【競走馬の感情を読む】「みんな速いなぁ」「寄ってくるなよ!」「もうええわ」──レース中に伝わってくる競走馬たちの“気持ち”とその使い方【後編】

2024年10月03日(木) 18:01

“VOICE”

▲川田将雅騎手が前編に続き競走馬の感情を解説(撮影:福井麻衣子)

前回、レース前の競走馬との感情のやりとりについて語った川田騎手。今回は特にレース中の競走馬に注目して解説いただきます。

騎手は常に全力で走ってほしいと願いますが、馬は「みなさんが想像している以上に感情が豊か」だそうです。GIホースたちも例に挙げながら、言葉を使わない繊細なコミュニケーションの世界をお話しいただきました。「気持ちの使いどころ」が勝敗に与える“大きな影響”とは──。

前編はこちら▼

【競走馬の感情を読む】競走馬との感情のやり取り──競馬でコントロールするための絶対的に必要なパワーバランス【前編】

(取材・構成=不破由妃子)

レース後コメントで“リズム”を多用する理由

──前回は、レース前の感情のやり取りを中心にお話を伺いましたが、レース中もあのスピードのなかで競走馬の感情をコントロールされているわけですよね?

川田 レース中の競走馬の感情は、さらに複雑で難解です。見ているだけでは馬の感情なんて絶対にわからないし、乗っている僕だって、本当にその馬の感情を100%理解できているかどうかはわからない。もちろん、僕なりに感じてはいますけど、それが合っているかどうかは確かめようがありませんから。ただ、初めて乗る馬だろうが、何度も乗っている馬だろうが、その馬が発したサインに対して敏感であること。これはすごく大事なことだと思っています。

──それによって、レースの組み立ても変わってきますものね。

川田 もちろん組み立ても重要ですが、それ以上に大事なことがあって。たとえば、ノリさん(横山典弘騎手)が「今日は走る気がなかった」というようなコメントをされることがあるじゃないですか。あのコメント、実はとても奥が深くて。ただやる気になれないだけなのか、気分が乗らない、機嫌を損ねただけなのか、もしくは体のどこかに痛いところがあって自分を守ろうとしているのか。いずれにしても、馬が走る気になれない何かがあるわけです。それに敏感に反応するというのは、ジョッキーとしてすごく大事なことで。

──確かに。馬の感情に敏感であることで、事故を防いだり、命を守れる可能性も高くなる。

川田 競走馬は、みなさんが想像している以上に感情が豊かです。たとえばレース中で言うと、「行きたい」とか「我慢したくない」という感情は表面に現れるかもしれませんが、それ以外にも「ペースが遅いなぁ」とか「みんな速いなぁ」とか「なーんか嫌だなぁ」とか。あとは、「寄ってくるなよ」とかね(笑)。

“VOICE”

▲言葉がなくても伝わってくる馬の色々な気持ち(撮影:福井麻衣子)

──人間に置き換えればわかりやすいと思いますが、生き物ですから、さらにその日によっても気分が違ったりすると。

川田 もちろんです。いろいろな感情を自分なりに受け取りながら、なんとか前向きに走れるように持って行く。それがジョッキーの仕事です。とはいえ、「今日は走りたくないなぁ」と思っている馬を無理やり前向きにさせるのはとても難しい。馬自身がやる気になってくれなければ、ちゃんと走ることはできませんからね。

 なんとかやる気になってもらえるように気持ちを作りに行ったとして、「よし、頑張ろう!」と思ってくれる馬もいれば、「ちょっと頑張ってやるか」という馬もいるし、「やっぱり今日は頑張らない」という選択をする馬もいる。1頭の馬でもその日によって違いますし、もともと感情の波が大きい馬、小さい馬もいる。気持ちに波が少なければ安定した成績を残せるでしょうし、感情の振り幅が大きい馬は、波のある戦績になる。

──いわゆるムラ駆けというヤツですね。ちなみに、『ダービースタリオン』で“勝負根性”という評価項目がありますが、実際に追い比べになったとき、「負けたくない!」という気持ちが伝わってきたりするんですか?

川田 伝わってきますよ。わかりやすいところで言うと、・・・

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川田将雅

1985年10月15日、佐賀県生まれ。曾祖父、祖父、父、伯父が調教師という競馬一家。2004年にデビュー。同期は藤岡佑介、津村明秀、吉田隼人ら。2008年にキャプテントゥーレで皐月賞を勝利し、GI及びクラシック競走初制覇を飾る。2016年にマカヒキで日本ダービーを勝利し、ダービージョッキーとなると共に史上8人目のクラシック競走完全制覇を達成。

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