岩手競馬のその後

2007年10月09日(火) 23:49 0

 去る9月30日、盛岡競馬場にコスモバルクが初めて姿を現した。「OROカップ」(地方全国交流、芝1700m、1着賞金600万円)に出走するためで、天皇賞(10月28日、東京)を目指すステップレースとして芝を一度使っておく必要があったことから、このレースが選ばれたという。

 コスモバルクは周知の通り、ホッカイドウ競馬田部厩舎所属の6歳馬。人気知名度とも全国区の地方所属馬として、これまで数々の名勝負を演じてきた。今回の盛岡遠征は、同馬にとってもおそらくここに姿を現すのは最初で最後のものになるだろうと予測されたことから、この日の盛岡競馬場はコスモバルク目当てのファンが押し寄せ大変な人出で賑わった。

コスモバルク1

 パドックに陣取っていると、前レースの終了する頃には五重、六重の人垣ができ、前列のファンはカメラ持参である。横断幕を掲げている人たちもいて、改めてこの馬の人気の高さを再認識させられた。やがて6番のゼッケンをつけたコスモバルクが姿を現すと、一斉に注目が集まった。鶴首のバルクは1頭だけ二人引きで、ひどく気合が乗っている。相手関係からも完全に1番人気。ここは絶対に負けられない一戦となった。

コスモバルク2

 この日、中央競馬では秋のGIシリーズ開幕戦として「スプリンターズS」が予定されていた。そのために、盛岡の「OROカップ」は発走予定時刻が4時15分と遅かった。中央の馬券払い戻しを受けたファンが地元のメーンレースも引き続き購入するだけの余裕を持たせた形だが、果たしてその効果がどの程度あったものか。

コスモバルク3

 レースは、終始好位置につけたコスモバルクが4コーナーから抜け出し、2着馬に4馬身差で楽勝した。やはりここでは実力の違いが歴然としており、見ていてまったく危なげないレース運びだった。関係者から事前に「バルクは前夜イレ込んで一晩中馬房の中で前カキをしていたらしい」という“情報”を聞かされていたものの、ここでは役者が違った印象である。

コスモバルク4

 この日は、見たところかなりの人出で賑わっていたように思える盛岡競馬場だが、地元メディアの知人によれば「人は入っているのだが如何せん馬券売り上げに直結していない」のだという。スプリンターズSとの同日開催となったこの日、盛岡競馬場の馬券売り上げは約2億円。本場入場者の中には、中央競馬の馬券購入が目的でやってきた人も多かったはずで、これらの人々がどの程度、地元岩手競馬の馬券も購入していたものか、知りたいところだ。

 なお、一週間後の10月8日(月)には、交流重賞の「南部杯」が行なわれた。「本場の入場人員はむしろコスモバルクの時の方が多かったような気がする」と地元メディアの知人は言う。この日はバルクが走った9月30日と比較すると2倍の売り上げがあった(約4億円)そうだが、発売体制がそもそも大きく異なる。全国的な広域発売のできた「南部杯」と一部(北海道や上山、高崎、九州など)でしか売れなかった「OROカップ」とでは、そもそも比較にならないのである。

 さて、3月末に首の皮一枚を残して存続することになった岩手競馬だが、以来約7か月が経過したものの、依然として厳しい状況が続いている。4月より10月1日までの延べ78日間で、馬券発売総額は150億1200万円。計画比を9億9000万円、6.2%ほど下回っており、今後年度末までにさらに約2億円程度の開催経費削減の必要があると言われている。

 今年度は残すところ40日程度の開催日数しかなく、果たして今後どこまで業績を回復できるかに注目が集まる。いずれにせよ、「収支均衡」が存続の必須条件として、すでに退路は絶たれている。起死回生の妙案がなかなか打ち出せないまま、岩手県もこれから徐々に寒い季節を迎える。

 地元メディアによれば、岩手県競馬組合は、昨年と同じように「開催日数の増加」を増収策の一つとして計画しているらしい。昨年度にも1月と3月に分けてそれぞれ数日ずつ追加日程を組んだが、その結果は悲惨なものに終わった。ここで強引に「黒字」を出すためには、賞金や出走手当てをゼロとし、加えて従事員などもボランティア出勤させるくらいの思い切った大鉈を揮わなければたぶん無理である。「開催日数の増加」を口にする裏には、売り上げ総額だけに捉われた数字の辻褄あわせしかないのだろうという気がする。いったいどうやったら日数を増やすだけで収支が改善できるのか、ぜひ伺ってみたいところだ。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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