ドウデュース担当・前川助手独占手記 有馬記念で出走取消「この判断によって血統表に『ドウデュース』と残せる」

スポーツ報知

2024年12月21日(土) 21:29

ドウデュースと前川助手。今年の 天皇賞・秋ではベストターンドアウト賞を受賞

 ドウデュース(牡5歳、栗東・友道康夫厩舎父ハーツクライ)が20日、右前肢ハ行のため有馬記念・G1(12月22日、中山・芝2500メートル)の出走を取り消した。担当の前川和也助手が本紙に独占手記を寄せ、同馬との思い出、電撃引退となった今の心境、そしてファンへのメッセージをつづった。

 ドウデュースは、自分一人で作った馬ではありません。生まれる前から色んな人が携わって、生まれて調教して、馬主さんが買って、最後の最後に僕のところに来る。色んな人の力があって、勝てた馬。だからこそ、ここまで元気でこられたということに、一番感謝しています。

 ドウデュースを担当したのはアイビーSから。前任者がオープン馬2頭を担当していたので、放さざるを得ず、たまたま空いていた僕が担当になりました。デビュー前に1回だけ乗ったことがあり、そのときの印象は「めっちゃ動くやん」。いい馬が回ってきたな、と思ったことを覚えています。

 人生で、一番スピードがあると思った馬がハットトリック(角居勝彦厩舎で05年マイルCS香港マイルなど重賞4勝)。ドウデュースは、この馬に匹敵していました。ハットトリックは怖がりでしたが、ドウデュースはめちゃくちゃ度胸がある。カッとなるハットトリックと違い、ドウデュースは指示をすると冷静に伸びる。2歳の頃は「ハットトリックぐらい走るかも」と思いました。当時は完成度が高いと感じていましたが、結局、完成していませんでしたね(笑)。今を100としたら50ぐらい。ヒリついて、「いつでもはじけられますよ」という感じになりました。

 僕がドウデュースを担当してから、他のスタッフは乗せたことがありません。自分では、本当に丁寧に馬を作っているつもりです。一日一日、ジェンガのように緻密に積んでいくイメージ。他の人に乗られると、特に若いうちはすぐ崩れてしまいます。幸い1頭持ちなので、もう1頭と出張に行ったときに、誰かに乗ってもらうということありません。有給は、ドウデュースがいないときに取っていました。

 ドウデュースのレースで一番自信があったのは日本ダービー。ダービーを使うとき、馬は極限にあると思いますが、ドウデュースは訳が分からないぐらい元気でした(笑)。これだけ具合が良くて、カイバも食べて、調教もバリバリできる。こんな馬はいないし、この能力があれば、絶対他の馬に差がついていると確信していました。

 勝ったときは「わ、勝った」という感じ。それよりも、「これで凱旋門賞に行ける、夢がかなう」とほっとしました。凱旋門賞は一番取りたいG1。それまで、研修などでフランスには2回行ったことがありました。そこに担当馬を連れて行けるのはすごいことです。

 フランスでは、着いてからも手がかからず、調教も良かったです。でも、ニエル賞が案外な結果。思い返せば、張り詰めたものがなかったかもしれません。凱旋門賞のときはそれが顕著で、使った割に…という状態でした。

 凱旋門賞にはもう1回行きたい。あとのレースは、負けてもしょうがないと思えますが、凱旋門賞は悔しい。もちろん、今年も行きたかったです。今の勝ち星と賞金を捨ててでも行きたい。もっと日本の馬が強いのを証明したい。ドウデュースは、それができた逸材だと思います。この夢は、ドウデュースの子供や、次の友道厩舎の馬とかなえたいです。

 僕の座右の銘は「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」。負けても、悔しさをバネにできました。凱旋門賞の後、日本で松島オーナーが残念会を開いてくれたんです。そこで、松島さんが「こんなもんじゃないやろ、俺の馬は」と言うと、(武)豊さんも「絶対こんなもんじゃない」と言って…。そのとき、ボロボロ泣きました。泣くのだけはやめよう、とずっと我慢していましたが…。「絶対にこの馬の能力を証明したい」と約束しました。

 23年ドバイ・ターフで取消になったときは、本当につらかったです。ですが、休養している間は他の馬が待っていましたし、牧場でも元気だよ、という報告を聞くたび、「じゃあ今日は頑張れるな」と励みになりました。追い切るたびに能力を感じたし、馬が「こんなもんじゃないよ」と教えてくれていたと思います。悔しさや、苦汁をなめた経験があったからこそ、集中力を切らすことなくやってこられてました。

 悔しさもありますが、本当にホッとして、肩の荷が降りたようです。僕はそんなにプレッシャーを感じていないつもりでしたが、今の心境からするとかなり緊張していたのでしょう。とにかく無事が何よりも大事なので、友道先生や田中獣医師の判断は正しいと思います。

 そんななか、何よりもたくさんのファンの皆様の気持ちも知らず、当の本人はめちゃくちゃ元気。ご飯をむしゃむしゃ食べて過ごしております。彼を見てると、「これで良かったな」と思えます。出走している姿をお見せして、引退式もできれば最高でしたが、この判断によって、これからの血統表に「ドウデュース」と残せます。申し訳ありませんが、ご理解いただけたらうれしいです。

 これからも、色々なところでドウデュースを見たり、知ることができると思います! また本馬、そしてその子供たちを応援してやってください。すみませんでした、そして、ありがとうございました!(JRA調教助手)

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