標津・中標津連合、馬事競技大会

2008年09月02日(火) 23:49

 ふと思い立ってこのコラムのバックナンバーを調べてみたら、昨年も一昨年もこの時期は「草競馬」のことを書いていた。何というワンパターンか…と愕然としてしまうが、しかし、何度見ても飽きないのが草競馬である。

 8月31日(日)、今年で33回目を数える「標津・中標津連合、馬事競技大会」が、道東の中標津町南中にある特設競馬場にて開催された。

 おそらく日本一“野趣”に富んだ競馬場だろうと思う。周囲は農地(牧草地)で、敷地ギリギリに一周約1000mのダートコースと、内側に150mほどのばんえいコースを併設したこの競馬場は、毎年この草競馬の時だけ使用されるらしい。もともとが民有地で、内馬場の一角は、今年新たに更新したばかりの採草地も広がっている。いわば地主の好意で借用しているのかも知れない。

 数えて33回目にもなると、もう立派な「伝統行事」である。今年も午前と午後合わせて32レースが組まれ、周回コースとばんえいコースをフルに使用しての熱戦が繰り広げられた。

 第1レースの発走は午前10時。そして最終の第32レースは午後3時頃のスタートである。午前18レース、午後14レースを消化しなければならないので、当然のことながら進行は目まぐるしいほどの早さだ。

 主催は「標津・中標津地区馬事愛好会」という民間団体で、言うならば草競馬好きの人々が集う集団である。現会長の渡辺善行氏が大会長を務める。

レース風景

 32レース中、1レースはアトラクションの「人力車競走」で、残る31レースに馬が登場する。そのうちの16レースがばんえいコース、15レースが周回コースを使用しての繋駕と速歩、そしてポニーや軽種馬による平地レースとなる。また、ばんえい競馬も、ポニーから大型馬まで実にバラエティに富んでおり、ここにいれば大袈裟に言うと「あらゆる種類の馬」を見ることができる。

 今年は約80頭が全道各地から集まった。浦河からもポニー乗馬少年団の有志を中心に7頭、総勢18人での遠征となった。

出番を待つ馬たち

 午前7時半より受付開始、8時半より馬体審査、そして9時半に開会式が行なわれた。馬体審査というのは、要するに、ばんえいに出走するポニーの体高を計測する「審査」のようで、エントリーしてきたポニーを係員が一頭ずつ尺を当てて背の高さを調べている。それによりクラス分けが決まるのである。

ポニー計測

 ポニーばんばは、DからAまでの4クラスに分かれており、重量(そりに乗せる重し)も50kg〜170kgと幅がある。小さな体でありながら、妙にマッチョな体型のポニーが、レースになるとほとんど犬ぞりレースのごとく二つの山(障害)を越えて走り抜くのである。道東では、以前よりばんえいの草競馬が盛んだが、最近は大型馬よりもこうしたポニーの方が好まれているらしい。

レース風景

 さて、この日の中標津は曇天ながら気温は20度程度と過ごしやすく馬には快適な気候であった。ただし前日午後にかなりの降雨があり、馬場は「やや重」。早朝から何台もの重機が動き、整備に余念がなかった。

レース風景

 ここのコースは砂というよりもほぼ完全な「土」の馬場で、そのために乾燥が続くと土煙が上がり視界が遮られるほどだったが、今年に限ってはその心配はなかった。しかし、埒沿いでカメラを構えているとピンポン玉くらいの大きさの土の塊が飛んできて顔に当たったりしたのだった。

 何せ32レースだから、どんどん進行する。しばしば周回コースとばんえいコースが同時にレースを行なうことになり、それを迫田栄重さんという女性アナがたった一人で“実況”していた。レースの合間を縫って、出走馬に集合を呼びかけたりという「進行」も一人で務める。終日「喋りっぱなし」である。

迫田栄重アナ

 ところでここの草競馬の大きな特長の一つは「ほぼ全レースに賞金が出る」ことだろう。「副賞」もある。しかも1着が1万円ならば、2着が7000円、3着が5000円、4着以下で一律2000円。こうした「大盤振る舞い」がレースをより白熱させるのである。もっとも、その前に最大2レース出走を限度として競技参加料を1頭あたり5000円ずつ集めているのだが…。

レース風景

 目まぐるしく次々に様々なレースが展開するこの一日を地元の人々は楽しみにしているようで、今年も多くの観客が会場に足を運んでいた。また、様々な露店が軒を並べ、さながら「祭典」のような風景であった。地元在住の作家・玉井裕志氏によれば、現在、「ムツゴロウ」こと、畑正憲氏がこの中標津に居住しているとのことで、「ひょっとしたら草競馬に来ているのではないだろうか」と聞いていたが、ついに確認できなかった。その昔、畑正憲氏はここの“常連”だったそうである。

 それにしても、何年か続けて道東各地の草競馬を訪れてみると、改めて、この世界でも高齢化が確実に進んでいることを実感させられる。とりわけ、トロッター繋駕や速歩などは、おそらく騎乗者の平均年齢が60代後半〜70代前後くらいにはなるだろう。日々乗馬に勤しんでいるだけあって体型はスリムで若々しいのだが、如何せん「後継者」のいないのが気がかりだ。「ソルキー」と呼ばれる繋駕用の二輪馬車は見本さえあれば製作できるが、速歩で馬を操る技術は一朝一夕で習得できるものではなく、今現役の世代がリタイアした後は廃れて行くかも知れない。

三田氏(繋駕)

 因みにこの後、9月20日、21日の両日は、お隣の別海町で草競馬が開催されることになっている。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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