【ナムラクレア×疋田真志厩務員】「僕が一番嫌われています」──悲願のGI初制覇へ“愛”に溢れた4年半の歩み

2025年03月23日(日) 18:01 163

今週のFace

▲高松宮記念に出走予定のナムラクレアを担当する疋田真志厩務員(撮影:大恵陽子)

GIで掲示板に載ること7回。昨年は雨中の高松宮記念で先頭に並びかけるも、アタマ差届かず2着でした。その後、夏の終わりからエサを変えて体を作り直し、担当する疋田真志厩務員が「僕が一番嫌われている」と苦笑するほどの気の強さを武器に、今年の高松宮記念でリベンジに挑みます。

その支えともなっているのは、ファンからのお守りの数々。馬房前の壁に飾られ、ナムラクレアと共に決戦の時を待っています。高松宮記念に向けて、長谷川浩大厩舎でナムラクレアを担当する疋田厩務員に伺いました。

(取材・構成:大恵陽子)

「朝、目が覚めるたびに『(着順が)変わってないかな?』って」

──前走の阪神Cは末脚のキレがすごくて、差し切り勝ち。すごかったです!

疋田 初めてルメール騎手が乗りましたが、僕たちとしてはガラッと競馬が変わったとは思っていないんです。

──これまでは中団かそれより前でレースをすることも多かったので、何かを変えたのかなと思っていました。

疋田 クレアには長い間、浜中俊騎手が乗ってくれていて、2歳の頃は折り合いが難しかったり、古馬になって先行させてみたり、試行錯誤しながらやってくれていました。その結果、たどり着いたのがしまいの脚を生かすのが一番いいのでは、ということです。

 昨年の高松宮記念で2着に来た時も「流れや馬場を考えなくていいから、内で我慢して最後に」という話をしていました。だから、急に阪神Cであのスタイルになったわけではなくて、ルメール騎手もそれを理解してくれていました。

──陣営と浜中騎手が作り上げてきたものをルメール騎手が上手く引き出したんですね。

疋田 浜中騎手には感謝しています。GIは獲れなかったですけど、重賞を5つも勝ってくれました。僕たち厩舎スタッフだけで作ってきた馬じゃなくて、彼も一緒になって作ってきたと思っています。

──その歩みの中でも最も惜しかったのが昨年の高松宮記念。雨で重馬場の中、直線で坂を上がるギリギリまで内で我慢して、最後に外に切り替えて勝ち馬にアタマ差まで迫りました。

疋田 ゲートに行っていたのでレースはバスの中で見ていて、内にモタれてちょっと苦しくなっているのかな、と見えました。でも最後まで諦めないのがクレアの真骨頂で、最後の最後はもう本当に「頑張ってくれ!」という気持ちでした。

 だけど、やっぱりちょっと届かなくて。朝、目が覚めるたびに「(着順が)変わってないかな?」と何回も思いました。だけど、何回見てもやっぱり変わっていませんでした。レース後は浜中騎手もちょっと涙を浮かべていましたし、みんな悔しかったと思います。

──陣営の強い思いも、ナムラクレアの負けん気の強さも伝わってくるゴール前でした。

疋田 2歳から足掛け5シーズン目になりますけど、レースでほぼ崩れなくて、根性がすごいです。厩舎でも気が強くて、それがいい方に出ていると思います。最後まで歯を食いしばって抜かしにいこうとする気持ちは、武器の一つだと思います。

──その後、8月のキーンランドCは5着。直線で狭い内をこじ開けてきましたが、最後は後続に差されてしまって、“らしくない競馬”に感じました。

疋田 競走馬は幼児体型からだんだん無駄な肉がなくなってスラッとしていくもので、あの頃はそうなってきたと思っていました。でも、いま思うと体が寂しかったのかな、と。キーンランドCの後に飼料屋さんと相談して、イチから体を作り直しました。

 人間も年齢によって食事内容が変わってきますし、クレアもあの時で5歳。ここからビシバシ鍛え上げていくステージではないので、レース間隔もあまり詰めて使わないことを調教師と考えながら、いい方に出ているかなと思います。

──それまではCWコースも併用した追い切りだったのが、坂路主体に変わりました。どんな意図があったのでしょうか?

疋田 クレアは阪神Cのようにスパーンとキレる一瞬の脚はあるんですけど、長い脚があまり使えなくて、それを補うためにコースで乗っていました。23年シルクロードSでは差し返すような場面があって勝ったので、結果も出ていました。でも、これも年齢や体に合わせて調教を変えようということになり、調教師が色々と考えて坂路だけでやることになりました。

「久しぶりに帰ってくると、必ず嫌な顔をする」

──先ほど「気が強い」というお話がありましたが、厩舎ではどんな感じなんですか?

疋田 最初の頃はすごく可愛い女の子だったんですけど、2戦目で初勝利を挙げて、3戦目で重賞を勝ったくらいからすごく気が強くなってきました。例えばなんですけど、ちやほやされて性格が捻じ曲がってしまった天才子役、みたいな。アニメ『推しの子』の有馬かなのイメージ。

 長い時間、体を触るとか、クレアが嫌がることはやらないように、蝶よ花よでやってきたせいで、性格は尖っています。良さを消さないように、意識的に抑え込まずにやってきて、負けん気の強さが競馬で上手くいってはいるのかなと思います。厩務員が担当馬を可愛がっている写真や動画がSNSでよく流れてきますけど、そんなことは一切できなくて、僕が行くと耳を絞ります。

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▲疋田厩務員に対して耳を絞ってプイッとするナムラクレア。でも、疋田厩務員はなんだか嬉しそう(撮影:大恵陽子)

──最も心を許す相手のはずが(苦笑)。

疋田 どうしても一番長い時間、体を触らないといけないので、僕が一番嫌われています。二番目が長谷川調教師かな。

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▲「二番目に嫌われている人が来たよ(笑)」と疋田厩務員の言葉通り、調教に乗っている長谷川調教師にも耳を絞ります。でも長谷川調教師もナムラクレアが可愛くって、この笑顔です(撮影:大恵陽子)

──強い片思いみたいな感じですか。

疋田 まさにそうで、ショックな部分はあります。でも逆に言えば、無関心ではなくて認識してもらっています。久しぶりにトレセンに帰ってきた時に迎えに行くと、必ず嫌な顔をしてくれるので、「ああ、そうか」と。牧場では全然おとなしいみたいです。

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▲ナムラクレアの馬房前を綺麗に掃除する疋田厩務員。クレアも気になってその様子を見ています(撮影:大恵陽子)

──馬房前の壁にはお守りやナムラクレアグッズがたくさん飾られていますね。

疋田 ファンの方がこうしてたくさん送ってきてくださるんです。本当にありがたいです。

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▲ファンからいただいたお守りやシールなどのグッズ。ナムラクレアからも見える場所に、大切に飾っています(撮影:大恵陽子)

──半弟ナムラアトムや半妹ナムラクララも人気がありますよね。

疋田 ナムラクララも桜花賞に行きます。この血統は長谷川調教師の師匠の中村均厩舎(2019年定年により解散)からの血統。僕も中村先生にお世話になって、マイネルセレクトなどいい競馬をさせてもらいました。中村先生もすごく応援してくれて、レース前に電話もくださいます。先生は新聞での予想でもクレアをいつも推してくれていて、先生のためにも勝ちたいと思います。

──さて、高松宮記念が近づいてきました。昨年のリベンジを果たしたいですね。

疋田 去年も一昨年も2着ですからね。さらに言うと、3歳の桜花賞の頃から常に2着、3着にはきてはいるんです。運がないのかもしれないけど、何か足りないところもあるからこの結果なんでしょう。

 やれることはずっとやってきているので、何とかしたいというのが正直な気持ちです。すごくいい状態できているので、あとはもう無事にレースに向かうだけかなと思っています。

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▲高松宮記念出走予定馬が着用する特別なゼッケンで、悲願のGI初制覇に向けて調教を積んでいます(撮影:大恵陽子)

(文中敬称略)

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