2025年03月10日(月) 18:00 19
単勝オッズ16.9倍(7番人気)のファウストラーゼンが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
AIマスターM(以下、M) 先週は弥生賞が行われ、単勝オッズ16.9倍(7番人気)のファウストラーゼンが優勝を果たしました。
伊吹 お見事と言うほかありません。スタート自体は五分でしたが、ダッシュがつかず後方のポジションで1コーナーから2コーナーを通過。しかし、向正面に入ってすぐ進出を開始すると、ハナに立っていたヴィンセンシオ(2着)を残り800m地点の手前でかわし、単独先頭で3コーナーに入っています。4コーナーを周り切るところで再びヴィンセンシオが並びかけてきたものの、残り200m地点のあたりでもう一度突き放し、単独先頭のままゴール前へ。結局、中団から伸びてきたアロヒアリイ(3着)らに対してもセーフティリードを保ったまま入線しました。ファインプレイで勝利に導いた鞍上の杉原誠人騎手はもちろん、超早仕掛けの影響を感じさせない脚色で押し切ったファウストラーゼン自身のパフォーマンスも素晴らしかったですね。人気薄の立場だったとはいえ、今回のメンバー構成においては力が一枚上だったと見て良いのではないでしょうか。
M ファウストラーゼンは重賞初制覇。前走のホープフルSでも、単勝オッズ303.3倍(17番人気)の低評価を覆して3着に食い込んでいます。
伊吹 最終的に◎を打った私が言うのも何ですけど、ここまで綺麗に前走のような競馬を再現してくれるとは思っていませんでした。父は2018年の安田記念や2020年のフェブラリーSを制したモズアスコットで、現3歳世代が初年度産駒。牝馬路線でもモズナナスターやリリーフィールドが健闘していますし、上級条件で活躍する産駒がこれからまたさらに増えてくるかもしれませんね。また、母のペイシャフェリスも現役時代にオープン特別を2勝している活躍馬。1マイル前後のレースを主戦場としていた両親とは少々異なるタイプですが、大舞台でも十分に通用しそうな、ポテンシャルの高い血統と言えるでしょう。
M そうなると、次走の皐月賞も楽しみですね。
伊吹 初勝利を収めた3走前も単勝オッズ22.7倍(6番人気)どまりと、典型的な人気になりにくいタイプ。「より強力なメンバーを相手にどこまで通用するかはわからない」「今回のような作戦がそう何度も成功するとは思えない」などといった理由で嫌われてしまい、本番でも人気の盲点となる可能性は十分にあります。ただ、私はマクリ以外の競馬もできる馬だと思っていますし、能力やコース適性の高さはここ2戦で証明済み。しっかりマークしておくべきでしょう。
M 今週の日曜中山メインレースは、弥生賞と同じく3着以内の馬に本番への優先出走権が付与される皐月賞トライアル・スプリングS。昨年は単勝オッズ2.9倍(1番人気)のシックスペンスが優勝を果たしました。なお、その2024年は単勝オッズ25.3倍(9番人気)のアレグロブリランテが2着、単勝オッズ7.3倍(4番人気)のルカランフィーストが3着という結果で、3連単の配当は5万3380円。少頭数になりがちなこともあって、高額配当が飛び出しやすいというイメージを持っている方はあまりいないかもしれません。
伊吹 実際、過去10年のスプリングSにおける3連単の配当を振り返ってみても、6万円を超えたのは2019年(23万5870円)のみ。平均値は5万914円、中央値は3万5975円にとどまっています。
M 単勝人気順別成績を見ても、上位人気グループの好走率はまずまず優秀です。
伊吹 ちなみに、単勝7番人気から10番人気の馬は2015年以降[1-2-2-35](3着内率12.5%)、単勝11番人気以下の馬は2015年以降[0-0-0-27](3着内率0.0%)でした。人気薄の伏兵を狙っても良いと思うのですが、その場合も上位人気馬を安易に軽視してしまわないよう心掛けるべきでしょう。
M そんなスプリングSでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ピコチャンブラックです。
伊吹 話の流れ的にもちょうど良いところを挙げてきましたね。今回のメンバー構成ならそれなりの支持が集まるはず。
M ピコチャンブラックはキャリア3戦。デビュー戦が2着馬に7馬身差をつける完勝だったうえ、2走前のアイビーSでも、勝ったマスカレードボールと1馬身1/2差の2着に健闘しています。そのマスカレードボールが先日の共同通信杯を制したことで、この馬に対する期待も高まっているところ。前走のホープフルSで13着に敗れてしまったとはいえ、巻き返してくる可能性が高いと見ている方も多いのではないでしょうか。
伊吹 マスカレードボールもホープフルSは11着どまりでしたから、前走の大敗は度外視してしまって良いのかもしれませんね。Aiエスケープが有力と見ていることを踏まえたうえで、レースの傾向からこの馬の信頼度を測っていきましょう。
M 最大のポイントはどのあたりですか?
伊吹 まずは各馬の出走数をチェックしておきたいところ。2020年以降の3着以内馬15頭中11頭は、キャリア3戦以内でした。
M キャリア豊富な馬がやや苦戦していますね。
伊吹 ちなみに、出走数が4戦以上、かつ“中山芝・阪神芝内回りの、1勝クラス以上のレース”において2着以内となった経験がない馬は2020年以降[0-0-0-24](3着内率0.0%)。明らかにコース適性が高そうな馬でない限り、キャリア4戦以上の馬は強調できません。
M キャリア3戦のピコチャンブラックにとっては心強い傾向です。
伊吹 あとは臨戦過程にも注目しておいた方が良さそう。同じく2020年以降の3着以内馬15頭は、いずれも関東圏のレースをステップに臨んだ馬でした。
M こちらもはっきりと明暗が分かれています。
伊吹 2024年も単勝オッズ5.8倍(2番人気)の支持を集めたウォーターリヒトが9着に敗れてしまいましたし、前走が関西圏やローカルのレースだった馬は過信禁物と見るべきでしょう。
M 先程も触れた通り、ピコチャンブラックの前走は中山芝2000m内で施行されたホープフルS。この条件をクリアしている側の一頭です。
伊吹 さらに、同じく2020年以降の3着以内馬15頭中14頭は、“前年12月以降の、中央場所の、1勝クラス以上のレース”において4着以内となった経験がある馬でした。
M 前年末以降の戦績が重要、と。
伊吹 この経験がなかったにもかかわらず3着以内となったのは、単勝オッズ2.4倍(1番人気)の支持を集めていた2021年3着のボーデンのみ。昨年11月以前のレース、ローカルのレース、新馬や未勝利のレースでしか好走していない馬は疑ってかかるべきでしょう。
M ピコチャンブラックが2着となったアイビーSは、昨年10月19日に施行されたレース。残念ながら、この条件には引っ掛かっています。
伊吹 正直なところ、私はあまり高く評価していませんでした。余談ながら、前走の着順が2着以下、かつ前走の1位入線馬とのタイム差が0.5秒以上だった馬は2020年以降[0-0-1-16](3着内率5.9%)。大敗直後の馬が期待を裏切りがちである点も気掛かりです。ただ、潜在能力は高いと思っていますし、Aiエスケープが中心視しているのであれば無理に嫌う必要はないかも。実際のオッズなども踏まえたうえで買い目上の位置付けを検討しましょう。
このまま続きを読む
伊吹雅也
競馬評論家。JRAの公式ホームページ内「今週の注目レース」にて“データ分析”のコーナーを、TCK(東京シティ競馬)の公式ホームページ内「分析レポート」にて重賞競走のデータ分析を担当しているほか、グリーンチャンネル、JRAのレーシングプログラム、『週刊アサヒ芸能』、『競馬王』などさまざまなメディアを舞台に活動している。主な著作に『WIN5攻略全書 回収率150%超!“ミスターWIN5”のマインドセット』、『コース別 本当に儲かる騎手大全』シリーズ、『コース別 本当に儲かる血統大全』シリーズ、『ウルトラ回収率』シリーズ(いずれもガイドワークス)など。