ディセンバーセール歴史的活況に終わる

2006年12月05日(火) 23:52

 先週、初日の模様のみ速報でお届けした、タタソールズ・ディセンバーセール・牝馬セッションは、記録的な数字を残して閉幕をした。総売上げ6623万ギニーは前年比42.4%アップで、セール史上の歴代最高。平均価格7万6133ギニーは前年比47.4%アップで、これも歴代のレコード。中間価格の3万ギニーも前年比36.4%アップで、これまた歴代のレコードと、尽くこれまでの記録を更新する数字を叩き出したのである。更に、1歳や当歳も含めたディセンバーセール全体の指標も、総売上げが前年比35.7%アップで、初めて1億ギニーの大台に乗る1億63万ギニー。平均価格が前年比41.6%アップの5万5937ギニーと、これも驚異的な躍進を示した。実は昨年のディセンバーセールも、一昨年と比べる総売り上げが40%以上ジャンプアップしており、わずか2年の間に市場の規模がほぼ2倍に膨れ上がるという、誰もが予想だにしなかった大活況を呈している。ちなみにタタソールズ社は今年の年間売り上げも、前年比25.8%アップの2億3367万ギニーとなり、06年は英国をはじめとした欧州のブリーダーやコンサイナーにとって、極めて喜ばしい1年となった。

 過去ブラッドストックマーケットが高騰した時には,オイルダラーを背景にしたマクトゥクーム家の参入や、世界的株高を背景とした投機マネーの参入などが理由として取り沙汰されたが、今回の好況を押し上げているのは、愛国を中心に起っている「土地バブル」であると言われている。ここ1、2年の間に、英国のロンドン近郊を中心に建設ラッシュが起こり、土地の値段が高騰。これが近隣諸国に飛び火し、ことに愛国ではかつての日本を彷彿させる「バブル」な状態となり、不動産売買で巨万の富を得る階層が出現。例えば、生産者が牧場の一部を切り売りしてにわかに得た大金や、土地をはじめとした資産運用で悠々自適の暮らしをしていた元々の大金持ちが、バブル景気に乗って更に儲けたアブク銭が、競走馬市場に大量に流れ込んできたのである。このうち後者の場合は、投資の対象は何でもよかったわけで、今回の好況を支えている資金の中には、競馬にほとんど興味のない人からの投資もたくさん含まれていると聞く。更に、こうした状況を鑑みたピンフッカーたちが、かつてないほど強気を仕入れを行ったことで、市場は益々加熱をしたようだ。

 先週のこのコラムで、欧州で取引された歴代最高価格の牝馬についてレポートしたが、実を言えばその記録の寿命は、わずか24時間に過ぎないものであった。セール2日目の11月28日(火曜日)、牝馬としては世界的に見て歴代最高、欧州の市場としては1歳・当歳を含めても歴代最高という、とんでもない価格が飛び出したのである。460万ギニー、日本円にしておよそ10億8626万円で購買されたのは、4歳牝馬のマジカルロマンス。自身が現役時代G1チーヴァリーパークS勝ち馬で、1つ年下の妹が今年英愛オークスを制したアレグザンドローヴァ、受胎しているのがヨーロッパで今最もファッショナブルな種牡馬の1頭であるピヴォタルと、まさに三拍子も四拍子も揃った上場馬で、激しい争奪戦の末に、代理人ジェームス・ウィガン氏が落札に成功した。落札金額の460万ギニーをドル換算すると935万5710ドルになり、昨年のキーンランド・ノヴェンバーセールでシャイク・モハメドがアシャドーを購買した際の900万ドルを破る、歴代の牝馬ワールドレコードとなった。ウィガン氏と言えば、前日スピニングクイーンを300万ギニーで落としたばかりで、前日はクライアントの名を明かさなかったウィガン氏だったが、この日は「2頭ともロスチャイルド家を中心としたパートナーシップによる購買」と公言。スピニングクイーン同様にマジカルロマンスも、ロスチャイルド家がバッキンガムシャーに所有するのワッデスドン・スタッドに送られることになった。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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