大混戦の凱旋門賞

2010年09月28日(火) 12:00

 ブックメーカー各社が掲げているオッズを並べると、10倍以下に6頭もの馬名が連なる今年の凱旋門賞。近年では見られたことのない、大混戦と言えよう。

 2年に一度は重馬場となる10月第1週目のロンシャンだが、今年もここへ来て降雨が続き、日本の馬場造園課にあたる仕事を司る組織の長であるクラーク・オブ・ザ・コースの説明によると、27日(月曜日)の段階での馬場は「tres souple(不良)に近いsouple(重)」。週後半の木曜日、金曜日にも雨が降るとの予報が出ており、今年も道悪での凱旋門賞となるのは避けがたい状況だ。

 力の要る馬場が舞台となりスタミナが不可欠ということになると、管理するエイダン・オブライエンが「ベストは10F」としているケイプブランコ(牡3、父ガリレオ)や、仏オークスを制した後に管理調教師アラン・ドゥロワイエデュプレから「2400mは長いかも」との発言があったサラフィナ(牝3、父リフューズトゥベンド)らにとっては、苦しい戦いとなりそうだ。

 上位人気馬の中で道悪巧者と言えば、tres souple(不良)の状態で行われたG1パリ大賞の1・2着馬ベーカバッド(牡3、父ケイプクロス)とプラントゥール(牡3、父デインヒルダンサー)だろう。

 自身がマイラーだったケイプクロス産駒のスタミナについては、シーザスターズが出現した昨年、各所でさんざんで論じられた。シーザスターズは別格としても、12FのG1・3勝のウィジャボードも出しているケイプクロスにスタミナの欠如があるとも思えず、ましてやベーカバッドの場合は、母ベーカラが不良馬場で行われた3000mのG2ユベールドシャデネイ賞の勝ち馬で、祖母ベヘーラが凱旋門賞2着馬だから、牝系はスタミナの宝庫だ。渋れば渋るほど、ベーカバッドの勝機は増すだろう。

 プラントゥールの父デインヒルダンサーも現役時代は6FのG1フェニックスSや7FのG1ナショナルSの勝ち馬で、8F以上では勝ち星がなかったというスピードタイプだった。ここまでの産駒にもマイル以下での活躍馬が圧倒的に多く、ケイプクロスよりはスタミナの不安がある種牡馬である。一方でプラントゥールもまた、母の兄弟に12F路線の重賞4勝のポリシーメイカー、12Fの重賞ランカシャオークス勝ち馬プレイスルージュ、4000mのG1カドラン賞2着馬プシュキンらがおり、牝系からスタミナを補充されている。

 デインヒルダンサー産駒には、馬場状態が重くなればなるほど勝率が高くなるという統計が出ており、プラントゥールも道悪は大歓迎のクチだろう。

 ということで、ニエユ賞の1・2着コンビが本番でも主役を務めることになりそうである。

 古馬の代表格フェイムアンドグローリー(牡4、父モンジュー)も、2歳時にサンクルーでG1クリテリウムドサンクルーを勝った時は不良馬場だったので、馬場悪化で大きく割り引く必要はない馬だ。ただし、今季のベストパフォーマンスであるエプソムのG1コロネーションCでのレース振りを見ると、スピードの持続性がこの馬の持ち味で、力比べのようなレースになると勝機は落ちると見る。

 ただし、父は御存知のように、レース史上でも最も馬場が悪化した年の凱旋門賞馬だけに、道悪の巧拙を論じる段階を越えるような極悪馬場になった場合は、まとめて面倒を見てしまう可能性がありそうだ。

 わずか4戦というキャリアの中に、物凄く強い競馬と不甲斐ない競馬が同居し、なおかつ、ここは7月24日のキングジョージ以来となる実戦と、そうでなくても判らないことが多いワークフォース(牡3、父キングズベスト)は、雨が降ったことで、もっと判らなくなった。

 そもそも父のキングズベストが、3歳シーズン半ばに故障で引退し、距離をこなしたかどうか、実際のところはわからなかった馬だ。ワークフォ−スやエイシンフラッシュが出現する以前のキングズベスト産駒にはマイル以下での活躍馬が多く、スタミナに太鼓判を押せる種牡馬ではない。一方、おじに英セントレジャー勝ち馬ブライアンボルーがいて、祖母エヴァルーナはセントレジャーと同コース同距離のG3パークヒルの勝ち馬だから、ワークフォースもまた、牝系の影響を色濃く受け継いでいればスタミナに不安はない。

 そしてワークフォースは、ここまで重馬場の経験が一度もない。キングズベスト産駒には、馬場によるパフォーマンスの違いはほとんど見られないが、その父キングマンボの産駒には、馬場が乾いた方が勝率が良いという明らかなデータが出ており、総合的に見ると、不安材料が多いと言わざるを得ないのがワークフォースである。

 1・2番人気で決まった年が過去10年で1度しかなく、連対馬の半数近い9頭が5番人気以下と、そもそも荒れる傾向があるのが凱旋門賞だ。冒頭で述べたような近年稀にみる混戦であれば、なおさら、ブックメーカーでの評価は低い日本馬2頭にもチャンスはあるはずだ。

 ニエユ賞の後、距離に対する不安を唱える欧州の記者が複数いたのが、ヴィクトワールピサ(牡3、父ネオユニヴァース)だ。確かに、良い手ごたえで上がって行きながらゴール前で失速したレース振りには、スタミナへの不安を想起させるものがあったことは間違いない。また、兄のアサクサデンエンはトップマイラーであり、母の父マキャヴェリアンもスピード色の濃い種牡馬である。

 その一方で、父ネオユニヴァースは重馬場で行われた日本ダービーの勝ち馬である。そして母ホワイトウォーターアフェアも、2500mのG2ポモーヌ賞や12FのG3ジョンポーターSの勝ち馬で、2400mでパタっと来る血統では決してない。

 自身も重馬場の弥生賞を快勝しており、道悪がダメというタイプでもないと思うが、一方で、この馬が勝機を掴むとしたら、皐月賞で見せたような爆発的な瞬発力が活きる展開になった時で、そういう意味では良馬場でやりたかったところである。

 レース史上でもまれな道悪となった昨年のダービーで、上位3着までを先行した馬たちが占めた中、最後方に近い位置から追い込み4着に食い込んだのがナカヤマフェスタ(牡4、父ステイゴールド)である。宝塚記念の時にも馬場は渋り気味だったし、父ステイゴールドが悲願の重賞初制覇を果たした目黒記念も重馬場だったから、ナカヤマフェスタにとって馬場悪化に対する懸念はないと見たい。

 初めて背負う59.5kgが気懸かりだが、かつて“気まぐれジョージ”が斤量が重いと馬が落ち着いて好成績を挙げていただけに、“気まぐれフェスタ”にも良い方向に作用してくれることを祈りたい。

合田直弘氏の最新情報は、合田直弘Official Blog『International Racegoers' Club』でも展開中です。是非、ご覧ください。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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