2007年12月11日(火) 23:49
ちょうど昨年の今ごろ、ばんえい競馬は存続か廃止かを巡り、まさしく大揺れの状態が続いていた。ほとんど廃止へ九分九厘傾いていた流れが、急転したきっかけとなったのは、周知の通りソフトバンクの系列会社ソフトバンク・プレイヤーズが参入を表明したことと、それを受けて砂川敏文・帯広市長が「単独開催の可能性」について改めて再検討したいと帯広市議会にて答弁したことに始まる。その後、事態は急激に進み、2006年12月14日、ついに「帯広市による単独開催で存続」が正式発表されるに至った。「ほぼ廃止が決定的」という崖っぷちから一転し存続への立役者となった砂川市長は、その時点で一躍ヒーローとなり、マスコミへの露出も激増したことなど懐かしく思い出す。
以来、ちょうど1年。ばんえい競馬は、今、本格的な冬を迎え、どんな状況になっているのかを自分の目で見て来ようと考え、車を飛ばした。
帯広は先月に一度かなりの積雪を記録したというが、その後の好天により、今月に入ってからは積雪ゼロの状態が続いているらしい。北海道で俗に言う「十勝晴れ」の毎日で、札幌や小樽などの日本海側と異なり、道東の空気はかなり乾燥している。その日も幸い、天候には恵まれた。
ばんえい競馬は、9月中旬にナイター開催を終えて、また日中開催へと戻っている。第1レースは午前11時。最終12レースは午後5時5分。ただし、この時期、北海道(しかも道東)は、日照時間が極端に短く、日没時間はほとんど午後4時くらいだ。当然、日没とともに場内は急激に暗さを増してくる。メーンの11レースには、事実上ナイター競馬状態になってしまう。
気温も、当然のことながらかなり低い。晴天に恵まれた9日でも、日中は辛うじてプラスになった程度で、本来ならば真冬日が当たり前という季節である。スタンドは、ほとんど人影がなく、入場者の大半は暖房の利いた場内から動かない。多くは地元の常連客と思しき人々で占められ、彼らは概して「薄着」である。つまり、外でレースを観戦するための防寒着を着用していないのだ。せいぜいジャンパーを羽織る程度で、毛糸の帽子に手袋、マフラーなどに身を固めているのは、どこからか「遠征」してきた観光客風の人々ばかり。
従って、スタンドは、レースの時だけ一部のファンが中から出てきて声援を送り、ゴールインすると同時くらいにまた中へ引っ込む。どうも常連客(の多く)は、エキサイトゾーンまで足を運んで、人馬と一緒に走りながら応援するほどの行動力がないように思える。
しかし、それでも、これから来春まで、ばんえい競馬を主に支えるのはこうした地元の常連客だ。観光シーズンはもう終わり、ナイター期間中のような賑わいは期待できない。やや乱暴に結論するならば、これまでの「貯金」をいかに減らさず、来春まで食いつなぐか、なのである。
年度当初に発表された1日あたりの売り上げ目標は約7400万円であった。5月連休からナイター(6月〜9月)にかけて、この目標は軽々とクリアし、幸先良いスタートを切ることができたものの、さすがに晩秋〜初冬の今に至り、売り上げはやや減少してきている。12月に入り1日〜3日と、8日〜10日の6日間を消化したが、億に届かぬ日が続いており、のみならず7400万円の目標額にも届かぬ日が増えているのがいささか気がかりだ。
数字が上がらなければ、報償費は最低賞金1着10万円、出走手当2万5千円のままで、それどころか、変動制の導入により、下回った分は「減額」されることも、当初の馬主会や調騎会との合意で取り決められた事項である。せめてこの水準は守られるようにと願うばかりだが…。
昨年と現在と、大きく変わった点はどこか? 従来の市営競馬組合(旭川・岩見沢・北見・帯広)による運営から、競馬の世界では日本初となる民間会社への業務委託が実現したのが、この帯広ばんえい競馬。注目度の高かった今年は、折に触れてばんえい競馬が話題になり、とりわけナイター開催期間は、普段よりも多い観客でずいぶん賑わっていた。その余熱が徐々に冷めつつあるこの冬季間に、民間会社ならではのアイデアと行動力を発揮して欲しいと思う。
現在、ばんえい競馬を運営するOPBM(オッズパーク・ばんえい・マネジメント)は、大きく分けて3系統の職員で構成されている(と思われる)。すなわち、市営競馬組合時代からの残留組、帯広市役所からの派遣組、そしてソフトバンク系と、この3つである。いわば、寄せ集め所帯でスタートを切ったわけだが、旧時代と劇的に変わった部分をアピールできなければ、民間会社が参入した意味がなくなる。と同時に、他の地方競馬に「新たな可能性」を示唆することもまた難しくなるだろう。現に岩手競馬やホッカイドウ競馬なども、民間活力の導入が今後の存続と発展の鍵を握る、いう認識を強く持っており、ばんえいはそのいわば「お手本」なのである。ともあれ、冬場の集客にどう取り組むか、民間的センスが試されている。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。