今週末は
高松宮記念が行われる。記者が競馬を仕事にするようになってから約27年で、シーズン中は毎週のようにG1を見る生活を送っている。年を取ってふと感じるのが、ファンや競馬記者になりたての時代と比べて、レースに対する高揚感が薄れたこと。仕事として捉えてしまい、感情をストレートに表現できなくなった。そんな記者が心を揺さぶられたレースがある。それは
ナランフレグが勝った22年
高松宮記念だ。
丸田恭介騎手(38)=美浦・フリー=の勝利騎手インタビューを見て泣きそうになった。
「ありがたいことに、そのような声をたくさん頂きました。涙が出たとか。素直にうれしかったです」と感慨深げな丸田。デビュー16年目で手にした栄冠。ただ、レース後に派手な
ガッツポーズはなく、勝利騎手インタビューでは涙をこらえることができなかった。「レース後は今の若い子みたいに冷静な
ガッツポーズができなかったし、ウイニングランをしていても“本当に勝ったのかな”と心配になったくらい。インタビューも何をしゃべったのか覚えていないです」と振り返る。全てが自然体で、
丸田恭介という男の人間臭さが全面に出ていた。それが記者を含め、見ている人の心に響いたのだろう。
G1を勝つことはジョッキーを目指した時からの夢だった。しかし、G1のステージにすら立てない現実を突きつけられてきた。「もう勝てないと思いましたね。シーズンが始まると毎週のようにG1が行われるけど、いきなり声がかかるわけでもない。自分の置かれている状況は分かっているつもりです。では、どうすればG1に乗ることができるか。下のクラスからちゃんと勝ち上がらせて、一緒に1段ずつ階段を上っていく形こそ、自分がG1騎乗にたどり着く一番のやり方だと思います」と説明する。ただ、これには時間がかかる上に、それだけの素質馬と出会えるチャンスも限られている。「実は
ナランフレグが3勝クラスを勝った後に、この馬でG1を勝つと宣言しました。そんなことを言う必要はないけど、自分が後ろ向きにならないように」。
ナランフレグに感じた可能性。それを信じて、あえて自らを追い込んだ。この時の
高松宮記念が、その“限られたチャンス”だったのだ。
順風満帆のジョッキー人生ではないが、実直に前だけを見据えて進んできた。そんなタイプだからこそ応援したなる。丸田に今後の目標を聞くと、「もう一度、G1を勝ちたいです。重賞も勝てないし、そのような舞台にもたどり着けていないけど、G1を勝ちたい。もし
ナランフレグのような馬にまた出会えたら、一つ一つの積み重ねを大事にしてG1を目指したい。それが目標です」と前を向く。簡単でないことは分かっている。それでも目指す理由を聞くと、「ジョッキーが楽し過ぎるから」と笑顔を見せた。次にG1を勝った時はどんなインタビューになるのだろう。22年
高松宮記念は、記者にとって忘れられないレースの一つとなった。(デイリースポーツ・小林正明)
2025/3/25 12:45
このインタビューで1番印象的なのは、
途中でインタビュアーから宗像調教師の話が出たとき。
丸田の涙を堪えていたのが、一気に涙腺が崩壊した様な気がする。
宗像調教師が引退した今、ホントにここでG1勝てて良かったなと今でも思う。