2008年06月17日(火) 23:49
1歳馬市場を来月に控え、生産牧場からコンサイナーへ預託される上場予定馬の移動が先月から始まっている。早い馬になると、3月や4月のうちに移動する例もあるが、多くは5月以降である。セレクトセールとセレクションセールに照準を合わせ、その2ヶ月前あたりを目処とする。
1歳市場に上場する馬は、コンサイナーに預託し馴致してもらう例が年々増え、今後もおそらく頭数はともかく割合としては減ることはなかろう。生産者の高齢化と人手不足に加え、技術的な問題もあって、今では「自分の生産馬を自分で連れて行く」人は決して多いとは言えない。
せり馴致のための預託には、奨励金が交付される。日本軽種馬協会より「30日以上の預託馬」に対して「預託日数に835円を乗じた金額」が、「総額5万円を上限」に交付されるのだ。
しかし、こういう部分も縮小や減額傾向にあり、上限の金額は今年度より半減している。予算の総額は日本軽種馬協会によれば約4000万円。
交付対象馬が増加すれば、1頭あたりの交付金は下落する理屈だが、もちろんその負担は生産者に跳ね返ってくる。
ところで、「JBBA・NEWS」6月号の巻末に「せり市場上場馬馴致助成事業」の登録業者が一覧表で掲載されている。それによれば、全国で97牧場に及び、そのうち北海道が82牧場と大半を占めている。
各町別では、様似町が3牧場、馬房が計29。浦河町が27牧場で478馬房、新ひだか町が14牧場で338馬房、新冠町が16牧場で383馬房、日高町が18牧場で367馬房、平取町が2牧場で51馬房。ここまでが日高管内だが、北海道の場合、あとは十勝と胆振(苫小牧)に各1軒ずつあるだけで馬房数も合わせて15馬房と、断然、日高に集中している現状である。
日高管内でセリ市場上場の馴致業務を手がける牧場は80牧場。合計1646馬房が、1歳市場のために用意されていることになる。これはかなりのキャパシティで、何とも心強い限りだが、実際には上場頭数に比べると牧場数(馬房数)の方が多いため、これらの牧場間では「顧客の争奪戦」が演じられているのである。
多くは本業が育成牧場を営むケースで、2歳馬の退厩時期から秋にまた1歳馬が入厩してくるまでの間の「副業」としてコンサイナー業を兼務する業態が主流で、セリ上場を本業としている例はまだ少ない。また、地区別では浦河が27牧場478馬房と最も多いが、いわゆるBTC周辺の育成牧場がコンサイナーを手がける例が少なくないため、である。
生産者は、市場に足を運んで各コンサイナーの馬づくりをじっくりと観察し、どこに預けるかを検討する。
おおよそコンサイナーの業績は、売却価格や売却率にほぼ反映されることから、「どこの牧場に預けるのが有利か」を見極めることになる。
片手間でやっている牧場から、かなり本腰を入れている牧場までコンサイナーも種々様々だ。この業態が市場に定着してくるにつれて、今では大まかに“序列”が出来上がっており、人気の高いコンサイナーから「満口」になって行く。「どんなレベルの上場馬を手がけているか」がコンサイナーの評価基準にもなるため、生産者も「期待の大きい良血馬」ほど、人気の高いコンサイナーに依頼する傾向が強い。レベルの高い馬でなければ一流の牧場にはとても頼めない、と気後れしてしまうのである。
さて、7月の1歳馬市場は、8日の「八戸市場」に始まり、一週間後の14日に「セレクトセール」、そして22日に「セレクションセール」と連続している。また国内最大頭数が上場される「サマーセール」は8月18日〜22日に予定されており、市場の間隔があまりにも近すぎるために、馬房のやりくりがつかないと悲鳴を上げる牧場もある。最低でも2ヶ月は確保したいというのがコンサイナーの声だが、実質的にセレクションからサマーまでの期間は1ヶ月もないわけで、この過密スケジュールはかなり辛い。
この助成事業に関しては「(コンサイナーによる馴致を受けた上場馬は)市場で適正な評価を得られ」ており「イメージアップに繋がる」ことから、さらに普及させたいのが日本軽種馬協会の意向のようで、そのためにも、この日程は見直す必要があろう。少なくとも、1歳馬を預かり、万全の状態で上場させなければならないコンサイナーに配慮するのならば、なおのことである。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。