2007年09月25日(火) 23:49 0
9月21日金曜日、ここ日高でもほとんど30度近くまで気温が急上昇した。札幌では30度を超えて「真夏日のもっとも遅い記録」を更新したらしい。なかなか涼しくならないと本州の友人たちはみんなゲンナリしているが、ここ北海道だって似たようなものだ。例年と比較するとかなり暖かい日々が続いている。
さて、その21日より23日まで、十勝管内鹿追町にて「全日本」と「北海道」という二つのエンデュランス大会が開催された。「全日本エンデュランス馬術大会2007」は主催が日本馬術連盟で、2000年の第1回以来、ずっとこの鹿追町を会場にして開催されている。
鹿追町は、帯広市の北にあり、南半分が十勝平野の農業地帯、北半分が大雪山系の山岳地帯に分かれる。人口約6千人。町の基幹産業は畑作、酪農などを主体とした農業ということになるが、1991年に町の施設として「鹿追ライディングパーク」がオープンした。以来、この町は乗馬普及に力を注ぐようになり、現在までそれが連綿と続いている。
全日本の名前を頂く大会はここ鹿追だけである。大会は21日午後の受付から始まっていた。全日本は一般競技と選手権競技とに分かれており、一般は80km、選手権は120kmという距離を走破することになる。距離が長いため、前日に入厩した馬は競技前に獣医師の検査を受けなければならない。健康状態に問題があると、スタートさせてもらえない事態にもなる。かなり厳格な基準でチェックが行なわれる。
22日午前3時。選手権競技120kmに出場する人馬がスタートした。今年のエントリーは30頭。走行制限時間は12時間という長丁場である。続いて、午前5時に一般競技の80kgに出場する11頭がスタート。全日本の大会では、この鹿追町ライディングパークを発着点として、異なる4種類のコースが設定されており、(1)38.9km、(2)29.6km、(3)31.6km、(4)20.3kmという内訳である。選手権競技では(1)~(4)をすべて走破することになるが、一般競技80kmは(1)を省略し、(2)~(4)のみである。
とはいっても、とにかく長距離なので、競技前にはもちろんのこと、各ステージが終了するごとに出場馬すべてが獣医師による健康チェックを受ける。これがエンデュランス競技の基本でもある。タイムだけを競うのではなく、というよりも、タイムは二の次で、まずは馬にどれだけ負荷をかけずに走り抜くか、が勝負なのである。
そのために、それぞれのステージが終了してから次に進むまでの間、30分~40分の「強制休止時間」を設定されているくらいだ。距離が伸びれば伸びるほど、当然のことながら馬への負担は増す。常に馬の体調を見ながら騎乗するデリカシーが求められるのである。
鹿追町のコースは、いかにも北海道らしいと言えるだろう。まっすぐに伸びた農道や防風林など、観光パンフレットに出てきそうな風景があり、国有林や陸上自衛隊然別演習場(駐屯地がライディングパークの近くにある)などの山間部を縫う林道や然別川を渡るポイントもありで、バラエティに富む。何より、主会場のライディングパーク周辺は、碁盤の目状に作られた道路が四方に伸びる純農村地帯であり、日常的に10km程度の外乗を楽しめる環境にある点が大きな特徴である。
鹿追町ライディングパークが現在ある場所には、その昔、競馬場があったという。そして毎年、ここで草競馬が開催されていたらしい。ところが、管理が行き届かず草ぼうぼうの荒地になっていたのを、前・鹿追町長の岡野友行さん(74歳)が在任中に整備しライディングパークとしてオープンさせた。岡野氏によれば「馬によって開拓された往時を偲ぶためにも、この町にぜひ馬にこだわる施設を作りたいと思った」とか。
折からのバブル景気に湧いた時代に、町づくりの一環として、町内瓜幕(うりまく)地区にライディングパークが完成しオープンしたのは前述の通り1991年のこと。この施設をキーステーションとして、鹿追は乗馬の町として徐々に知名度を上げて行ったのである。
なお余談になるが、鹿追にはもう一つ有名な施設が存在する。美術愛好家に知られた神田日勝記念美術館である。神田日勝は昭和12年生まれ。昭和20年8月にこの鹿追に東京から家族とともに疎開してきた人で、以後、32歳でこの世を去るまで開拓農家として日々農作業に励む傍ら、熱心に画業に取り組んだ人である。絶筆は「馬」。この記念美術館には、ベニヤ板に半分だけ描かれた未完成のこの油絵が展示されている。
この美術館で毎年開かれているイベントに「馬の絵作品展」がある。対象は小中学生。神田日勝もまた馬の絵をたくさん描いており、題材が馬ならば、牧場でも乗馬でも競馬でも何でもいい、というユニークな展覧会である。今年の分の公募は終了したが、応募作品は10月2日~10日までの間、同記念館隣にある鹿追町民ホールにて展示されることになっている。
ある意味で、この町は日高以上に馬へのこだわりを持っていることを改めて知らされた気がする。(以下、次回へ)
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。