”中山の鬼”マツリダゴッホ 北の大地で悠々自適

スポーツ報知

2023年12月18日(月) 06:00

係員に誘導されるマツリダゴッホ

 中央競馬の一年の総決算である有馬記念は、数あるレースの中でもとりわけたくさんのファンの思い出が凝縮した一戦だろう。2007年の勝者はマツリダゴッホ。重賞6勝をすべて中山で挙げた“中山の鬼”は、9番人気の低評価を覆す波乱を演じて「強い牝馬」の黎明期にくさびを打った。今年のグランプリクリスマスイブの24日、中山競馬場で開催。20歳となった“鬼”は今、北の大地で穏やかな日々を送る。

 あの激走から16年。あっと言わせたマツリダゴッホは今、育成、競走馬時代に慣れ親しんだ北海道新ひだか町のノルマンディーファームで、のんびりと余生を送っている。「夏は札幌記念(07〜09年)を使っていたので、ここへ必ず帰ってきたんですよ」。同ファーム場長の富島一喜さんは現役時代を振り返り、懐かしそうに目を細める。

 今年で20歳。人間に例えるなら70歳くらいだろうか。「さすがに年をとったなと感じます。顔、背中、歯…。そんな所に年齢は出ます。でも、元気は元気です。毎年、種牡馬の展示会を見に行っていましたが、その時もうるさかった。変わらないですよ」

 日本競馬界に偉大な功績を残した種牡馬、サンデーサイレンス産駒の最終世代だった。当然、関係者の期待は小さくなかったが、育成時代を知る富島さんは「最初は頼りなくて、大丈夫かなと思っていた」という。「走る時のバランスがあまりよくなかったんです。POG(ペーパーオーナーゲーム)のサンデーサイレンス産駒特集で、社台グループの同期と写真を見比べると見劣る感じがして…。半信半疑でした」

 ところが2005年8月、札幌の新馬戦を7馬身差で圧勝。富島さんの“親心”は取り越し苦労に終わった。「競馬場で調教を進めるなかで、馬が変わっていったようです」。06年、3歳の年末から軌道に乗ると、翌07年に2つのG2タイトルを獲得。勢いに乗って同年の有馬記念で大仕事を成し遂げる。「うっそー!?でした。馬主さんも、牧場関係者も誰も現場に行っていませんでしたから。いい思い出ですね」

 3年連続で参戦した09年暮れのグランプリを最後に引退し、2010年に種牡馬入り。その“第二の馬生”にも、今春でピリオドを打った。消長の激しい世界で14年間、奮闘してきた名馬を、富島さんは「本当によく頑張った。そう思いますよ」とねぎらう。ここまで5頭の重賞ウィナーを送り出し、重賞は計7勝。産駒の出走回数は減っているが、今年10月1日には12年生まれの産駒マイネルプロンプトが阪神で2勝クラスを勝ち上がった。JRA平地競走の最高齢勝利記録を更新する、11歳の白星だった。12番人気の大穴。9番人気でグランプリ覇者となったマツリダゴッホの血は、確かに受け継がれていた。

 「数は少なくなりましたが、まだ2歳、1歳とノルマンディークラブの馬もいますし、まだまだ勝ち星は増えると期待しています」。北海道でも雪の少ない新ひだか町だが、間もなく厳しい冬が到来する。最後に富島さんはこう締めくくった。「これがG1を勝つ馬の背中なのか。ほかにG1で活躍した馬も調教させてもらっていますが、僕の中ではゴッホが一番です。今も、あの背中を追い求めています」

 〇‥今はノルマンディーファームに滞在しているマツリダゴッホだが、ついの住み家は岡田スタッドになりそうだ。同スタッドの岡田牧雄代表は「種牡馬引退後に去勢して騙馬になりました。ゆくゆくは乗馬にしたいと考えており、タイミングを見てノルマンディーファームから移動して、余生を過ごす予定です」とコメントしている。20年の歳月を経て、生まれ故郷に帰ることになる。

 〇‥マツリダゴッホ産駒は初年度産駒のウインマーレライが2014年のラジオNIKKEI賞で重賞初勝利。クールホタルビ(14年ファンタジーS)、ロードクエスト(15年新潟2歳S、16年京成杯AH、18年スワンS)、マイネルハニー(16年チャレンジC)、リンゴアメ(20年函館2歳S)と、5頭で計7つのタイトルを獲得した。また重賞こそ未勝利だが、14年朝日杯FS2着のアルマワイオリも同産駒。マツリダゴッホ自身は中距離で活躍したが、子供たちは短距離で強さを発揮した。ノルマンディーファームの富島場長によると「一瞬のスピードを生かすタイプが多い」という。

マツリダゴッホ 父サンデーサイレンス母ペイパーレイン(父ベルボライド)。2003年3月15日、北海道静内町の岡田スタッドで生まれる。美浦・国枝栄厩舎の所属馬として05年8月、札幌の新馬戦で1着デビュー。07年のアメリカJCCで重賞初勝利を挙げ、オールカマー(07、08、09年)3連覇、日経賞(08年)と、07年有馬記念を含む重賞6勝をすべて中山で挙げた。通算27戦10勝で総獲得賞金は6億5373万400円(JRA・HPより)。馬主は高橋文枝氏。

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