かつて競馬場だった場所は競輪場に!? 茨城県民の日にちなんで歴史を辿る

2025年11月13日(木) 08:00

取手競輪場(c)netkeiba

 昔は競走馬が我先にと駆けた場所で、いまは競輪選手が必死にペダルを漕ぐ――。JRA美浦トレーニング・センターが位置し、小規模ながら馬産も行われている茨城県。1989年のダービー馬ウィナーズサークルも同県で生産された。競馬との結びつきが深い土地ながら、不思議にも県内に競馬場はない。だが古くは、荒川沖や古河などに存在し、そのうちのひとつ「取手」は廃止後に競輪場となって現在にいたる。きょう11月13日が「茨城県民の日」であることにもちなみ、取手競馬場の姿を辿ってみたい。

 茨城県取手市はJR常磐線で上野駅から40分ほど。ベッドタウンとして宅地化が進み、約10万人が暮らしている。JR取手駅から10分少々歩くと取手競輪場。かつての競馬場だった場所に着く。歴史は約90年前の昭和初期にさかのぼる。県内にあった結城競馬場が売上不振のため、1936年に当地へ移設されたものとされる。当初は茨城県畜産組合連合会、のちに茨城県馬匹組合連合会が主催となって開催が行われ、太平洋戦争終戦後の1948年9月からは茨城県営競馬となってレースは続いた。

 しかし、売上は芳しくなかったようだ。取手市教育委員会が1990年3月に出版した『取手市史 近現代史料編2』を見ると、県営競馬となって約1年後の1949年10月には早くも、市や県で競輪場への転換が話に上がったことがわかる。折しもの競輪ブームに乗じ、1950年初めから1カ月ほどの突貫工事で競輪場は完成。同年2月下旬から、取手競輪はスタートを切った。

 競馬が行われていたのは70年、80年も前のこと。周囲には住宅などが立ち並び、競馬場だった頃の面影はみられない。取手競輪場の運営を行う、茨城県自転車競技事務所の高野智広さん(高=はしごだか)も「地域住民のかたであっても、当時を鮮明に覚えている人は少ないと思います。競輪場の職員も歴史などで知るのみです」と口にする。それでも、わずかに残った遺構があった。競輪場の正門前には馬頭観音が置かれており、背後には「茨城縣畜産組合聨合會 昭和十一年十二月吉日」の文字が刻まれている。

 もう2カ所、往年を思わせる場所も。競輪場の外周道路はバンクを囲むように緩くカーブしており、古い航空写真や地図と照らし合わせると、かつてのコースと重なる部分も多い。また、東門から外を見れば、眼下に八重洲ニュータウンという住宅地が広がっており、ここがかつての厩舎群とされる。資料が乏しく断言はできないが、丘の下から競輪場の東門に続く坂を上って、馬をコースにひき入れていたようだ。

 馬の蹄音は鐘(ジャン)の音になり、競輪場の周辺を含めて風景は様変わりしたが、いまも同じなのは応援するファンの歓声。高野さんは「取手競輪場では予想会や選手のトークショーなど、初心者も楽しめるような取り組みを数多く行っています。競馬ファンのかたも、競輪に興味を持ってもらえたらうれしいです」と笑顔を見せた。かつての競馬場が競輪場となって75年。姿、形を変えても、レースの盛り上がりは変わらない。

(文:中川兼人)

◇11月16日に取手競輪場で「サイクルアートフェスティバル」
 市内に東京芸術大学のキャンパスがあることから、取手市は「アートの街」として発信。その一環として、今週末日曜には取手競輪場で競輪×アートのイベント「サイクルアートフェスティバル」が行われる。茨城支部所属選手7名による模擬レースやバンク内の試走体験、キャラクターショーやお笑いライブなど盛りだくさんの内容。競輪ファンはもちろん、家族連れでも楽しめる。高野さんも「都内からのアクセスも良いので、初めてのかたもぜひお越しください」とアピールした。

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