2007年11月06日(火) 23:49 0
昨年に続いて、今年も11月1日(木)に、青森で「馬の展示会」(主催、日本軽種馬協会東北支部)なる行事が開催された。語感から連想すると、何とものんびりとした楽しそうなイベントのように思えるのだが、実は「売れ残り1歳馬の即売会」とも言った方が分かりやすい。7月に開催された「八戸市場」を会場に、今回も青森県下や北海道から19頭のサラブレッドが集まった。
北海道から遠征したのは、八戸市場の常連となっているチェスナットファーム(3頭)だけで、残る16頭は地元青森産馬である。青森県の生産者にとって、この時期を逃すと来春までほとんど売却のチャンスがない。2歳馬のトレーニングセールを目指すにしても、北海道もしくは関東あたりの育成牧場に生産馬を預けなければならず、往々にして経費倒れに終わる場合も多い。つまり、売れ残りの生産馬を売りさばける最後のチャンスがこの「展示会」ということになる。
11月1日は、前日の好天からうって変わって、晴れ間が覗くかと思ったらまた曇り、時折通り雨が降ってくるという不安定な空模様。そのために、予定より開始時間を20分早めて、12時40分より「展示会」が始められた。
市場前の広場に19頭が並べられ、各地より訪れた顧客がそれぞれ生産者と個別にその場で“商談”をする。価格が折り合えば、生産者は待機馬房に馬を連れて帰る。商談が成立しない馬だけが残る、という至ってシンプル且つストレートな展示会なのだ。個体検査も何も一切なく、要するに「早い者勝ち」である。
中には待機馬房まで足を運び、展示される前から目ぼしい馬を下見して歩く光景があちこちで見られた。セリではないので価格はあくまで推測の域を出ないものの、概ね1頭50万円~100万円といったところ。客層はかなり限定されていて、1頭の馬を巡って争奪戦が繰り広げられるような光景はなく、あくまで「先に唾を付けた者勝ち」なのである。結局、19頭中12頭が売買成立となったと聞く。
私の場合、馬運車に同乗して青森まで遠征するのはこれで三度目だが、毎回、長距離輸送の苦労を目の当たりにすることになる。所要時間はフェリーを含め、牧場出発から現地到着までざっと13~14時間ほどになろうか。船中は車載スペースが上下2段に分かれており、上に乗せられるか下に置かれるかで換気がかなり違ってくるという。馬にとっても長旅はかなりの負担となるわけで、道中どのように給餌し、水分をどれだけ補給すべきかといったことなど含め、やはり経験を積む以外にない。
さて余談を少し。
青森での宿泊は、だいたい八戸市場にほど近い「癒楽屋福泉」という山の中の温泉宿に泊まる。ここは文字通りの“一軒家”で、周囲は360度すべて山林である。「こんなところに温泉が出るのか」と初めて訪れた時には驚いたものだったが、歴史はかなり古いという。明治どころか、戦国時代あたりまで遡れるらしい。というのも、宿の建物を建て替える際、基礎工事のために土中を掘り返したら日本刀がたくさん出て来た、などというエピソードがあるほどなのだ。ここの一番の魅力は温泉とともに、家族経営のきめ細かなサービスが売り物(たぶん)で、居心地はとても良い。都会の喧騒を離れて静かに温泉に浸かりたい向きにはお勧めの宿だ。ここのお母さんが出してくれる漬物やおでんがまた実に美味しい。
折から青森はちょうど林檎の収穫が終わったところで、ここにも数々の箱入り林檎がロビーに並べられていた。その中の一つに思わず、目が釘付けになってしまった。何と名前が「紅玉ま○こ」とある。え? この名前でいいの? と尋ねてみると「青森ではこれで通っているから大丈夫」という。林檎農家の親父さんもお母さんも「今日は、ま○こ、取りに行くべえ」などと普通に言い合うようなのだ。……恐れ入りました。
「癒楽屋福泉」の住所と電話番号は次の通り。ぜひ一度お試しあれ。(あ、林檎ではなく温泉の方です)
青森県三戸郡南部町福田赤坂脇10-72 TEL:0178-84-3881 入浴料390円(日帰り)
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。