【凱旋門賞予想】日本馬が“走る年・走らない年”の違いとは?──ラップバランスと動画解析から導く今年の本命馬

2025年10月03日(金) 18:03

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▲昨年の凱旋門賞勝ち馬ブルーストッキング(撮影:高橋正和)

競馬アナライザー・Mahmoud氏が、個別ラップタイムデータや動画解析を駆使して凱旋門賞を徹底分析。

好走する日本馬とそうでない馬の違い、ステップレースで見えた日本馬3頭の力関係、立ちはだかる海外勢──。悲願達成に向けて、勝敗を分けるポイントを解説します。

最後には、予想印(◎、○、▲、△)も公開します。

(構成・文:Mahmoud)

なぜ日本馬が走る年と走らない年があるのか

 2019年以降、フランス競馬の統括機関であるFrance Galopの公式サイトにて、凱旋門賞の個別ラップタイムを見ることができるようになりました。ただし、凱旋門賞が行われるフランス・ロンシャン競馬場芝2400mコースは、前半1000mを少し過ぎた地点を頂点とする高低差約10mのコース形態となっており、高低差が比較的小さい日本の競馬場でのラップタイムと単純に比較することは難しい側面があります。また、日本、北米、南米以外の国では、ゲートオープンした時点からタイム計測が開始される点も異なります。

 そこで今回、2019〜2024年の凱旋門賞勝ち馬の個別ラップタイムを、東京競馬場芝2400mコースの起伏に合わせ、5mの助走距離を経た日本式2400mの補正個別ラップタイムを作成してみました。次のグラフをご覧ください。

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▲2019〜2024年 凱旋門賞馬 東京競馬場補正 個別ラップタイム(作成:Mahmoud)

 前傾率(後半1200mラップタイム÷前半1200mラップタイム)は以下の通りとなります。

2024年ブルーストッキング 95.25%
2023年エースインパクト 93.85%
2022年アルピニスタ 104.65%
2021年トルカータータッソ 95.69%
2020年ソットサス 95.47%
2019年ヴァルトガイスト 101.29%

 前半のラップタイムの方が速かったのは2例あります。道中5番手を進んだ2022年アルピニスタ(黄)は強烈な前傾率となるペース推移で勝利。この2022年で逃げていたのは、近年の長距離路線で最強クラスの先行力を備えていた日本馬タイトルホルダー。そんなタイトルホルダーをもってしても、好走するのが実に難しい、極めて厳しいペースでハナを切る形となってしまいました。

 仮に同レースに出走していたドウデュースの位置取り(中間点19番手)から勝利するにしても、前傾率は101.42%。最後方辺りから追走したところで、あまりにも厳しいペースだったのが2022年でした。

 もう一例は道中7番手を進んだ2019年ヴァルトガイスト(緑)の101.29%。同レースはキセキ、ブラストワンピース、フィエールマンの日本馬3頭が出走していましたが、特にフィエールマン、ブラストワンピースの2頭は玉砕的な逃げを打ったガイヤースのペースに巻き込まれる形となり、フォルスストレート付近で早くも馬群に付いていけなくなるほどでした。

 ドウデュースの2022年日本ダービーの前傾率は94.32%、2024年ジャパンCは91.96%でした。ブラストワンピース、フィエールマンも好走したレースは全て前傾率の低いペースバランス。2019、2022年はどちらも時計の掛かる馬場状態で、敗因の一つにそういった馬場の問題があったにせよ、敗因の大きな要素は厳しいペース推移にあります。

 現レイアウトとなった2003年以降の日本ダービーの勝ち馬で、前傾率が100%を超えたのは2009年ロジユニヴァースの105.48%と2019年ロジャーバローズの100.56%の2例のみ。2009年日本ダービーで道中16番手からしぶとく4着に差してきたナカヤマフェスタの前傾率は101.96%。同馬は2010年凱旋門賞でアタマ差2着と健闘しましたが、元々厳しいペースに対応できる資質を持っていました。

 そのような余力をどんどん消耗される厳しいペース推移に出会ってしまった日本馬は惨敗する傾向にあり、それはここ20年あまりの日本競馬で後傾化が進んだ背景が関係していると私は考えています。

 旧東京競馬場の日本ダービーで後続をぶっちぎった1992年ミホノブルボンの前傾率は101.64%、1994年ナリタブライアンが100.41%。この2頭が凱旋門賞に挑んでいたら、例え厳しいペースになったとしても対応した可能性が高かったのではないかと推測します。

 今回の凱旋門賞には2025年日本ダービー馬クロワデュノールが挑みます。そこで、2021〜2024年の凱旋門賞馬がクロワデュノールの日本ダービーの勝ちタイム2:23.7で走ったら、どのようなラップタイム推移となるか、その補正ラップタイムも作成してみました。次のグラフをご覧ください。

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▲2021〜2024年 凱旋門賞馬 2025年日本ダービー補正 個別ラップタイム(作成:Mahmoud)

 2021年トルカータータッソ(水色)、2024年ブルーストッキング(白)はクロワデュノールの日本ダービー(橙)と近いラップタイム推移で走っていることがうかがえます。また、2023年エースインパクト(赤)はさらに前傾率が低く、ラスト400mで200m10秒台を2連発。

 実際の凱旋門賞でもこのラスト400mにおける200m毎の平均ストライド長(1完歩で進む距離)は7.93-7.99m。強烈な脚力で大外から差し切りましたが、道中エースインパクトと近い位置取りだった日本馬スルーセブンシーズは4着と健闘。日本で戦ってきた時と似たような前傾率の低いペース推移が向いたと言えるでしょう。

 一般的に欧州競馬はスローからのヨーイドンと形容されがちですが、日本馬が戦いやすいペース推移となるケースがある一方、アルピニスタが勝った2022年のような強烈な前傾ペースとなり、日本馬に牙を剥くようなレースに変貌するケースもあるのです。

3歳牡馬クロワデュノールとアロヒアリイの比較

 次に2021〜2024年の凱旋門賞馬の後半1000mの平均完歩ピッチを日本ダービーでのクロワデュノールと比較してみましょう。ラストスパート時に最もピッチが速くなる全開スパートまでの波形は、基本的に騎手の意図が反映された形、全開スパート以降の波形は馬の末脚の質を表すと捉えればOKです。

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▲2021〜2024年 凱旋門賞馬 後半1000m 平均完歩ピッチ(作成:Mahmoud)

 ラップタイム推移が似ていれば完歩ピッチ推移も似ることになるのですが、日本ダービーのクロワデュノールは、全開スパート以降の完歩ピッチが遅くなっている傾向にあります。これは好意的に受け取ると1頭抜け出したのでソラを使い気味だったとも言えますが、テンの200mのラップタイムが速いことからもわかるように、クロワデュノールはゼロ発進力が高く瞬発力型の馬であり、それとは対極となる末脚の持久力はそれほど高くないと推測するのが妥当かと思います。

 したがってロンシャン競馬場なら4コーナーを回った直後のL(ラスト)500〜400mが全開スパート区間となるようでは、ラスト100mで苦しくなる可能性があると考えられます。できる限り全開スパートを遅らせるようなレースができると好結果に繋がるだろうと思われます。

 今回の凱旋門賞にはクロワデュノールと同期のアロヒアリイも参戦します。この2頭は皐月賞で対戦し、クロワデュノールが0.6秒先着。ともに勝った前走と合わせ、後半1000mの平均完歩ピッチのグラフをご覧ください。

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▲クロワデュノール・アロヒアリイ 後半1000m 平均完歩ピッチ(作成:Mahmoud)

 皐月賞ではバックストレッチ前半から捲っていったファウストラーゼンにアロヒアリイ(水色)は追従し、クロワデュノール(黄)も合わせる形で早めに動いていました。クロワデュノールの最速完歩ピッチ区間はL400〜300mだったものの、内容としてはL900〜200mの700mにわたって断続的に脚を使うような形。アロヒアリイはさらに厳しいレースをした形で、グラフ外のL1100〜1000mが最速完歩ピッチ区間となり、2022年の凱旋門賞勝ち馬アルピニスタと少し似た波形となっていました。

 それほど厳しい後半の走りだったわりにはクロワデュノールと0.6秒差だったので、捲ったファウストラーゼンに付いて行かなければクロワデュノールとの差はもっと縮まっていた可能性が高いと考えられます。

 そんな2頭はともに凱旋門賞の前哨戦を勝っての参戦となります。クロワデュノールの前走プランスドランジュ賞、アロヒアリイの前走ギヨームドルナノ賞はどちらも2000m戦という発表ですが、フランス競馬は移動柵を設けた開催でも、スターティングゲートの位置を変えません。つまり、移動柵のない正規コースよりも余計に距離を走ることになってしまいます。その2レースはどちらも実際には2050m弱の施行距離となっていました。過去の凱旋門賞勝ち馬の補正と同様に東京競馬場の坂補正を行った日本式2000mの前後半のラップタイムは次の通りとなります。

・プランスドランジュ賞1着クロワデュノール
補正走破タイム2:06.53
前後半67.13-59.40
前傾率88.49%

・ギヨームドルナノ賞1着アロヒアリイ
補正走破タイム2:03.98
前後半65.08-58.91
前傾率90.51%

 プランスドランジュ賞のクロワデュノールは同じ3歳牡馬の2着馬より斤量が1kg重く、3着馬より3kg重かったので着差以上の完勝と言えますが、前傾率が若干高かったギヨームドルナノ賞のアロヒアリイはラスト7完歩ほどかなり緩めての入線だったので、前哨戦の内容はアロヒアリイを少し上に見るのが一つかもしれませんし、同レースで3着だった馬は、次走ニエル賞を勝ったクアリフィカー。そのクアリフィカーよりアロヒアリイは断然速い末脚を見せていました。

 いずれにせよ、かなりのスローの流れから優れた瞬発力を見せたのは2頭の共通項であり、この日本の3歳馬2頭はできる限り全開スパートをゴール寄りに持って行ければ好走のチャンス濃厚ではないでしょうか。凱旋門賞出走予定の3歳牡馬の中ではクロワデュノールとアロヒアリイが力上位の存在だと考えています。

「ビザンチンドリームは当然主役候補」フォワ賞、ニエル賞、ヴェルメイユ賞を振り返る

 G1ヴェルメイユ賞等が行われたアークトライアルデーの2400m3レースも移動柵が設けられた上での施行となりました。クロワデュノールが勝ったプランスドランジュ賞ほどではないものの、実際の施行距離は2415m程度でした。

 また、フォワ賞を勝った4歳牡馬ビザンチンドリームの斤量は58.5kgでしたが本番凱旋門賞では59.5kgとなります。ニエル賞を勝った3歳牡馬クアリフィカーの斤量は58.5kgで凱旋門賞では56.5kg。ヴェルメイユ賞を勝った4歳牝馬アヴァンチュールの斤量は59.5kgで凱旋門賞では58kg。このアークトライアルデーでのビザンチンドリームを基準とすると、3歳牡馬クアリフィカーは凱旋門賞で3kgのアローワンス、4歳牝馬アヴァンチュールは2.5kgアローワンスを得ることになります。

 この3レースの勝ち馬の個別ラップタイムを前述の内容と同様に東京競馬場の坂補正を行い、そして凱旋門賞のアローワンスに合わせた斤量補正を施したのが次のグラフとなります。・・・

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Mahmoud

動画解析から個別ラップタイムや完歩ピッチを計測し、競馬を理論的に解明する唯一無二の競馬アナライザー。過去には競馬雑誌サラブレなどで活動。「Mahmoudの競走馬研究室」でしか見られない独自の理論をお楽しみください。

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