半世紀に渡って血脈を守り続けるオーナー「競馬を文化に」 (株)ダイリンの奮闘

スポーツ報知

2024年12月12日(木) 21:32 12 59

サンビタリアから数えて5代目となるマカヒキ産駒の牡馬(鳥居聡氏提供)

 JRAで50年以上も、ひとつの血脈を守るべく子孫を持ち続け、走らせているオーナーがいるのをご存じだろうか。(株)ダイリンは祖父の名義から50年以上JRAで所有馬を走らせてきた。現在、同社取締役を務める鳥居聡さんが3代目。半世紀以上にわたる奮闘ぶりを振り返ってもらった。

 鳥居さんの父親は血統書を読みあさり、セリ会場にも足を運ぶなど、競走馬を生産することに熱心だった。そこで見つけた一頭に1972年生まれのサンビタリア(牝、父フロリバンダ)がいた。のちに50年以上も続く、一族の基礎となる牝馬である。サンビタリアから祖先をたどっていけば、1907年に小岩井農場が日本競馬の発展のために輸入した基礎牝馬の中の一頭プロポンチスにたどり着く。プロポンチス牝系は1990年の日本ダービーを制したアイネスフウジン(牡、父シーホーク)や1993年ジャパンCの勝ち馬レガシーワールド(セン馬、父モガミ)など多くの活躍馬を送り出しており、日本競馬発展に貢献してきた血統なのだ。「何頭か候補はあったのですが、ブラックタイプ(重賞勝ち馬はセリ名簿の血統紹介で太いゴシック体で表記され、優秀さを示す)を出しており、セリで高値で購入される可能性が高いこともあり、最終的にサンビタリアの一族(を守っていこうと)に決めました」。

 ただ、サンビタリアは種付けを嫌がる特異気質の馬だった。それでも中村畜産(かつて種牡馬ミルジョージ等を所有)の協力もあり、オーバーレインボー(牡、父イエラパ)、ダニッシュガール(牝、父ハーディーカヌート)という重賞ウィナーを輩出する。特にオーバーレインボーは札幌競馬場がダートコースのみで開催されていた時代の1982、83年の札幌記念を連覇するなど活躍し、種牡馬となった。今なら最優秀ダート馬のタイトルを獲得してもおかしくない実力、実績があったのだが、当時JRAは欧州スタイルである芝中心の路線を進んでおり、古馬ダート重賞はこのレースしかなく、実績通りの評価をされることはなかった。

 その妹ピッコラ(父スイフトスワロー)は兄姉の活躍もあり厩舎期待の一頭だったが、血脈を残したいというオーナーサイドの強い要望で初勝利を挙げた直後に繁殖入り。その産駒はのちに準オープンで活躍したボヘミアンドリーム(牡、父ビゼンニシキ)とジアーダ(牝、父ジェイドロバリー)。「デビュー戦はユタカ君に騎乗して勝ちましたよ」と鳥居さん。その1勝のみで牧場に上がると、種牡馬ダンスインザダークとの相性が良く4勝を挙げたパントマイミスト(牡)と全妹エルベレス(1勝)へとつながっていく。エルベレスは子出しが良く2011年生まれのレムミラス(牝、父キングヘイロー)が3勝を挙げると、2014年生まれの弟テルペリオン(父フリオーソ)はリステッド競走の仁川Sを勝つなど7勝を挙げた。悲願である重賞制覇も目前だったが不運もあり、タイトルには手が届かなかった。「肝心な時に腰を痛めてしまって…。それでも19年のマーキュリーC(盛岡)はチャンスだったのですが、展開が向かなくて…。重賞を勝つ力はあったと思いますが、その時を逃してしまいました」と鳥居さん。

 その他にも素質ある産駒は何頭もいたのだが、ケガなどでデビューにこぎ着けることができなかったりと生産に携わる者として悔しい思いを何度もしてきた。それに何よりもセリで購入し育成牧場に預けるよりも手間やお金もかかる。「牧場さんの方からも子供をセリで売り、そのお金で違う血統の馬を購入すれば馬主としては楽になりますよと勧められるのですが…」と鳥居さん。それでも自分で持つことにこだわってきた。「自分が死んでからも(サンビタリアからの)血統が残っていれば、自分の創業した会社が代々まで残っていることと同じだと思っています」と思いをはせる。

 「母系を守り、後々まで残すということを続けていけば、日本でも競馬が文化であることが証明できる」との信念があり、そのためには牧場、オーナー、そして競馬場(JRAも含めた主催者やファン)の三位一体となって血統を残していくよう取り組んでいく必要があると力説する。

 今はレムミラスが繁殖入りしてサンビタリアから数えて5代目となる産駒がデビューしている。父同様に、セリ会場に顔を出すなど今も活躍馬を生産を夢みて研究を重ねている鳥居さん。血統を残すことはもちろん、馬を通してみんなで楽しみ喜びたいという夢もあり、現在、当歳のマカヒキ産駒の牡馬をこの活動に共感してもらえるファンと共有できたらとクラウドファンディング等を計画している。まだまだ挑戦は終わらない。(地方競馬担当・蔵田 成樹)

 担当厩務員は後に皐月賞V

 ○…オーバーレインボーを担当していたのが当時、土門一美厩舎の藤森和徳厩務員。同氏はのちに、栗東・藤原英昭厩舎所属となり定年直前にエポカドーロ(父オルフェーヴル)を担当。見事、2018年皐月賞を制して厩務員生活の有終の美を飾っている。「彼がインタビューに答えた中で最も印象に残る馬としてオーバーレインボーの名前を挙げてくれていたのを読んだ時、本当にうれしかったね」鳥居さん。レインボーが現役時には何度も厩舎を訪れたというが「競走時はそうでもなかったが、馬房内では威圧感がすごくて…。馬という感じがしなくて、何か特殊な存在だった」と振り返る。藤森厩務員ともども40年の時を経てもサンビタリア一族の誇りなのだ。

 血統を残すために

 ○…(株)ダイリンの勝負服は赤、黄うろこ、緑袖、黄一本輪。京都出身のオーナーらしく、どこか着物柄を連想させる粋なデザインだが、現在、JRAでの所有馬はいないため、見る機会はない。現役馬はレムミラスの子供プレリオン(セン4歳、父ミッキーアイル・名義は鳥居公子氏)が兵庫の森沢友貴厩舎に所属しているのみ。「今は地方所属馬(マンダリンヒーロー)がケンタッキーダービーにも出走(12着)しているように、JRAに馬を預けなくても、選択肢があるので、こだわっていません」とのこと。今後も生産に加えオーナー業も継続する考えは変わりない。

 後記

 鳥居さんの所有馬で最も活躍したオーバーレインボーはG1には届かなかったが、旧4歳(現3歳)時にデビューして以来、4年連続の重賞制覇を含む47戦して9勝(のちに岩手に移籍)。オープン馬ながら毎月のように走り、親しみを持てる競走馬だった。その血を受け継ぐ馬たちが同じ勝負服を着て走り続けていたのだが、この1年ほどJRAでは見かけなくなったこともあり、貴重な体験をうかがうには今しかないと思い、取材させていただいた。

 鳥居さんは長年に渡る競馬や競走馬生産にかけてきた思いを淡々と話されたが、競走馬育成シミュレーションゲームとは違い、現実に続けるのは本当に大変なことが伝わってきた。半世紀にも及ぶ大事業を一個人のオーナーが取り組んできたことは、もっと評価されていいのではないか。コスト増など年々厳しくなっている現状だが、引き続き競走馬を所有すると聞いて安心したし、サンビタリアの子孫がさらに発展することを願っている。

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  • くろろさん

    2024/12/13 1:56

    素晴らしい記事だと思う。こういう一般の素人が気付けないことに光を当てる。これこそジャーナリズムというものではないか。

  • わっつんさん

    2024/12/13 8:45

    世界に通用する、強いウマを作るため種牡馬や繁殖牝馬を輸入して配合して、そしてディープインパクトやキングカメハメハが産まれてみたいなことも重要だし、競馬の発展には不可欠だと思う(競馬もビジネスだから続けていくためにはお金も不可欠だし)。
    ただこうやって一つの血統をつないで、戦っていくということもまた競馬におけるロマンではないだろうかとも思う(記事にも書かれている通り、ウイニングポストとかと違って難しく大変だとおもうけど)。
    実際母系という意味でいえば、オルフェーヴルのように母父メジロマックイーンが注目されたり、イクイノックスのように母父キングヘイローが注目されたりもするように、そういった血を残していくことも必要なんだろうなとも思う。
    長文失礼しました。

  • ゲスでゲスさん

    2024/12/13 4:17

    単に高額馬ばかり買ってくるんでなく思い入れのある血を残していく。ファンにもありがたいお話です

  • ゾガルさん

    2024/12/12 22:39

    とても興味深い内容の良い記事です。自動リンク→サンビタリア(父トーセンジョーダン)を除けば。

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