2008年04月22日(火) 23:49 0
どうやら今年は昨年より大幅に桜の開花が早まっているようで、函館と札幌ではもうすでに咲き始めているという。この分だと近いうちに日高の桜も開花することだろう。おそらく連休中に満開になるのはほぼ確実で、交通渋滞が懸念される事態になっている。
つまり、それほど暖かな日が続いているわけで、北海道は一気に春の陽気となった。今月初旬まで寒い日には雪がちらついていたことなど信じられないような気候だ。
さて、今年も例年よりやや遅れて「産地馬体検査」が始まった。4月22日より25日までの4日間が予定されており、初日の22日は浦河にあるBTC(軽種馬育成調教センター)にて、147頭の2歳馬が検査を受けた。
開始は12時15分。午前中はここで調教をする馬が多いため、こんな時間割なのである。所要時間は約2時間余。検査を受ける馬の健康手帳の束を持った各育成牧場の責任者が三々五々集まり、受付を済ませる。
馬は近隣の育成牧場から引かれてくる組と、馬運車で連れて来られる組とに別れており、それぞれ時間指定を受けているはずなのだが、見ていると順番を無視して割り込む牧場などもあり、交通整理が徹底していない印象だ。
検査はまず外で体の特徴などを血統書の記載事項と照合し、実馬であることを確認されたら、BTCの診療所内に入り、そこで眼球の異常をチェックされたり、採血されたりして終了である。診療所を出たところに今年も多くの取材陣が待ち構えていて、一頭ずつ引き手に撮影への協力を依頼し、所定の位置に馬を立たせてもらう、という流れになっている。
この産地馬体検査での取材は、昨年もこの欄で書いたが、POG関連本のためのものである。取材者は総勢20人前後。カメラマンやライター、編集者などが予め配布されている検査名簿をチェックし、検査を終えた馬のヒップナンバーを確認した後に撮影する。個別に取材したい人は、育成牧場の責任者や経営者などに直接インタビューを申し込む。
昨年、あまりにも無秩序な取材方法であることに驚いたものだったが、今年は昨年から比較すると格段に進歩した。まず、実馬と撮影者との距離が十分に確保されていたことと、場を仕切る“世話人”のような立場の取材者が数人いて、流れをスムーズにしてくれていたこと、などが理由に挙げられる。不肖私も、今年は各馬の撮影を断念し、馬の前に立って「耳立て役」に徹した。
馬の撮影の場合、肢の位置が決まった後に必ず苦労させられるのが「耳」なのだ。立て方はいろいろあるが、私の場合には市販のライター(馬の嘶く声が入っている)を使用することが多い。要は、馬の注意を引けばそれで良いのである。
とはいえ、こういう多くの馬と人間が集まっている場所では「ハイテンション」になっている2歳馬が多く、なかなかじっとしていない。普段、あまり他の人のお役に立つことをしない人間の私が、せめて浦河の産地馬体検査だけは流れを円滑にしたいと考えたのは、偏に「いつも仕事で相対する人たち」が馬を連れてきているから、である。せっかく写真を撮られるのだから、少しでも大人しく良いポーズを決めて欲しいと思っただけのことだ。
しかし、この「耳立て役」を今まで誰もやろうとしなかったのはいったいなぜだろう。カメラマンたちはとにかく写すことにのみ神経を尖らせており、そこまで気が回らなかったのだという。
馬は気が散るばかりでだいたいじっとしてはいない。立ち上がったり、体を捻って前後に動こうとしたり、肢を浮かそうとしたり、で落ち着かないことこの上ない。そのせいで昨年出たPOG関連本の産地馬体検査の写真はどれもろくなポーズを取っていなかった。だが、今年は、とりわけ浦河に関しては昨年よりも格段に写真の質が向上しているはずだ。(と自画自賛しておく)
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。