重・不良馬場でのクラシック

2010年04月03日(土) 12:00

 去年の夏にも書きましたが、今回も天気の話です。春到来、東京では桜が満開になったというのに、なんだか天気がスッキリしませんね。スッキリしないだけでなく、今年は風、雨、寒さの“トリプルパンチ”に見舞われ、競馬にも影響が出ています。

 先月21日の中山競馬は、強風のため、発走時刻を大幅に繰り下げて開催されました。また、2日に行われた園田競馬では、8レースと9レースで落馬事故が相次ぎました。園田競馬は、先月22日以降、年度替わりの変則日程で2週連続の4日間開催を実施(通常は火〜木の3日間開催)。そのうちの半分以上が雨にたたられ、この日も馬場は不良でした。落馬はたまたまなのかもしれませんが、荒れ馬場が災いしたとも考えられます。結局、当日の最終レースは、緊急の馬場整備が施されたため、10分ほど遅れての発走となりました。公正競馬の実施、人馬の安全確保を考えれば、当然の措置だったと思います。

 馬の中には、“水かき”がついていると言われるほどの重馬場巧者がいます。でも、そんな馬じゃなければベストパフォーマンスを披露できないような荒れ馬場は、歓迎すべきものとは言えません。去年の日本ダービーが40年ぶりの不良馬場で行われたのは記憶に新しいところ。勝ったロジユニヴァースがその後長い休養を余儀なくされたのは、そういう馬場で一世一代の激走をした反動、と見ているのですが。

 不良のダービーが40年ぶり、だったら、間近に迫ってきた桜花賞、皐月賞はどうでしょう?netkeiba.comの競馬データベースで調べてみました。

 不良の桜花賞は97年が最後。1番人気のキョウエイマーチが2番手から抜け出して優勝したレースです。2番人気のメジロドーベルは後方から長く脚を使って追い込んだものの、4馬身差の2着。それでも、人気通りの“ワンツー”で、不良馬場だからこその波乱にはなりませんでした。

 このレース以前では、90年の桜花賞が重馬場でした。ここでも、1番人気のアグネスフローラが勝って、3番人気のケリーバッグが2着と、比較的堅い決着になっています。サンプル数が少ないので断言はできませんが、重・不良馬場の桜花賞は、実績上位の馬の底力がモノを言う、ってことでしょうか。

 一方、不良馬場の皐月賞は、89年のドクタースパート優勝、ウィナーズサークル2着のレースまで、21年もさかのぼらなくてはなりません。ドクタースパートは道営競馬出身でダートは得意。ウィナーズサークルも皐月賞の前に4戦連続でダート戦を走り、2勝2着2回の成績を残していました。そういう馬が“ワンツー”を果たしたのも、不良馬場だったから、でしょう
か。

 付け加えれば、ウィナーズサークルはその後、良馬場の日本ダービーを制覇するのですが、走破時計2分28秒8は前年(1着サクラチヨノオー)より2秒以上遅く、翌年(同アイネスフウジン)より3.5秒も遅かったんです。この年のダービーも速さより力が求められたレースだったようで、それがダート戦や不良馬場に強かった同馬に味方したとも考えられます。

 もっと前、77年から83年にかけての桜花賞は、1年おきに良馬場と重・不良馬場で開催されていました。77年(1着インターグロリア)が重、79年(同ホースメンテスコ)と81年(同ブロケード)、83年(同シャダイソフィア)が不良。快速牝馬ハギノトップレディが勝った80年は、その間を縫うように良馬場で行われました。これが重・不良だったらどうなっていたでしょうね。

 皐月賞では、83年、ミスターシービーが勝った時も不良でした。あらためて言うまでもなく、同馬はダービー、菊花賞も制して“3冠馬”になりました。不良の皐月賞を激走した反動もなんのその。それくらいタフな馬じゃなければ、史上に残る快挙は成し遂げられない、ってことです。

 こうして考えてみると、10年ほど前までは、桜花賞も皐月賞も、重・不良での開催が珍しくはなかったようです。しかし、ここ数年は悪くても稍重。ほとんどが良馬場での開催で、それが当たり前みたいになっちゃいました。でも、ひょっとしたら、そのことのほうが珍しいことだったのかもしれません。

 願わくば、GIの舞台は絶好の良馬場であってほしいところ。ですが、このところの天気を目の当たりにしていると、重・不良馬場での開催も、これまで以上に覚悟しておかなければいけないでしょう。

 今年の桜花賞、皐月賞の馬場はどうなりますかね?ご存知のとおり、最重要前哨戦のチューリップ賞、弥生賞は重馬場でした。本番が良馬場であれ重・不良馬場であれ、その影響が出てくる可能性がないとは言えないと思うんですけど…。では、また来週!

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矢野吉彦

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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