秋のロンシャンを見据えて

2025年03月21日(金) 21:00 4 10

引退式でのオルフェーヴル (写真:下野雄規)

「金色の暴君」と称された2011年の3冠馬オルフェーヴル。クラシックや有馬記念で見せた圧倒的な強さ、ゴール入線後に鞍上を振り落とすほどの気性の荒さ、そして脆さが同居し、その破天荒なパフォーマンスで多くのファンを魅了した。そんな競走生活のなかから、4角で逸走しながらも「負けて強し」を満天下に知らしめた12年阪神大賞典を『オルフェーヴル伝説』(星海社)で振り返る――。


 オルフェーヴルは自然豊かな場所が好きだった。だからこそ、放牧先のノーザンファームしがらきはお気に入りの土地だった。現地に到着すると、いつもオルフェーヴルは嬉しそうに馬運車から降り立つ。

 有馬記念の後もここに放牧に出たオルフェーヴル。1カ月半の冬休みを満喫した後、栗東に帰廐、次戦となる阪神大賞典への調整が進められた。

 戻ってきたオルフェーヴルは精神的に落ち着き、ますます機敏な走りを見せる。最終追い切りではウッドチップを勢いよく蹴り上げ加速し、先行く僚馬を追いかけ並ぶ間もなく突き放すと4ハロン50秒7の自己ベストを記録。サンケイスポーツは「三冠馬の年明け初戦は勝って当然!!」と報じた。事実、三冠馬は過去6頭中3頭が古馬初戦を優勝している。単勝オッズは1.1倍、世間はオルフェーヴルの勝利を当然視していた。

 一方、池江師ははるか先のこと―― 秋の凱旋門賞で勝つにはどうすべきかを考えていた。



阪神大賞典では普通の競馬をしなくてはいけない」(『優駿』2012年5月号)

 ヨーロッパではオルフェーヴルがこれまでしてきたような最後方から差し切るレーススタイルでは通用しない。池江師自身もかつてヨーロッパで長期留学をし、凱旋門賞を六度見てきた経験からもそう睨んでいた。休み明けの長距離戦で折り合いが気になるものの、好位で挑むような競馬を今から学習する必要があった。

 そこで池添騎手は「普通の競馬」を想定してレースに臨んだ。先行集団を横目に見る位置に取り付け、緩やかなペースの中最初のコーナーを目指していくというもの。ところがオルフェーヴルはこのペースにいら立ったのか、突如強くハミを噛んで力みはじめた。池添騎手は両腕を震わせ手綱を握りしめオルフェーヴルをなだめる。

 しかしそこで先頭の1頭が抜け出すと、オルフェーヴルはつられて追いかけ、ついには並びかけていった。ところがひとたび先頭の馬が引くと、オルフェーヴルは先頭でたった1頭になってしまった。その瞬間だった。

 オルフェーヴルは突如勢いそのままに道を外れて外ラチへ突進していった。レースが終わったと誤解したのだろうか、もはや池添騎手の制御は効かない。スタンドの2万人から悲鳴が上がる。それでも諦めずに鞍上はオルフェーヴルを馬群へ戻そうとする。するとオルフェーヴルは内目を過ぎゆく馬たちを見つけるや否や、再びその中へと身を投じようと加速した。しかし取り付いたのは前から10番手。先頭にはほど遠い。それでも大外を回して最終コーナーを駆け回る。先頭のギュスターヴクライを射程圏内に入れると、オルフェーヴルはレースにおける使命を思い出したかのように再び加速した。

 たてがみを振り乱して先頭目指して猛追する。しかしあと一歩及ばず、2番手で決勝線を通過した。

「負け方も規格外 化け物加速2着」(日刊スポーツ同年3月19日)

 戻ってきたオルフェーヴルを見て池江師は驚いた。オルフェーヴルはそれほど息が乱れていなかった。いったんスピードを緩めてもう一度加速するのは肉体的に堪えたはず。こんなレースをしても2着に食い込むとは、一体どこまで強いのか。

(構成・文=手塚瞳)

今回は星海社のご厚意により、本書を5名の方にプレゼントいたします。
下記、応募フォームよりふるってご応募ください。
応募期間は2025年4月4日(金)23:59まで。皆様からのたくさんのご応募、お待ちしております。
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