2007年08月28日(火) 20:20
インフルエンザ発生の余波で、8月29日と30日の両日にわたり開催予定となっていた十勝管内音更町の「馬市場」(農用馬を中心に700頭もの馬が上場される)が中止のやむなきに至ったという。この市場には、ばんえい競馬関係者や馬肉業者などが大挙して訪れるため、インフルエンザの感染拡大を阻止するために自粛した形となった。この騒動は様々なところに飛び火しているのだ。
そんな中、8月26日(日)には、道東の中標津町で恒例の「馬事競技大会」が実施された。これは今年32回目を数える伝統の草競馬で、ばんえいと平地の両方を一日で同時に行う。しかもその数たるや合わせて全33レース。周回するダートコース(砂にあらず、どう見ても土のコース)1000mの内側に約150mほどのばんえいコースが設けられており、両コースとも、埒はただの杭を等間隔に埋め、虎ロープを巻きつけただけの簡単なもので、実に野趣に富んだ競馬場だ。
この日、中標津は朝から晴天に恵まれ、気温もぐんぐん上昇した。正午近くには30度に達し、あちこちで日傘を手にする観客の姿が見られた。ただ、湿度は高くないので日陰に入ると何とか凌げるのが本州以南と異なる点なのだが…。
ここでも、インフルエンザ余波ともいうべき影響が見られ、例年と比較すると出場馬が少なかったという。大会関係者によれば「例年来ているばんえい競馬所属の馬や日高方面の軽種馬やポニーなどで数十頭は少なかったはず」とのこと。日高でもインフルエンザが発生し、26日現在で10牧場22頭が罹患していることから、今回は私たち浦河ポニー乗馬少年団も遠征を見送ったのである。
さて、レースは午前10時より始まった。毎年感じることだが、何せ一日33レースというのは大変な数だ。ばんえいがスタートしレースを行なっている最中に、周回コースでは別の平地レースが始まる、という風に、二つのレースが重なる場面の連続なのである。
それをたった一人で“実況”しているのは、迫田栄重さんという女性アナウンサー。ワイヤレスマイクを片手に、場内を縦横に歩き回りながら、淡々と仕事をこなして行く。
プログラムは一応用意されているものの、必ずしも全てがその通りに進行するわけではない。その日集まった馬の数により、予定されていたレースが急遽取りやめとなったり、逆にエントリーが多過ぎて2レースに分割したり、といった臨機応変ぶりなのだ。ばんえいと平地に大別されるが、周回コースでは速歩レースや繋駕(ケイガ)レースまで実施される。それも昼休みのアトラクションなどで披露される「お遊び」とは違い、ここでは依然として繋駕が“主流”と言っていい。数えてみたら繋駕だけで4レースも組まれていた。
周回の平地コースもさることながら、カンカン照りのせいでばんえいコースはひどく乾燥している。しきりに散水車が周回コースを走り回って水を撒いていたのだが、二つ山のあるばんえいコースだけはそのまま放置された。その結果、西風に煽られた土煙がばんえいのレースごとに吹きつけ、観客にはもちろん、間近で判定を下す審判にさえ優劣が判断できないくらいの視界ゼロ状態。ばんえいコースは西から東方向に向かって進む形状になっているため、人馬が土煙と一緒になってゴールに殺到することになるのだ。全レースをゴール前で見ていたら、おそらく持参して行ったデジカメも故障してしまったことだろう。
ポニーのばんえいレースもあれば、軽種馬のレースもあり、また前記のように繋駕レースもあれば、速歩レースあり、フィナーレを飾るのは重量900kgを引くばんえいレースであり、ここは一日であらゆる競馬が楽しめる草競馬なのである。
なおこの競馬を主催するのは「標津・中標津地区馬事愛好会」という団体。後援に各町や農協、北海道新聞社などが名前を連ねているが、主体となるのはあくまでも「草競馬大好き」な熱意ある有志、ということになろう。ここの競馬を見るたびに草競馬の原点を見せ付けられるような思いにかられてしまう。
多くの競馬ファンにぜひ一度見ていただきたい草競馬である。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。