2007年11月27日(火) 23:51
いささか旧聞に属する話題だが、去る11月2日(金)に、門別競馬場にて「トレーディングセール」が開催された。国内唯一の現役馬が上場される市場として、2001年よりスタートし、今年で7年目を迎える。従来はなかなか売り上げが伸びなかったため、盛り上がりとしては「今ひとつ」だったが、今年はこれまでの不振を払拭するような数字を計上した。
過去6年間での取引最高価格(1500万円=税抜き)を大幅に上回る5010万円(税抜き)という高額馬が出現。のみならず、次点も2000万円を記録し、この両馬の売り上げが市場全体の成績を大きく底上げして、総額はトレーディングセール始まって以来初となる1億円を突破した。全体では64頭が上場され21頭が落札、売却率は32.8%という成績であった。
因みにこれまでの成績について簡単に触れると、06年が42頭上場で20頭の落札、総額2285万8500円。05年が60頭上場で33頭の落札。5973万4500円。04年が78頭上場で31頭の落札。3256万500円。平均価格はいずれも100万円台で推移していた。
それが今年は、突出した高額馬の出現により、落札平均価格も一気に525万1500円まで急上昇。売却率こそ過去5年間で最低の数字に終わったが、市場全体としては一定の成果を残せたと言えよう。
その“原動力”となったのが、良質馬の上場である。市場の活性化はまず「質の高い馬を揃えること」に尽きる。このトレーディングセールでは、旭川競馬場にて10月11日に行われた「エーデルワイス賞」(JpnIII)を制覇したマサノミネルバ(父ラムタラ、母ハートステイジ、牝2歳栗毛)やモエレジーニアス(函館2歳S勝馬)の半弟マサノネバーマイン(父ゴールドヘイロー、母シャルナ、2歳牡鹿毛)などが登場し、前者が5010万円、後者が2000万円で取引された。
良質馬が出てくると俄然注目されるのは当然で、本来ならば手放すのが惜しくなるような馬が登場すると、購買者の食指が動くものなのだ。それとは逆に、競走成績が頭打ちになった古馬などには、誰も注目しない。最低価格馬は15万円。続いて20万円が2頭。現役馬であるため、このあたりはひじょうにシビアな結果が出てしまったと思う。
賛否両論あるだろうが、ホッカイドウ競馬の宿命として、開催時期が著しく制限されていること、生産地にある地方競馬として馬主に生産者が多いこと、2歳馬の入厩率が異常に高いこと、などの条件を考慮すれば、やはり、この「トレーディング」に重点を置いた運営にならざるを得まい。今以上にホッカイドウ競馬は「全国への2歳馬の供給基地」としての機能をフルに発揮する以外、生き残る道はないと思われる。
平成18年度のデータによれば、地方競馬全体の2歳馬登録数2696頭中、ホッカイドウ競馬は実に735頭。27.3%を占める割合でもちろん単独の主催者としてはダントツの登録数である。そのうち、410頭が18年度中に他地区へと移籍した。JRA93頭を筆頭に南関東131頭、兵庫70頭と続き、分布はその他全国津々浦々に広がっている。
一方、ホッカイドウ競馬に残る2歳馬は全体の2割程度(143頭)。残りの180頭ほどが登録抹消その他の事由でいなくなった分である。また、年間実施されるJRA認定競走はホッカイドウ競馬の場合190レースあり、そのうち約3分の2に相当する123頭が他地区へ移っている。2歳馬の半数以上が他地区へ移籍する現状を考えれば、トレーディングセールに出てくる2歳馬はいかにも少ない。所有者は変わらず、馬だけが移籍してしまう例もあるだろうが、おそらく水面下ではかなりの頭数が個別に売買されているものと推測される。
今後、ホッカイドウ競馬は日高管内を中心とした新公社により運営されることとなる。既述の通り、開催の大半は門別競馬場で行なわれる。場外での発売割合が高いとはいえ、門別中心では売り上げを増やすのが容易ではなく、したがって、報償費も良くて現状維持、さもなくば他の主催者同様に開催経費削減のあおりを受けて削られる運命となろう。
となれば、生産者が自らの所有で2歳馬を使ったとしても、賞金を奪い合うだけではますますペイするはずもなく(今でさえ大半の馬は実質的に赤字である)、別の収入機会を考えなければならない。いかに上手に競馬に供し、チャンスを得て“転売”できるかが勝負の分かれ道である。その舞台を用意するのがホッカイドウ競馬の新公社の重要な役割の一つと考える。日高(に限らないが)の生産者の犠牲の上に成り立つような競馬では長続きしないし、展望もない。「共存共栄」できるようなスタイルをぜひ作り上げて欲しいと思う。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。