2008年06月03日(火) 17:48
2歳馬トレーニングセールの最後を締めくくったのは、5月27日(火)に浦河で開催された「ひだかトレーニングセール」である。
前日、札幌競馬場で行なわれた「HBA、2008トレーニングセール」の厳しい結果に愕然としながらも、関係者は翌日のこの市場に最後の望みをかけて早朝から準備に走り回った。とりわけ、二つの市場の両方に上場馬をエントリーさせている育成業者の多忙さは大変なものだった。前日遅くに牧場へ戻り、後片付けと翌日の準備に忙殺され、おそらく1年を通じて最も慌しい2日間を過ごしたはずだ。
27日は朝からよく晴れ渡り、好天に恵まれた。やや北風が強く、気温はそれほど高くない。前日からの流れで、この日の公開調教の開始時間は午前10時に設定されていた。札幌〜浦河間は、黙って3時間を要する距離だ。移動のための所要時間を考慮しこの時間帯を設定したものと思われる。
「ひだかトレーニングセール」の上場予定馬は、ブリーズアップセールを回避してここへ回った4頭のJRA育成馬を含め計117頭。ところが、中山競馬場で不落札となった馬が新たに8頭加わり、JRA育成馬は全部で12頭に膨らんだ。全体では125頭となった。
結局、欠場馬が出たため最終的には116頭が上場され、落札は45頭。売却率は38.80%。売り上げ総額3億587万5500円。2日間開催で間延びした昨年の反省を踏まえ、上場馬を絞って臨んだが、上場馬は34頭減、落札が21頭の減、売却率も5.2ポイント減少し、売り上げ総額は1億8千万円以上も下落。かくして、今年の2歳馬トレーニングセールは、JRAブリーズアップセールを皮切りに、九州、千葉、札幌、浦河と5か所全てで前年実績を大きく割り込む憂慮すべき結末となった。
上場馬の質はこの「ひだかトレーニングセール」が最も高いと言われ、一応の評価はされている。公開調教の始まる頃には多くの購買予定者が仮設スタンドに姿を現し、熱心に上場予定馬の走りをチェックしていた。今年は例年にも増して最後の1Fのタイムが総じて速く、ついに10秒を切る馬も出現した。(30番オメガファスター2006の9.9秒)その他、10秒台をマークする馬が続出し、仕上がりの早さをアピールする馬が多かった。
全体を5つのグループに分け、20頭〜25頭程度による追い切りを行なった後は、その都度馬場にハローを入れる念の入れようで、そのために予定よりも時間がかかり、比較展示が終了した時には午後2時を回っていた。そこで急遽、2時に予定されていたセリ開始時間を30分遅らせる措置が取られ、2時半からのスタートとなった。
今年の場合はセリ開始から購買者席に空席が目立った。全体的にやや活気が乏しく、激しくせり合う場面も多くはなかった。最高価格馬こそ4200万円(76番、ローレルポラリス18、父アグネスタキオン)とほぼ昨年の二倍近い高額馬が出たが、その一方で価格の伸び悩む馬が多く、トータルすると、45頭中18頭が税込み300万円未満の落札馬であった。
JRA組12頭は、いずれも完売。うち9頭が100万円〜200万円台で占められ、まさしく「叩き売り」の様相を示した。おそらく2歳馬はブリーズアップセールで売却するのがベストのはずだが、どうやっても売れ残りは出てくる。それらの売れ残りは採算を度外視した価格でセリにかけられ、「再上場」の連続でともかくも全て売り切った。来月には早くも来年に向けて、1歳市場での育成馬購買が始まり、こうした2歳馬の「不良在庫」を抱えていられないのだ。
ただし、JRAと民間とではまったく事情が異なる。この市場で落札された45頭中、JRAの12頭を除くと残りは33頭。つまりJRA以外の民間牧場から上場された2歳馬に関しては、104頭中33頭の落札となり、売却率31.73%。このあたりが実感としては近いかも知れない。
安く売ることはできず、だからといってあくまでも希望価格を押し通していては購買者から声がかからない。しかし、「思った値段で売れなければ自分で使う」ほどの覚悟のある生産者や育成業者は少なく、またそんなリスクは負いたくない。というか負えないのである。
セリ終了後、多くの売れ残り馬が、さらに買い叩かれて引き取られて行ったとも聞く。今更言うまでもないが、こんな状況では、2歳まで生産馬を持ち越した段階でほぼ「大赤字」確定と考えなければならない。この市場に生産馬を上場していた知人が「安いにも限度がある。ひどいもんだ。てめえで生産育成してみろ、と言ってやりたい」と吐き捨てるような口調で語っていた。おそらくこれが偽らざる多くの販売申込者の本音だろう。こんな状況が続くといずれトレーニングセールは衰退する。来年以降が懸念される。売る側と買う側との思惑がこれほど乖離してしまうと、とてもまともな市場とは到底言えないのである。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。