2007年09月11日(火) 17:40 0
去る9月6日、北海道の新聞各紙は、道営ホッカイドウ競馬に関する改革案として、道が「旭川競馬場からの来年一杯での撤退」を決定したと報じた。現在、旭川では6月からナイター開催が行なわれているが、再来年以降は、門別競馬場を中心とした開催日程となるらしい。ナイター開催も門別で実施する、としている。
旭川競馬場からの撤退理由として、
1.競馬場が上川生産連の所有であり、本拠地である門別との馬の輸送経費などと合わせ、年間約2億円の経費がかかっていること。
2.施設の老朽化が進行しており、改修に多額の費用を要すること。
3.旭川開催の売り上げ約67億円のうち、93%が場外などの販売額で占めており、撤退の影響が最小限に止まると判断されること。
という点が挙げられている。
その結果、現在は春先のごく一時期にしか開催されていない門別競馬場で、年間の大半の開催を行なうこととなる。札幌競馬場での開催は継続するものの、日数は削減する可能性もあるらしい。
また、北海道競馬事務所も廃止し、日高管内日高町(門別競馬場の所在地)に、新たに道営競馬運営のための公社を設立する。そして2010年度までの黒字転換を目指し、もしそれが実現しない場合には、11年度にも道営競馬自体の廃止も検討することになる。
さっそくこの道側の提案(正式名称は、『北海道競馬改革ビジョン』という)を受けて、日高管内の各町長や農協組合長などで構成される「日高軽種馬振興対策推進協議会」(会長・谷川弘一郎浦河町長)が、10日、日高町で臨時総会を開催し、今後について協議したことが「日高報知新聞」に報じられている。
それによれば、
1.新公社への増資(管内6町と総合農協とで計1000万円程度)と役職員の派遣を実現し、2009年度より、この産地主導型の新組織によって競馬運営を行なうこと。
2.競馬法により、道主催は変らないものの、新公社に、企画や開催計画、競馬場運営、発売などを含め競馬業務を全面委託する。そして、運営の努力が実り収益が計画を上回った場合には、一定割合の益金を公社に還元するインセンティブ方式を採用する。
3.現在、土地代無料などの施設貸付特例が2010年度で廃止となる札幌競馬場は、現行の1日100万円が10倍以上となるため、札幌開催をゴールデンウィークに限定する。
4.北見地方などの場外発売施設の空白地帯に「ミニ場外」を新たに開設する。また報償費の低減。地場業者の活用と人員の適性配置を図ること。
などが話し合われたらしい。
また今年度末で見込まれる累積赤字は約235億円に上るが、これは道が「主催者としての責任で補償する」ことになるという。新公社による道営競馬は、2008年度に今年度の約半分まで赤字幅を縮小し、2009年度に収支均衡を目指す方針である。
ただ、各町長とも、道側の方針として「2011年度に廃止することも視野に入れた改革案」であることに、衝撃を隠せなかった様子だったらしい。そして、新公社移管より2年間で、収支均衡を図らねばならないという猶予期間の短さについても懸念を表明する声が上がったという。
協議会の会長を務める谷川弘一郎浦河町長は「ドラスティックな改革で必ず道営競馬を再建し継続しなければ、馬産地日高はなくなる。不退転の決意で馬産地が一丸となって頑張るしか道はない」(日高報知新聞)と語ったと伝えられる。
主催は北海道のままだが、この裏には年々厳しさを増す道財政事情がある。生産地を抱えるという特殊事情があっても、単年度赤字を計上する事業は例外なく見直すという方針から、道は思い切った提案をしてきたのである。谷川町長の言う「ドラスティックな改革」が果たして可能だろうか。すでに全国的にはいくつもの地方競馬で先例があるように、収支均衡を図るためには、現在見込める売り上げの25%の範囲内に開催経費をすべて圧縮する方法しかないが、その場合には、当然報償費が真っ先に削減されることになるだろう。
道営競馬は、生産者馬主の割合が高く、しかも、2歳馬が多数デビューすることでも知られる。存廃問題が浮上すれば、生産地への影響は計り知れない。売り上げ回復への決定的な効果策が見出せない現在、道の今回の方針は、「トカゲの尻尾切り」としか受け止められない。導火線に火のついた時限爆弾を生産地に預けられたようなものである。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。