【広富牧場】天皇賞(秋)参戦のレーベンスティール──母父トウカイテイオーの重賞馬が生まれた物語

2024年10月20日(日) 18:01

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▲天皇賞(秋)に出走予定のレーベンスティール(写真は2020年のもの、提供:広富牧場)

天皇賞(秋)に参戦する重賞3勝馬レーベンスティール。鮮烈な末脚が魅力的な同馬のふるさとは、北海道日高町にある広富牧場です。生産馬のGI初制覇がかかる今回、スタッフの高橋三千代さんにお話を伺いました。

母父トウカイテイオーという話題を呼んだ血統背景には、家族経営で続けてきた牧場の歴史が詰まっていました。当歳時の様子や親仔の関係、愛情あふれる応援メッセージもお届け。1頭の競走馬が生まれ、セリに至るまでどんな過程を経たのか…知られざるレーベンスティールの“物語”に迫ります──。

(取材・文:佐々木祥恵)

レーベンスティール誕生に繋がる馬を大切にする考え方

──まずレーベンスティールの血統についてですが、この母系は曾祖母のベイリーフスイータが広富牧場で繁殖として繋養されたのが最初ですね。

高橋 はい。私がまだ学生の頃に半年弱くらいの短い期間競走馬だったのですが、両親がとても素晴らしく良い馬だと話をしていたのがベイリーフスイータについて聞いた最初でした。

──そのベイリーフスイータが繁殖となった後はどうだったのですか?

高橋 ウラ筋を痛めて競走馬を引退したのですが、父がこの馬に良い種馬を交配すれば行った先で可愛がってもらえたり中央で走ることができるのではないかと、その一念で種付けを始めました。それまでは経済的なこともあり、高くはなく面白味のある種馬を付けていたのですが、ベイリーフスイータに父はスイッチが入ったようです。

──種牡馬の質が変わったのですか?

高橋 トニービンやリアルシャダイと高い種馬を付け始めました。そんな時に父がその馬たちを置いて癌で亡くなってしまいました。私が26歳の時でした。

──それで牧場を引き継いだわけですね?

高橋 命を落とすまで仕事をやらなければいけなかったのだろうか、そうまでして牧場を続けなければいけないのだろうかと最初は苛立ちがありました。けれども父がそこまでしたのには、一念があったのでしょうし、私にもスイッチが入って気持ちを切り替えて父から伝えられたことをすべて遂行しました。

──お父様が存命中にベイリーフスイータに配合したリアルシャダイとの間にできた産駒がファヴォリで、ファヴォリからレーベンスティールの母トウカイライフが生まれて...この血の継承はお父様の強い思いがあったからこそですね。

 ファヴォリは新冠町産のトウカイテイオーを種付けしていますね?

高橋 リアルシャダイの肌にトウカイテイオーの配合は走っているのはわかっていました。アイルランドに半年間研修に行かせてもらった時に、二風谷ファームの稲原昌幸さんも一緒だったんです。

──二風谷ファームはトウカイテイオーの育成先ですね。

高橋 それもあって稲原さんから話は聞いていましたし、リアルシャダイの肌にトウカイテイオーの配合が走っているのもわかっていました。私の母もいつテイオーを付けるんだと思っていたでしょう。でも私はトウカイテイオーの血統がどういう風に形付けられていくのかの流れを見たかったんです。それからファヴォリに付けたので、リアルシャダイ肌にテイオーの配合が走っている時期より少しずれています。

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▲配合の要になった名馬トウカイテイオー(c)netkeiba

──それでもトウカイライフは4勝しましたし、母としてもレーベンスティールを送り出すという大きな実績を残しました。

高橋 実はレーベンスティールは、トウカイライフを1年空胎にしてお休みさせた後に生まれた子なんです。(繁殖牝馬に)休みは必要だと思っています。

──馬を大切になさっているのですね。それがレーベンスティール誕生に繋がったと思いますが、そのトウカイライフにリアルスティールの種付けを決めた経緯を教えてください。

高橋 経済的に1番高いクラスの種馬は付けられないので、真剣に競馬の内容のある馬を探しました。リアルスティールは大きなレースを総なめしたわけではなかったですけが、負けてても強い内容の良い競馬をしていたので、付けることに決めました。

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▲レーベンスティールの母トウカイライフ(写真は2020年のもの、提供:広富牧場)

馬と上手に過ごせても…人間には“嫌”のサイン!?

──レーベンスティールが生まれた時の印象は? 

高橋 今はそんな感じはしないのですが、脚が長かったですね。そしてムキムキでした。

──当歳時はどのような性格でしたか?

高橋 当歳同士のグループの中では強い馬ではなかったですが、仲間たちから逃げ惑うわけでもなく、上手に相手と遊んだりして群れの輪の中でうまく過ごしていました。ところが人間に対しては、まずは「嫌」から入りました(笑)。

──例えばどのように嫌というサインを出すのですか?

高橋 ウチは放牧、収牧時に手綱で曵くのではなく、馬の左側から肩を抱くようにして2列に並んで歩くんですね。これを「肩抱っこ」と呼んでいるのですが、研修先のアイルランドでも行っていましたし、JRAの指針通りでもあるのですが、生まれた時からずっと肩抱っこを実践していると馬の全身を触れるようになります。

 ところがレーベンスティールはいざ治療をする時や、馬が成長して小さくなったもくし(無口)を替える時に、まず最初に嫌だと言います。トウカイライフの仔はすべてそうなのですが、とにかく落ち着いて人間が接すれば馬の方も平常心でいられると思います。

──母トウカイライフとレーベンスティールとの関係は?

高橋 お母さんはずるいと言えばずるいんですよ。何かを要求されるのは子供のレーベンばかりですよね? 予防接種とかもくしをしょっちゅう取り替えるとか。そういう時はチラッと見て「子供が何かされてるな。私知らない」という顔をして「自分は自由にしていよう」というような、そんなお母さんですね。

 あとトウカイライフは離乳の時期が自分でわかるみたいです。その前日まで可愛がっていても、翌日にはこの子はもう面倒みなくていいかなと思うのか、ピタッと子供を呼ばなくなります。

──牧場での呼び名は?

高橋 ウチの場合お父さんの名前で呼んでいます。レーベンスティールの場合だと「リアルスティール」が呼び名です。「あのリアルスティールを連れて来て」というようにですね。

──成長したレーベンスティールは1歳時のセプテンバーセールに上場されましたが、実際評判はどうだったのでしょうか?

高橋 セリ会場に行くまでは評価はわかりませんでした。ただ私自身は好きな馬でしたし、誰かに評価してもらいたいなという馬だったのは確かです。展示の時にわざわざ戻って来てまた見てくれる方がいた時には、評価をされているとすごく嬉しかったですね。

──セリ当時を振り返っていかがですか?

高橋 セリ当日に見たレーベンは、妙に太かったりガッチリし過ぎない私の望んだ通りの姿でした。後期育成(高橋さんの兄が経営するベーシカル・コーチング・スクール)で、最後の日まで夜間放牧をして、やるべき運動をしてセリ会場に連れてきてくれたのですけど、柔らかくて良い筋肉を作ってくれたなぁと思いながら見てました。なので中間育成、後期育成に携わってくれたスタッフたちには感謝しています。

──そして1900万(税別)でノーザンファームに落札されました。(馬主は有限会社キャロットファーム)

高橋 ノーザンファームが、レーベンだけを一本釣りで購買して引き揚げて行ったと聞きました。

──それだけ評価が高かったということですよね。今回生産馬のGI初制覇がかかりますが、当日は東京競馬場で観戦される予定ですか? 

高橋 生き物を扱っていますから何事もなければなのですが、初めてのGIに出走するのに現地に行かないのは馬に対して失礼かなとも思います。その大舞台まで行ける仔は何十年に1頭ですから。

──高橋さんの従兄弟の娘さんたちが持たれていたウマ娘のぬいぐるみや手作りの団扇が話題になりましたが、天皇賞(秋)バージョンを制作する予定はあるようですか?

高橋 母方の従兄弟の娘にあたります。従兄弟家族が何故、競馬場に呼ばれるか? ですが、父が亡くなる8ヶ月と私がアイルランドに6ヶ月間研修に行っていた冬季間を支えてくれていました。従兄弟は千葉で保育園を経営していて、娘たちはレーベンをはじめ馬のものを作って手作りの額に入れて飾ったりしているんです。ゴージャスな額も良いですけど、手作りのものって良いですよね。今回も何か作ってと丁度彼女たちに言おうかなと考えていたところです。

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▲口取りでの応援グッズが注目されたセントライト記念(撮影:下野雄規)

──牧場で大切にしてきた血統から誕生したレーベンスティールがいよいよ天皇賞(秋)に出走します。最後に彼へのメッセージをお願いします。

高橋 レーベンに対してなのかと言ったらそうでは無いのかもしれないですけど...。この馬を本当に応援してくださっている方々、この馬が出来上がるまでに関わってきた方々など皆の中でレーベンは走っていると思うんですよね。それに対して応えてほしい、皆が納得するレースをしてほしい、例え勝てなかったとしても次に繋がるレースをしてほしいです。できれば皆のためにフェアな競馬で勝ってほしいですね。

(文中敬称略)

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