小久保師が語る馬の「走る雰囲気」/血を育むのは人 - 小久保智調教師特別インタビュー

2025年03月19日(水) 17:00 23

亀谷敬正氏インタビュー

「小久保調教師はNARで最も重要なブライアンズタイムの血も数多く開花させている」と血統評論家の亀谷敬正氏は熱く語る。23年に南関東三冠馬に輝いたミックファイアを始め、ブライアンズタイムの血を引く馬はJRA以上に活躍馬が多い。そして、小久保智厩舎の管理馬でブライアンズタイムの血を継ぐ馬で亀谷氏が最初に衝撃を受けたのはクレイアートビュンだという。水沢でのデビューから重賞を勝つまでに32戦を要した、今の競馬界にとってはかなりの“レアキャラ”。同馬の才能を小久保調教師はどうやって見抜いたのだろうか?

小久保智厩舎の“勝つ秘訣”に迫ったインタビュー記事はこちら

亀谷:父はトーホウエンペラー(その父ブライアンズタイム)。クレイアートビュンが小久保厩舎を開業して初めて重賞をプレゼントしてくれた馬になります。

小久保:3歳でうちに来て、ずっとハッキングだけで仕上げてきた記憶がありますね。レースを使いながら競馬を教えていって、4歳で埼玉栄冠賞を勝たせていただきました。

亀谷:そうはいっても転厩初戦も勝利をおさめていますね。

小久保:砂を嫌がる面があったので、そこを利用して2番手から先行して勝ちました。そこからは砂を被るのを克服させたり、歩様を直したりと、実戦を重ねながら競馬を教えていきました。

亀谷:たしかに初戦を勝った後は5連敗。転厩してきた07年3月から翌年の3月まで1年間で18レースも使っています。レースを多く使うことでの、弱点を克服することにつながるのでしょうか?

小久保:人を信頼するようになれば「砂を被っても大丈夫なんだな」と馬が理解してくれるので、変わる馬が多いです。ただ歩様や走りのバランスが悪いうちに、強い負荷をかけると競馬が嫌いになってしまいますし、故障にも繋がります。

亀谷:苦痛にならない程度に競馬を教えて行けば、走りも良くなるし人を信頼していくんですね。では、「そろそろ上昇していくぞ!」というタイミングの見極めも重要だとは思うのですが、例えばクレイアートビュンの場合だと、どのあたりからですか?

小久保:4歳2月のマルチフレンド特別あたりからですね。

亀谷:その時点で転厩して17戦を消化しているんですよね。そして重賞初制覇へとつながっていきます。レースを使いながら強くなっていくというのは、ブライアンズタイム産駒の大きな強みです。

小久保:(母父ブライアンズタイムの)エンテレケイアも昨年重賞を3つも勝たせてもらったのですが、そこに至るまで3年間我慢しましたし、オーナーにも我慢していただきました。

亀谷:JRAでは1勝しかできなかった馬が、小久保厩舎に入るとここまで出世するのだから、驚きを隠せません。

小久保:歩様が良くなって競馬を覚えて行けば、上を目指せる馬だと感じましたので、焦らず作っていきました。

亀谷:1年で重賞を3勝するなど昨年大活躍したエンテレケイアもブライアンズタイムが母父です。この仔も「走る雰囲気はあったのでじっくり時間をかけた」と伺いました。では、その走る雰囲気とはどういうものなのでしょうか?

小久保:一番は“活力”があるかないかですね。

亀谷:活力って見えませんよね(笑)。

小久保:各馬に活力メーターがついているから見えると思いますよ。

亀谷:…(笑)。(2010年)鎌倉記念を勝ったキスミープリンスはオータムセール252万円(税込)で落札された馬。この馬はセリで先生が選んだと聞いています。

小久保:小さい(デビュー時で433キロ)んだけど、やたらグリップの利いた良い歩きをしていたんですよ。それこそ活力があって良い馬でした。

亀谷:でも、みんなが「見た目がいい」「活力のある馬だ」(笑)と見抜けていたら、こんな安価では買えないですよね。

小久保:『作られた馬じゃない』ってことです。コンサイナー(※セリに上場する馬を生産者から預かり市場開催日に向けて仕上げていく人)がいい馬に見せようとする馬に惑わされないことですね(笑)。

亀谷:「セリでよく見せようという馬」ではなく「その馬が持つ活力」が大事で「ブライアンズタイムの血を継ぐ馬には活力がある」というのは、血統を勉強している人なら、ボクも含めて少しは理解できます。ただ、活力がありそうな血統の馬でも、その馬を狙いすまして選ぶのは無理です。それが小久保先生にはわかるんですよね…

そして「活力理論の継承」を実証したのがインサイドザパークです。この仔は山口ステーブルの山口裕介代表が2011年のサマーセールで189万円(税込)という安価で購入。船橋の林正人厩舎に入って(2013年)東京ダービーを勝ちました。

その時、山口さんから『キスミープリンスで学んだことをインサイドザパークの購入に活かした』と聞きました。キスミープリンスも父がノーリーズンですから、その父はブライアンズタイム。2009年の北海道オータムセールにて252万円(税込)で落札された馬。この仔も先生が「活力」を見抜いて買われた馬ですよね。この仔も重賞の鎌倉記念を勝ちました。

小久保:だから、わかる人にはその“活力”が見えると思うのですが…。

亀谷:(笑)その「活力」を知る者同士のタッグで数々のNARの重賞をたくさん勝っています。

小久保:山口ステーブルからは近年、活躍馬を多く出していましたから、うちの厩舎からも重賞ウイナーが出せて嬉しく思います。山口さんはヤル気があるけど、決めつけないのが良いですね。山口ステーブルの馬作りは信用していますよ。

亀谷:その「決めつけがない」という話で大事なのは「身心能力の『心』を大事にする」ということなんじゃないでしょうか?「心」とは「活力」の源でもあり、そこは「血統」にもつながるのではないかと思います。「AWオーナーズクラブ」(※)から馬選びの依頼を受けた際にも「活力のありそうな血統」の馬を山口ステーブルと小久保先生に育てていただければ「馬の活力」を少しは学べるのではないかと思ったんです。これからは、小久保先生の馬作りから「血統」でも重要な「馬の活力」についても、深く学んでいきたいと思います。ありがとうございました。

(文中敬称略)

※AWオーナーズクラブとは
2024年12月に誕生したNAR馬主様向け共有クラブ「AW Owners Club」(https://awownersclub.aw-inc.co.jp/)は亀谷氏が共有馬の血統選別を行い、募集馬は全て小久保厩舎が預託する予定。「今年は、皆さんと小久保先生とたくさん口取りもしていき、NARの競馬もより一層深く楽しみたい」と亀谷氏も熱く語っている。
▼「AW Owners Club」公式サイト公開! 新しい馬主体験を皆で共有!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000114652.html

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亀谷敬正

血統馬券予想理論『血統ビーム』の提唱者で、『ブラッドバイアス』『大系統』『小系統』などの血統予想用語、概念の作者。血統ビームの革新性は20世紀末の競馬予想界に衝撃を与え、現在は競馬ファン、競馬評論家に多大な影響を与え続けている。また『競馬予想TV!』『競馬血統研究所』(ともにCS放送フジテレビONE)に出演するなど活躍中。Twitterはコチラ。
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