一番牧草いよいよスタート

2002年06月18日(火) 11:40

 つい先週まで朝晩はストーブのお世話にならなければ過ごせないほどの「寒さ」だった日高も、ようやく17日になって久々の晴天に恵まれた。この時期、天気が良くなればイコール牧草である。「また忙しくなるのか…」とうんざりしながらも、しかし他の牧場に遅れをとってはならぬとばかりに、牧草作業になるとみんなライバル意識を剥き出しにして張り切る。

 これから概ね一ヶ月間は、天気が良ければほぼ毎日トラクターが待っている。かなり体力的にも時間的にも負担が大きくなる仕事だが、不思議なことに牧場関係者の中には、この牧草作業になると急に生き返ったように「元気」になる人も多い。

 別にトラクターが何より好きというわけでもないのだろうが、なかなか目に見えて結果の表れない馬という動物を扱うよりも、どちらかというと、天気相手ではあるけれど、やればやっただけ「成果」が目に見える作業だから、牧草の方がやりがいがある、というところだろうか。

 確かに、同じトラクターでの作業ではあっても、器用に作業をこなす人と、不器用な人とでは、牧草の仕上がりに幾分かの差ができる。また天気をどう見極めるか、という点でも、予報と自らの「皮膚感覚」や「経験」から、いつ刈り取りを始めるかによって、かなり大きな違いが生じる。良質の乾草には最低4日間の晴天が必要だが、とりわけ刈り取りから3日間は連続した晴天が絶対条件とも言える。この見極めが難しいのである。刈り取った牧草が翌日に雨だったりすると、品質はガタ落ちとなり、その雨が数日続くと、もはや飼料にはならなくなってしまうのだ。どんな最新の機械を使っても太陽光線による自然乾燥には勝てないので、この時期、牧場関係者はみんな天気予報をことさら重要視する。「何頭生まれた?」という挨拶から「何頭止まった(受胎した)?」という挨拶へ変るのと同じように、牧草が始まると「天気はどうだ?」とか「牧草刈ったか?」などと、私たちが仲間と交わす挨拶も変化して行く。

 さて、それにしても、今年は全般的に日高も雨が少なかった。とりわけ5月は、例年の数分の一程度だったのではないだろうか。そのせいで、牧草の成長は概して遅れているのと、水分が少ないせいで茎が固くて細い。あまり良質の牧草は収穫できないのではないかと思う。

 また、自然は、必ずどこかで帳尻を合わせるものだ。今までの少雨から一転して7月頃になると毎日どんよりと曇り、雨ばかり降るような天候になってしまうのではないか、と心配する人も少なくない。現に昨年までは、必ず7月上旬から下旬の間に一度は天候が崩れ、長引く雨に泣かされた経験を誰しもが持っている。「梅雨」は、どうも本州だけの話ではない、というのが私たちの常識にもなりつつある。とにかく晴れてくれ、と祈るような気持ちで毎日を過ごすのである。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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