武豊、19歳時の言葉に思うこと

2007年11月07日(水) 00:50

 しなやかという言葉の意味には、あらあらしくなく上品なさまが含まれている。かくある人間の中に、以前から、騎手武豊を入れていた。今年21年目、前人未踏の3000勝という大記録を達成したが、天才と呼ばれ、ありとあらゆる記録を作ってきても、しなやかさという面はずっと消えずにある。この変わらないというところに彼の本質を見い出すのだ。

 デビュー2年目の19歳の暮れ、ちょうどスーパークリークで菊花賞を勝ったひと月後だったが、実家に訪ねたことがあった。

 馬の話になると止まるところがなく、その顔は眩しいくらいだった。その中で一番印象に残った言葉がある。

 「とにかく、いつも一生懸命に走る馬がいるんです。なのにどうしても勝てないんです。そういう馬はなんとかして勝たせてあげたいと思っています」と。自分が勝ちたいのではなく、勝たせてあげたいという19歳の青年の馬をいとおしく思う心に打たれた。

 実は、この思いこそ、ずっと精進し続ける原動力になってきたのではないかと思う。彼は、いつもこれでいいとは考えていない。もっと上手になりたい、そう願い努力している。これは、ちょっとした言葉のはしばしから感じてきた。

 この武豊が今年、7月に入ったときリーディング争いで29勝もの差をつけられたが、夏の小倉で常勝ぶりを発揮、いつの間にかトップに立った。これぞいつもの姿、やはりそうなのだとみんなが思っている。もうひとつ19歳の青年の言葉を。

 「騎手は負けることの方が多いのですから、どうやって気持を切り換えるかが大切だと思っています。負けを引き摺らないようにしています」と。

 騎手になるべくしてなったような武豊騎手が、全ての目標になっていることは間違いないが、これを超越するにはどうあったらいいのか、大変なテーマではないかと思う。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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