2024年09月23日(月) 18:00
単勝オッズ1.5倍(1番人気)のレーベンスティールが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
AIマスターM(以下、M) 先週はオールカマーが行われ、単勝オッズ1.5倍(1番人気)のレーベンスティールが優勝を果たしました。
伊吹 想像していたものとは少々異なる形でしたが、能力の差をまざまざと見せつけた、圧巻の勝利と言って良いのではないでしょうか。好スタートを決めてポジションを取りに行き、逃げたアウスヴァール(2着)やそれに続いたリカンカブール(3着)のすぐ後ろで1コーナーから2コーナーを通過。このあたりでは行きたがるような素振りを見せていたものの、鞍上のC.ルメール騎手がなだめたこともあってか、向正面までに難なく落ち着きを取り戻しています。
その後、3コーナーから4コーナーにかけて内のサリエラ(12着)、外を進んでいたサヴォーナ(4着)らが進出を図る中、無理に押し上げることなくゴール前の直線へ。すぐ前をリカンカブールに、外への進路をサヴォーナに塞がれる形となりましたが、残り200m地点のあたりでリカンカブールの内に潜り込むと、最後はアウスヴァールとリカンカブールの間をこじ開けるように伸びて両馬をかわし切りました。冷静に振り返ってみると危うい場面はいくつかあったわけで、それをまったく感じさせなかったあたりが凄いところ。少なくともこのレースにおいては、人馬とも頭ひとつ抜けた存在だったようです。
M レーベンスティールは昨秋のセントライト記念、前走のエプソムCに続く自身3度目の重賞制覇。母の父が1991年の日本ダービーなどを制したトウカイテイオーということで、オールドファンからも注目を集めています。
伊吹 残念ながら私はトウカイテイオーの時代に間に合わなかったのですが、競馬ファンとなった直後の時期にその足跡を知ったり、諸先輩方が熱く語っているところを見たりして、「この馬はリアルタイムで追いかけたかったな……」と強く思いました。JRAのレースに出走したトウカイテイオー直仔は、2017年9月2日の小倉6R(3歳未勝利)で16着となったトウカイフォーゲルが最後。
母の父にトウカイテイオーを持つJRA所属の現役馬も現在のところ8頭だけで、そのうちJRAのレースを勝ったことがあるのは、レーベンスティールとオオキニ(平地2勝、障害1勝)、ディープレイヤー(平地2勝)の計3頭だけです。このレーベンスティールが種牡馬入りできるか否かによって、血統表内にトウカイテイオーを持つ馬の総数は大きく変わってきそう。今後も目が離せませんね。
M オールカマーを制したことで、レーベンスティールは天皇賞(秋)への優先出走権を獲得。出走してきたらかなりの人気が集まるのではないでしょうか。
伊吹 父リアルスティールは2016年の天皇賞(秋)が2着どまり、2017年の天皇賞(秋)が4着どまりでしたし、母の父トウカイテイオーは1992年の天皇賞(秋)で7着に、母の父の父シンボリルドルフは1985年の天皇賞(秋)で2着に敗れています。血縁のある歴史的名馬がこのレースを勝ち切れていない点は少々気になるものの、レーベンスティール自身にとってはベストと思しき舞台。使ってくるならば本当に楽しみです。
M 今週の日曜中山メインレースは、下半期の短距離チャンピオン決定戦、スプリンターズS。昨年は単勝オッズ4.9倍(3番人気)のママコチャが優勝を果たしました。なお、その2023年は単勝オッズ14.0倍(6番人気)のマッドクールが2着、単勝オッズ2.9倍(1番人気)のナムラクレアが3着となって、3連単の配当は1万7140円どまり。今年も堅めの決着をイメージしておいた方が良いのでしょうか。
伊吹 2022年こそ3連単46万8950円の高額配当決着でしたが、2019年は3連単6080円、2020年は3連単2万2540円、2021年は3万8610円。近年に限れば、大きな波乱が比較的起きづらいレースと言えます。
M ただ、過去10年の単勝人気順別成績を見ると、人気薄の馬が上位に食い込んだ例も決して少なくありません。
伊吹 単勝14番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-31](3着内率0.0%)だったものの、単勝4番人気から13番人気の馬は2014年以降[2-5-8-85](3着内率15.0%)。ちなみに、このうち単勝9番人気から単勝13番人気の馬は2014年以降[1-2-5-42](3着内率16.0%)でした。2018年以前は単勝二桁人気クラスの馬もたびたび馬券に絡んでいましたから、魅力ある伏兵が見つかったら積極的に狙って良いと思います。
M そんなスプリンターズSでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、サトノレーヴです。
伊吹 ある意味、ちょっと意外なところを挙げてきましたね。今回のメンバー構成なら、かなりの支持が集まりそう。
M サトノレーヴはキャリア9戦の5歳馬。長期休養明けだった4走前の阪急杯こそ4着どまりだったものの、3走前の春雷S、2走前の函館スプリントS、前走のキーンランドCを3連勝しています。サマースプリントシリーズチャンピオンのタイトルを獲得し、新興勢力ながらも実績は十分。単勝1番人気の立場でレースを迎えることになるかもしれません。
伊吹 どちらかと言えば穴党のAiエスケープがこの馬を推奨してきたということは、人気薄が予想される各馬にそれほど魅力を感じなかったということなのでしょう。この見立てを踏まえたうえで、私はレースの傾向からサトノレーヴの信頼度を測っていきたいと思います。
M 最初にチェックしておくべきポイントはどのあたりですか?
伊吹 近年のスプリンターズSは、年明け以降の戦績が重要。2019年以降の3着以内馬15頭は、いずれも同年に中央場所の4場か中京で施行された重賞ならびにオープン特別を勝っていました。
M 思いのほかはっきりと明暗が分かれていますね。
伊吹 しばらく勝ち切れていない馬はもちろん、中京を除くローカル各場のレースしか勝っていない馬も、過信禁物と見るべきでしょう。
M 先程も触れた通り、サトノレーヴは3走前に中山芝1200m外で施行された春雷Sを制している馬。このあたりは強調材料のひとつと言って良さそうです。
伊吹 あとはキャリアの浅い馬が優勢である点も意識しておきたいところ。同じく2019年以降の3着以内馬15頭中10頭は、キャリア14戦以内でした。
M 古馬GIであることを考えると、「キャリア14戦以内」というのは相当に高いハードル。実際、今年も出走予定馬の大半がこの条件に引っ掛かっています。
伊吹 ちなみに、出走数が15戦以上、かつ“同年の、JRAの、重賞のレース”において1着となった経験がない馬は2019年以降[0-0-0-32](3着内率0.0%)。年明け以降に重賞を勝っているくらいの実績馬でない限り、キャリア15戦以上の馬は強調できません。
M キャリア9戦のサトノレーヴにとっては、こちらも心強い傾向です。
伊吹 さらに、前走の着順が2着以下、かつ前走の1位入線馬とのタイム差が0.2秒以上だった馬は2019年以降[1-2-3-53](3着内率10.2%)といまひとつ。しかも、3着以内となった6頭のうち4頭は、年明け以降に中山芝1200m外のレースで連対を果たしている馬でした。
M 前走好走馬やコース適性の高い馬に注目――といったところでしょうか。
伊吹 おっしゃる通り。コース替わりがプラスに働きそうな馬はともかく、そうでない馬は直近のパフォーマンスを素直に評価するべきだと思います。
M サトノレーヴは前哨戦のキーンランドCを快勝している馬。これといった不安要素が見当たりませんね。
伊吹 一応付け加えておくと、枠番が6枠から8枠の馬は2019年以降[0-1-1-28](3着内率6.7%)。近年は外寄りの枠に入った馬が期待を裏切りがちでした。もっとも、これだけ強調材料が多いわけですし、他ならぬAiエスケープも素直に信頼した方が良いと見ているわけですから、変に疑ってかかる必要はないでしょう。たとえ枠順に恵まれなかったとしても、ある程度は重いシルシを打つつもりです。
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伊吹雅也
競馬評論家。JRAの公式ホームページ内「今週の注目レース」にて“データ分析”のコーナーを、TCK(東京シティ競馬)の公式ホームページ内「分析レポート」にて重賞競走のデータ分析を担当しているほか、グリーンチャンネル、JRAのレーシングプログラム、『週刊アサヒ芸能』、『競馬王』などさまざまなメディアを舞台に活動している。主な著作に『WIN5攻略全書 回収率150%超!“ミスターWIN5”のマインドセット』、『コース別 本当に儲かる騎手大全』シリーズ、『コース別 本当に儲かる血統大全』シリーズ、『ウルトラ回収率』シリーズ(いずれもガイドワークス)など。
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