2007年09月04日(火) 23:49 0
先ごろ「軽種馬当歳馬名簿」(日高軽種馬農協・発行)が手元に届いた。これは、生産者の届出のあった産駒を、(社)日本軽種馬協会の軽種馬改良情報システム(JBIS)により毎年製作される名簿で、必ずしも、その年に生産された産駒がすべても網羅されているわけではないものの、一定の指標として有効な資料である。
このほど刊行された最新版の「2007年度名簿」によれば、日高管内で今年生まれたサラブレッドは全部で5701頭、アングロアラブはゼロとなっている。
アラブに関しては、一昨年が41頭、昨年が6頭記載されていたのだが、ついに、名簿上からは姿を消してしまった。何とも複雑な思いにかられるものの、需要が見込めぬ以上、これは時代の趨勢なのかも知れない。昨年より最後の砦ともいうべき福山競馬がサラブレッド導入に踏み切ったことで、ごくわずか残っていたアラブの繁殖牝馬も、大半が「用途変更」となったものと推測される。あるいは、日高以外の地域に行けば、まだ生産馬がいるかも知れないのだが、それとて「種の保存」とはとても言えないレベルの数であろう。残念なことだが、これが現実なのだ。
さて、サラブレッドも、日高に関しては、依然として減少の一途をたどっている。昨年は5875頭、一昨年が6214頭だったことから比較すると、2年間で500頭も減少したことになる。さらに、5年前の2002年には、日高だけでサラブレッドが6901頭、アラブが239頭も生産されていた。この数字から引き算すると、サラブレッドだけでもこの5年間に1200頭も減った計算である。
この5年前のデータを使って、各地域ごとに生産頭数を比較してみると、
・えりも 63頭→59頭
・様似 178頭→130頭
・浦河 938頭→790頭
・荻伏 630頭→476頭
・三石 762頭→638頭
・静内 1361頭→1204頭
・新冠 1170頭→1160頭
・門別 1604頭→1092頭
・平取 195頭→152頭
というような内訳である。左側が2002年の数字、そして右側が今年の数字だ。一目瞭然で、生産頭数が減少してきていることが分かる。
ただし、地域によってもかなりの違いが見て取れる。えりもや新冠などは、この5年間でほとんど変化なしのようだが、これはおそらく、すでに2002年以前の段階でかなり「整理」が進行していたことを窺わせる数字である。つまり、それ以前から、「継続できる牧場」だけが生き残っている状態だったのかも知れない。
その一方で、減少幅の大きな地域は、門別32%、様似27%、平取22%という順になる。とりわけ門別は、かつてアラブの主生産地であり、2002年の段階でも、管内239頭中、実に99頭をこの地域で生産していた。それを合わせると、門別地区の減少は、さらに著しい割合となるだろう。大手牧場による買収がもっとも進んでいる地域でもあるものの、それ以上に「廃業・休業」と「規模縮小」が進行していることを実感せざるを得ない。
今年5701頭まで小さくなった生産規模が、来年以降、果たしてどこまで縮小し続けるだろう? この予測はかなり難しいが、日高の生産者は一様に「まだまだ減り続けるはず」と観測している。ただ、それが極限までたどり着いて「需給バランス」の均衡する時代になれば、またサラブレッドの価格がもう少し持ち直すのではないだろうか? という儚い希望を抱いている人が多い。「とにかく、それまでの我慢比べである」と。
果たしてそういう展開になるものか、私はかなり疑わしいと思っている。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。