高知を救った「ハルウララ旋風」の舞台裏

2021年11月06日(土) 21:09 0 3

 ゼロ年代前半、高知競馬は苦境に立たされていた。次の赤字は出せない…そんな切迫した状況を救ったのは、負け続ける馬、ハルウララだった。高知関係者が藁にもすがる想いで送ったニュースリリースが、やがて日本全国を巻き込む一大ムーブメントを巻き起こしていくことになる。

「廃止の瀬戸際だった時代ですね。高知県へ四半期ごとに財政報告をして、赤字が出るとアウトという状況です。なんとか打開せねばと、毎朝、県競馬組合管理者と共に、人を呼ぶためのアイディアをひねり出すための会議をしていました」

 ハルウララのブレイク直前、組合広報だった吉田冒史さん。88億円にもおよぶ累積赤字を高知県・高知市が負担することになり、毎朝の激論は長時間に及んだという。その際、脳裏に浮かんだのは、昔の高知競馬で見た光景だった。

「若手の頃、特に宣伝もしていないのに人がぞろぞろ入ってくる日があったんです。あとで調べると、ハッコウマーチという名馬が出走している日でした。なんといっても26連勝したんですから。だからこそ存続危機には、スター馬の登場が一番手っ取り早いと考えていました」

 その考えに共感したのが、実況を担当する橋口アナ。ピックアップされたのは、イブキライズアップという馬だった。中央で一戦して高知に移籍し、3戦目からは怒濤の連勝街道『強い』スター馬。すぐにニュースリリースを報道各社に送付した。

 しかし、その流れは長くは続かなかった。イブキライズアップが遠征後に調子を崩してしまったのだ。他にスター候補はいないか――その当時、イブキライズアップのTシャツ10列に対して隅っこの方に1列だけTシャツが置かれている馬がいた。それがハルウララだった。

「ハルウララを見出してくれたのも、橋口アナでした。内部でも『負け続ける馬を…』という葛藤はありましたが、私個人としては、何かはわからないけど『やらなければならないことなのかもしれない』という、根拠のない不思議な気持ちはありました。自分と重ね合わせている部分もあったのかもしれません」

 ニュースリリースを40社に出したところ、ほとんど破棄されたが、一社だけ掲載に。最初は地方版と聞いていたが、いつの間にか全国版の記事になっていた。新聞に掲載されるとTV番組から「ハルウララの写真が欲しい」と電話があり、全国ネットで取り上げられる。そこからブームが広がっていった。

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