春秋天皇賞連敗後の復活劇 岡部騎手が見せたガッツポーズ

2025年03月28日(金) 21:00 1 4

引退後、東京競馬場でお披露目されたトウカイテイオー (写真:下野雄規)

 トウカイテイオーの競走生活は、栄光と挫折の繰り返しだった。無敗での春クラシック2冠制覇と骨折による戦線離脱、「世紀の対決」といわれた92年天皇賞(春)での完敗、奇跡の復活を果たした93年有馬記念…。波乱万丈の競走生活のなかから、史上初のジャパンC父子制覇を成し遂げた92年ジャパンCを『トウカイテイオー伝説』(星海社)で振り返ろう――。


 6連勝で二冠馬となったトウカイテイオーだったが、ダービー直後に全治6ヶ月の故障を発症、無敗三冠馬の夢は絶たれた。主役不在の菊花賞では日本ダービーで3馬身離したレオダーバンが勝利。テイオーは10ヶ月後、復帰初戦の産経大阪杯を楽勝する。このときの楽勝ぶりは「三冠馬になれた」と思わされるほどの圧倒的な強さだった。

 しかし、春の天皇賞で5着と初めて敗れると、二度目の骨折を発症。半年後の天皇賞では初めて掲示板を外した。古馬初戦の産経大阪杯でコンマ7秒も離したホワイトストーンと同タイムの7着。展開のアヤはあったにせよ、少なくとも、連勝当時の力強さは感じられなかった。

テイオーは終わってしまったのか――― 私を含めた多くのファンが半信半疑のまま、ジャパンCを迎えた。



 1番人気は[6・1・0・0]と連対率100%の英国馬ユーザーフレンドリー。英オークス、愛オークス、ヨークシャーオークス、英セントレジャーと海外GIを4連勝後、前走の凱旋門賞をクビ差2着。全欧年度代表馬となったこの牝馬は53キロの斤量である。

 これに次ぐのがニュージーランド産のナチュラリズム。過去21戦[9・5・1・6]で、掲示板を外したのは3回のみ。同国産のレッツイロープ(GI4勝)、フランス産ディアドクター(GI1勝)。さらには2年前の英ダービー馬クエストフォーフェイムと同年の英ダービー馬ドクターデヴィアスも参戦するなど「外国馬は史上最強」と言われた。この背景に、競馬の国際化にこだわったJRAの意地もあった。

 史上最高のメンバーが揃ったこともあり、テイオーの単勝オッズは10倍まで落ちている。

 7年前に父シンボリルドルフが日本馬として2頭目のジャパンC制覇を果たして以降、日本馬の優勝はなかった。その翌年は皐月賞菊花賞を勝ったミホシンザンが3着。3年後は芦毛の名馬タマモクロスが2着でオグリキャップが3着、4年後はオグリキャップが世界レコード(2分22秒2・現在はアーモンドアイの2分20秒6)の2着と健闘するも、ホーリックスにクビ差届かなかった。この3頭以外の日本馬好走はなかった。

 これに加えて、トウカイテイオーに過去の強さが見られない。状態が下降しているのは誰の目にも明らかであり、加えてこれまでにない強敵が相手だ。

 ただ、いくつかの光明もあった。トウカイテイオーが制した日本ダービーの勝ち時計2分25秒9は、それまでのダービー史上2番目の好タイムだった。父のルドルフもダービーと同コースのジャパンCでは3着と1着。

 当時、東京2400mの4歳(現3歳)&古馬GIレースを制した名馬はルドルフのみだったが、後にスペシャルウィークジャングルポケットディープインパクトウオッカブエナビスタジェンティルドンナ(2勝)、アーモンドアイ(2勝)、コントレイルが制している通り、ダービー&オークス馬にとって同コース同距離のジャパンCはプラス材料だ。

 それでも、全盛期の力が失われているのは誰の目にも明らかで、「さすがに勝てない」と感じた競馬ファンは、テイオーの支持率を大きく下げた。

 パドックで目にしたテイオーは、前走の天皇賞とさほど変わらない感じもした。「好調期の状態にはない」と感じた私は、ユーザーフレンドリーからの馬連を勝負して、テイオーの単勝を応援馬券として買った。一緒にいたトラックマンも「外国馬のほうがよく見える」とつぶやいていた。

 大外14番枠から好スタートを切ったテイオーは5番手につけた。位置取りとして悪くはないが、前走の天皇賞でも3番手を進み後続勢に差されている。前半1000m通過は60秒3。前走の57秒5より3秒近くスローであり、この展開は前の2頭を見ながらレースを進めるユーザーフレンドリーに有利だ、と感じた。

 先頭のレガシーワールドが直線に入った瞬間、ユーザーフレンドリーが同馬を射程圏内に入れた。しかし、前半から折り合いが悪く早くも押し出すユーザーフレンドリーを左に見ながら、外を走るトウカイテイオーは持ったまま。内のナチュラリズムが追い始めた直後、追い出したテイオーは頭一つ抜け出した。テイオー行け! と多くのファンが叫ぶ中、テイオーは先頭でゴールイン。勝つときは常に1頭抜きん出てきたテイオーは、初めて追い比べを制して見せた。

 普段は冷静な岡部幸雄騎手も、珍しく両手を挙げて喜びをあらわにした。道中の手応えから下した「勝てる」「いける」との判断が的中した嬉しさだったのかもしれない。

 テイオーは日本馬3頭目のジャパンC優勝を達成した。勝ちタイム2分24秒6は、重馬場としては優秀な時計であり、前年(良馬場)の優勝馬ゴールデンフェザントの勝ち時計とコンマ1秒しか違わない。勝因を挙げるとすれば、テイオーの持つ底力だろう。「本来のデキにはない」状態で、並み居る強豪馬を破ってしまった。その勝ち方は美しく、テイオーのファンをまたも引き寄せた。「日本馬は外国馬に劣らない」と感じたファンも多かったはずだ。

 翌年以降、レガシーワールドマーベラスクラウンがこのレースを制し、10年後には日本馬の独壇場となっていく。

 ジャパンCの歴史のターニングポイントとなったレースでもあった。

(文=後藤豊)

今回は星海社のご厚意により、本書を5名の方にプレゼントいたします。
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応募期間は2025年4月11日(金)23:59まで。皆様からのたくさんのご応募、お待ちしております。
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