東西のトレセンに所属する厩舎は、それぞれに決まった数の馬房が割り当てられ、一般的には厩務員、持ち乗り調教助手が2頭ずつを担当するシステムが主流を成します。その担当馬2頭が同時期に重賞に出走、ましてやともに勝利を飾るなど確率的には極めてまれなことと思われるでしょうが、意外にもよく見られる光景だったりします。
古くは担当馬2頭の活躍を祝して厩務員さんが製作したというテレホンカード。
ミスタートウジンと
イクノディクタスが隣同士の馬房で仲良く過ごす姿を切り取ったツーショットに、ほのぼのとした気持ちになりましたもんね。もちろん、重賞を勝ちまくっている厩舎に属しているとか、“腕利き”と厩舎内で信頼を集める厩務員さんは、血統のいい期待馬を任されることが多いといった要因はあるのでしょうが、1頭の担当馬が活躍することでいい流れをつくり、それがもう1頭の気配アップにもつながっていく。そんな数字では測れない、循環の良さのようなものを感じることが多々あります。
中内田厩舎の三上調教助手は
セリフォスと
アンドラステを担当しており、今年すでに重賞3勝の大活躍。そして
アンドラステは土曜中山の
ターコイズS、
セリフォスは日曜阪神の
朝日杯FSへ出走します。ともにチャンス十分の有力馬ではありますが、世間的関心は無傷3連勝中でGI制覇の期待がかかる
セリフォスのほうにより向けられることでしょう。しかし、当の三上助手にとって今年の重賞勝利で最も感慨深かったのは7月の
中京記念…そう、
アンドラステの重賞初制覇の瞬間だったとか。
「これまで何度もチャンスはあったのに、なかなか勝たせてあげることができなかった。それだけに繁殖に上がるまでには何とか…という気持ちが強かったから勝ってホッとしたというか、本当にうれしかった。
アンドラステがいい流れを呼び込んでくれたからこそ、
セリフォスの
新潟2歳S(8月)から
デイリー杯2歳S(11月)へとつながった気がしている」
願い続けた努力が報われた喜びと勝負事の世界での流れの重要性を改めて教えてくれました。
では連日の出走となる今週はどんな流れに? まずは
アンドラステが懸命の走りを見せてくれれば、必ず
セリフォスにもつながるはず。相乗効果の期待が持てる2頭の走りに注目しないわけにはいかないでしょう。
一方、担当馬が同時期に活躍した近年の事例でとくに有名なのは
ロードカナロアと
カレンチャンというス
プリント王者を担当していた安田隆厩舎の岩本助手。現担当馬はなんと
ダノンスコーピオンで、こちらも
朝日杯FSの勝利を目指しているわけですが、彼が担当しているもう1頭が先週の
香港スプリントがラストランとなった
ダノンスマッシュでした。
今年は日程的に香港までの帯同がかなわず、
ダノンスコーピオンの調整に集中しながら現地へエールを送る形となり、「向こうへ行けない分、テレビでめっちゃ応援しますよ。でも、かえってドキドキするだろうなあ」と話していましたが、ご存じのように大きな落馬事故に巻き込まれる予期せぬ事態に…。
「結果(8着)どうのより、人も馬も無事だと聞いて本当に良かった。ひっくり返らずに前の馬をジャンプしてかわしてましたからね。スマッシュなら種牡馬になっても大仕事をやってのけるはずです。僕も今度は
スコーピオンで香港行きを目指さなきゃですよね」
こちらは流れがいいとは言えませんが、
ダノンスマッシュが残してくれた財産は、次世代の
スコーピオンへと引き継がれていくに違いない。そんな視点でも才能豊かな若駒が集う2歳GI
朝日杯FSを楽しんでみたいと思っています。
(栗東のバーン野郎・石川吉行)
2021/12/17 23:39
アンドラステはG1でも見たいくらい能力の高い馬なので期待しています。