雄規)
──netkeibaコラムでも何度もお世話になりました。馬と担当者は相性も大いに関係あるでしょう。さて、キングスコールはこの中間にソエが出たとのことですが、矢作芳人調教師からはどう聞いていますか?
久保 牧場に帰ってソエが出ましたけど軽かったようで、8月上旬にうちの先生が見に行って「これなら大丈夫だろう」ということで札幌2歳Sに使うことが決まったようです。
──これからの成長が楽しみですね。
久保 調教に乗っていて、「こりゃ走るわ」と思うような馬で、のびしろもあると思います。来年に定年予定の厩務員さんが担当で、札幌2歳Sも調教の感じではかなり好勝負になると思っています。
(文中敬称略)
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