2007年08月07日(火) 23:49 0
台風5号が先週末より日本海を北上し、津軽海峡付近から日高方面目がけて直進してきた。大荒れのピークは4日(土曜日)と言われていたのだが、どうやら勢力が急速に衰えたらしく、雨も小降り、風も強くならずに済んだ。
さて、そんなさなか、4日と5日の両日、新ひだか町静内を会場に、「エドウィン・ダン・エンデュランス馬術大会2007inひだか」が開催された。今年で3回目となるこの大会は、新ひだか町と新冠町にまたがる北海道大学静内研究牧場や家畜改良センター(旧・新冠御料牧場)、及び道有林などに特設コースを設置し、桜並木で有名な静内ニ十間道路を発着点として競技が行なわれる。
エドウィン・ダンはアメリカ人で、いわゆる明治時代に「お雇い外国人」として来日。北海道における畜産業の基礎を築いた人である。新冠に馬匹改良の本拠地を移し、最盛期の新冠には千数百頭もの馬が飼育されていたという。その開拓時代の功労者の名を取って大会名が付けられた。
エンデュランス競技とは、「馬のマラソン大会」のようなものだが、コースは平地の走りやすい部分ばかりではなく、むしろ山中の林間を抜けたり、小川を渡渉したりという難所の連続と言っていい。しかも、距離が長く、今回の大会では最短が40kmであった。最長は80km。人馬ともに過酷な条件下で走らなければならない。
しかし、単に走らせてタイムだけを競うのではなく、あくまでも「馬の体調に合わせて」行なわれる競技である、ということ。厳格な検査基準が設けられており、脈拍や体温、その他のチェック項目をクリアしていなければいくらタイムが速くとも失格となる。そのタイムに関しては、最速○○分“以内”にゴールインしたものは失格、という厳しいルールもある。騎乗馬へ過度の負担を強いることがないように、幾重にも規定を設け、馬の保護が徹底しているのである。とにかく距離が長い分だけ、人馬への負担は相当なもので、大会主催者側は専属の獣医師と装蹄師を常駐させてもいる。疾病や落鉄などに迅速に対処できるような体制を完備することが大会運営の基本なのだという。
その他、まだまだたくさん競技に出場するための細かい規定があり、それを紹介して行くだけで紙面が尽きてしまうのでこれ以上は端折ることにする。
大会は2日間にわたって実施され、土曜日にはまずオーナー大会、10km体験コースが行なわれた。オーナー大会とは、乗馬クラブのオーナーまたは指導者、個人の馬主に限られ「自馬」での参加が基本である。騎乗者にはそれぞれ資格(日馬連=日本馬術連盟や全乗振=全国乗馬倶楽部振興協会などが認定したもの)が必要となる。オーナー大会の距離は50km。オリンピック日本代表の白井岳氏などの名前もあった。
また初心者向けの10km体験コースは、この大会で唯一「無資格」で参加できる部門で、まずエンデュランス競技への入り口として設けられた。日高の牧場関係者も数人(ハッピーネモファーム、根本明彦・春香親子や冨岡牧場・冨岡弘三氏など)がエントリーし、午前10時にスタートしてゴールを目指した。
この競技の醍醐味は、ギャラリーとして見ているだけでは伝わらない。やはり参加して実際に人馬一体となり、山あり川ありの長大なコースを走破してきてこそ、面白さを満喫できるものである。2日目は早朝5時に80kmコースのレースがスタートし、以降1時間ずつのタイムラグを設けて60km及び40kmのそれぞれのコースがスタートした。
80kmコースには直木賞作家の村山由佳さんの名前もあった。実はこの2日目の模様をカメラに収めておらず、その雄姿を紹介できないのが何とも残念なところだ。
大会関係者によれば、ここにエントリーしてきた出場申込者は全競技を通じて44名。競技としての認知度はまだ決して高いとは言えず、資格の取得と騎乗馬の確保という2つのハードルをクリアしなければ出場もおぼつかないわけだが、競馬に偏らない形の「馬文化」の1つとして、日高に定着させられる可能性はありそうだ。なお、北海道では9月下旬に十勝管内の鹿追町で開催される大会がもっとも大きなものだという。鹿追の大会は全日本の冠名がついているとも聞く。いったいどんな規模の大会なのか、そちらの方にもちょっと興味が出て来た。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。