オータムセール近づく

2009年10月06日(火) 23:30

日高の牧場風景 

 今年最後の当歳・1歳市場となる「オータムセール」が近づいてきた。前回の「サマーセール」からおよそ2か月の間隔をおいて10月19日より23日までの5日間、当歳106頭、1歳904頭が上場を予定されている。

 すでに主催者のHBA日高軽種馬農協はこの市場も「市場取引賞」の交付対象とすることを明らかにしており、2歳戦限定ではあるものの、中央はGIで1着・1000万円、GII・300万円、GIII・100万円が、そして地方でも指定交流ダートグレード競走限定でJpnI・1着500万円、JpnII・150万円、JpnIII・50万円が、それぞれ設定されている。交付対象は3着までで、交付金額は2着40%、3着26%である。

 この市場取引賞交付の効果だけではないはずだが、今年に関しては、日高の1歳市場は予想されたよりも堅調に推移している。価格の伸び悩みはあるものの、売却率は軒並み上昇していて、生産者も購買者も、徐々にではあるが確実に市場取引へ軸足を移動させつつある。

 反面、当歳市場は、昨年、一昨年と売却率が10%台まで低落し、売り上げも1億円台に低迷したことを受け、今年は上場申込頭数が前年比67頭減の106頭にまで激減。例年並みの欠場馬があるならば、おそらく上場は100頭を割ることが予想される。

 すでに数年前から囁かれていることだが、オータムセールにおける当歳市場の必要性そのものを見直すべき時期に来ているのは間違いあるまい。10%台の売却率ではもうほとんど購買者のニーズに応えられていないと考えなければならない。「ここでは、売ることよりも、むしろ“見せる”ことに主眼を置いている。うちにはこんな当歳馬がいますから来年の1歳市場ではよろしくお願いします、という程度のお披露目が目的。そこで希望価格で売れるならば良し、オータムセールなんかでは売れないだろうから、あくまで“展示”するだけ」と言い切る生産者もいる。

 だがそれでは、本来の目的から著しく逸脱する。市場と銘打っている以上、販売できなければ意味がない。にも拘わらず、購買者は、今から当歳馬を買い求めてしまうにはリスクが高い、という基本姿勢である。良質馬はセレクトSやセレクションSなどに上場されるから、そこで落札すれば良いだけのこと。しかし、誰もが食指を動かすほどの素材ならば当然価格は上昇する。多少高くなっても良質馬を手に入れたいという購買層は、7月のセレクトやセレクションですでにお買い上げである。言うまでもなくオータムとはまた客層が異なるのである。

 期待できるのは1歳市場だろうか。ただ昨年もそうだったように、上場申込頭数(名簿記載頭数)と比較すると、オータムセールの場合は実際の上場頭数が激減してしまう。昨年も名簿上では900頭を上回る上場予定頭数が記載されていながら、いざ蓋を開いてみれば4日間で764頭の上場にとどまった。

 もちろん購買者にとっては市場の信頼性に疑念を持たざるを得ない基本的部分ではあるが、一方の生産者側の事情も無視できない。後のない状況で10月を迎えたものの、性別や血統、馬体などの要素からどうしても生産馬に自信を持てない(こういう馬は実際多い)場合は、つい弱気になりがちだ。「どうせ買い叩かれるのならば」という心理から、市場に連れて行くこと自体を億劫に感じるケースも出てくる。また、稀に、名簿を見た購買者が上場予定馬を事前に見に来て、そこで商談が成立してしまう例もある。

 いずれにせよ、それぞれの思惑が交錯しながら、4日間の市場が展開して行く。

 すでに名簿が完成しており、上場馬も公表されている。906頭の1歳馬に関して種牡馬別にまとめたデータによれば、26頭上場予定のリンカーンを筆頭に、ティンバーカントリー24頭、ブラックタキシード22頭、タップダンスシチー20頭などが目につく。

 逆に言えば、それだけの産駒が今の時点で未だに売れ残っているということでもある。ケガや病気のために仕上がりが遅れたり、売約済みだったにも拘わらずキャンセルとなったケースなど、事情は様々だが、セレクト、セレクションからサマーSを経てきて、市場ではすでに顔なじみとなっている上場馬も少なくない。

 産駒頭数の多い種牡馬ほど上場馬もまた多い傾向はあるが、前年度の生産名簿と照合すると、やはり種牡馬ごとの人気度や評価の差が上場頭数に投影している。産駒頭数が決して多くないのに、オータムセールへの上場馬が二桁いるような種牡馬は、それだけ不人気ということになるだろう。

 先月になってから、各種牡馬毎の今年度の配合頭数も発表されている。

 毎年のこととはいえ、前年に引き続き4000頭を集めた社台スタリオンは別格としても、日高の各種馬場では、種牡馬によってかなり増減の著しい結果が出ている。もちろん最終的には当該種牡馬産駒の競走成績に帰結するのだが、その前段として、市場における種牡馬毎の売却成績もまた見逃せない。「走る馬」の前にまず「売れる馬」を生産しなければ経営が成り立たぬと生産者は考える。だからこそ、毎年、めぼしい新種牡馬には人気が集中する。

 ともあれ、オータムセール。どんな結果が待っているか、注目したい。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

新着コラム

コラムを探す