アルカナ・ドーヴィルセールも好況に終わる

2009年08月25日(火) 23:59

 8月14日から17日の4日間にわたって、フランスのドーヴィルで、ヨーロッパにおける主要なイヤリングセールでは最も早い時期に行われる「アルカナ・オーガスト・イヤリングセール」が開催された。

 市況は、総売り上げが前年比1.5%ダウンの3,936万ユーロ、前年23.2%だったバイバックレートが今年は25.3%と、主要な指標のうち2つはわずかに前年割れしたものの、一方で、平均価格は前年比3.4%アップの114,778ユーロ、中間価格が前年比7.1%アップの75,000ユーロと、残る2つの指標は前年を上回る数値となった。

 前回のコラムで、サラトガセールの結果報告をさせていただいた際にも書かせていただいたが、リーマンブラザーズの破綻に端を発した世界同時金融危機の影響で、競走馬市場も昨年秋以来、世界規模で大幅な下落が続いており、今年のドーヴィル市場を前にした関係者の予測は、きわめて悲観的なものであった。したがって、平均価格と中間価格がいずれも前年を上回るという結果は、誰にとっても予想外の好景気であり、サラトガに続いてドーヴィルでも好調なマーケットが展開されたことで、関係者の間では今後の市場動向を楽観視する声も囁かれはじめている。

 ドーヴィル市場の好結果を支えた第一の要因は、上場馬の質が高かったことだ。カタログができた段階で近年最高の評価を得ていたが、実馬の出来も血統に引けを取らぬ水準にあり、バイヤーたちの争奪戦は白熱した。

 また、購買者の顔触れも多彩だった。サラトガに引き続いて、シェイク・モハメド御自らの参戦があった他、シェイク・ハムダンも参戦。アメリカでは沈黙を守ったアイルランドのクールモアグループも、セール2番目の高額馬を購買するなど、ブラッドストック・マーケットにおける主要な顔触れは、半ば以上が顔を揃えていた。

 更には、シャルルドゴール空港への出迎えサービスを無料で行ったり、週末は渋滞するドーヴィルの交通事情を鑑みて自転車の無料貸し出しを行うなど、主催者アルカナのきめの細かなホスピタリティも、売上げの向上に貢献したはずである。

 最高価格馬は、初日に登場した上場番号61番の牡馬。ドバイワールドCやインターナショナルSを制したエレクトロキューショニストの弟で、父がストームキャットという血統から、早くから注目を集めていた馬だった。
購買したのは、シェイク・モハメドの代理人を務めるジョン・ファーガソン氏で、購買価格は90万ユーロであった。

 日本人によると見られる購買は、昨年と同数の3頭。昨年の3頭も好素材揃いだったが、今年の3頭も負けず劣らずの高品質である。

 30万ユーロで購買された上場番号53番は、昨年無敗で凱旋門賞を制したザルカヴァと同じ、父ザミンダーの牝馬である。全姉に、G1サンタラリ賞勝ち馬コケレイエ がいて、おじにもG1サンセットH勝ち馬ロワノルマンドがいるという、超良血馬である。後駆の踏み込みが良い歩様も魅力的な馬で、ザミンダー級の活躍を期待したい逸材だ。ただしこの馬、場合によっては欧州で走る可能性もあるようで、POGファンの方はご注意いただきたい。

 35万ユーロで購買された上場番号102番は、欧州のリーディングサイヤー・ガリレオを父に持つ牝馬である。兄に、昨年秋のG1クリテリウムドサンクルーで2着となったドラムビート、おじにG1グランクリテリウム3着馬チャイニーズウィスパーがいて、近親にはG1アベイユドロンシャン賞勝ち馬キスティーナがいるという、活力ある牝系を背景に持っている。現時点ではやや小振りだが、ガリレオ産駒は1歳時には華奢に見える方が走るとの定説もあり、かえって好材料。品の良い顔立ちをした優美な馬で、将来は日本代表として再度フランスの地を踏んで欲しい大物である。

 19万ユーロで購買された上場番号102番は、今季も、愛2000ギニーとセントジェームズパレスSを連覇したマスタークラフツマン、愛1000ギニーを快勝したアゲインらを出し、相変わらず好調なシーズンを過ごしているデインヒルダンサーを父に持つ牡馬である。叔父に、仏ダービー馬エルナンド、同じく叔父に、G1リュパン賞勝ち馬ヨハンクワッツがいるという、欧州の名門ファミリーの出身だ。デインヒル系らしい、力強さを誇示しながらも固くはなく、むしろゆったりとした作りの好馬体が厩舎村で評判になっていた馬で、実に費用対効果の高いお買い物であったと思う。

 ジャパンC・2着のファビラスラフイン、青葉賞勝ち馬ルゼルらが出現した後、日本における目立った活躍馬が出ていないドーヴィル出身馬だが、今年の2歳世代も含めて、そろそろしばらくぶりの大物が出ておかしくない時期に来ていると見て良さそうだ。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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