寒波と大雪による影響

2010年12月14日(火) 00:00

 11月下旬からヨーロッパやアメリカ中西部を襲っている寒波と大雪は、12月半ばを迎えてなお衰えることが無く、各地から被害の報告が届いている。

 筆者は11月28日(日曜日)の夜に、タタソールズ主催の繁殖牝馬セールが行われるイギリスのニューマーケットに入ったのだが、地面に残る雪を見てびっくり。更に翌朝、目を覚まして窓のカーテンをあけると、一面すっぽりと雪に覆われた銀世界が広がっていて、仰天したものである。

 タタソールズ繁殖牝馬セールには、既に20年以上、毎年のように足を運んでいるのだが、みぞれ混じりの冷たい雨が降ったことはあっても、積もるような雪が降ったのは初めての体験だった。地元の人に聞いても、年が明けて1月から3月にかけて雪が降ることはあっても、11月に積もるほどの雪が降るというのは極めて異例だそうだ。

 イギリスでは、南部のガトウィック空港が閉鎖に。ヒースロー空港は稼動していたが、飛んでくるはずの便が飛んで来ず、機体の都合がつかないという理由で、かなりの欠航が出て、タタソールズを訪れていた日本人購買者の帰国の足にも影響が出ることになった。

 お隣りアイルランドのダブリン空港も閉鎖になり、アイルランドに厩舎を構える児玉敬調教師は、タタソールズからの帰国便が飛ばなくなって、結局、馬運車に便乗して陸路とフェリーを使って帰国するはめになったという。

 更に12月2日(木曜日)に、アルカナ主催の牝馬セールが開催されるフランスのドーヴィルに移動すべく、ニューマーケットに近いスタンステッド空港からドーヴィル空港行きの飛行機に乗ったのだが、ドーヴィル空港が雪の影響で閉鎖になり、搭乗機はルアーブル空港に着陸。そこから小一時間バスに揺られてドーヴィルに着いたら、ここもすっぽりと雪に覆われており、これではドーヴィル空港に降りられなかったのも道理と、納得したものである。

 異常気象は、競馬の世界にも影響を及ぼしている。

 前出の児玉師によれば、馬場はとても本格的な調教が行える状況ではなく、軽い運動を施すのが精一杯だったそうだ。

 この時期はちょうど、12月12日にシャティン競馬場で行われた香港国際競走へ向けて、欧州から参戦する馬が旅立つ日々と重なった。降雪によって、直前の調整に狂いが出た馬もいたようだ。例えば、ドイツから香港ヴァーズに参戦予定だったスカロは、異常な低温で馬が体調を崩し、熱発して直前に遠征を断念することになった。

 ニューマーケットにほど近いスタンステッド空港からの輸送便には影響が出なかったが、ひょっとすると大きなディレイがあるかもしれないとの情報が事前にもたらされたのが、12月3日にヒースロウ空港から飛んだ便だった。マイルに出走したパコボーイやドリームイーターらとともに、この便に乗ることになっていた、ヴァーズ出走のインディアンデイズを管理するジェームス・ギヴン調教師によると、直前の調整や、厩舎から空港までの馬運車での移動にかなりの支障が出た上に、空港に足止めされる可能性を示唆され、相当にストレスの溜まる輸送になったという。各馬、結果的には無事香港入りを果たせたのは、幸いであった。

 また、アルカナの繁殖牝馬セールでも、シャンティイから来る馬運車が、雪によるひどい渋滞に巻き込まれ、予定の時間を過ぎてもドーヴィルに到着できず、下見の時間になっても空っぽのままの馬房が散見されるという事態となった。

 寒波の襲来から既に半月以上が経つが、冬将軍は一向に立ち去る気配がなく、イギリスでは今週末の競馬開催に支障が出るのではないかと懸念されている。

 16日(木曜日)の夜から大寒波が訪れるという予報が出ているのが、17日(金曜日)・18日(土曜日)に開催が予定されているアスコット競馬場周辺だ。雪が降る上に、夜間の気温が氷点下5度まで下がることが予想され、仮に金曜日の競馬は開催出来たとしても、準重賞のラドブロークス・ハードルをメインレースとする土曜日の開催が行えるかどうかについては、現状では「50−50」と、アスコット競馬場関係者はコメントしている。

 同じく18日(土曜日)に開催を予定しているヘイドック競馬場も、状況は同様で、予定通り行わるかどうか微妙な情勢だ。

 更にイギリスでは、1週間後の12月26日に、ケンプトン競馬場でG1キングジョージ6世チェイスが行われる。障害界のスーパースター・コートスターの5連覇がかかっていることで、例年以上に大きな注目を集めているこのレースだが、ケンプトン周辺もまた今週末は、夜間の気温がマイナス6〜7度まで下がるとの予報が出ている。来週の予報は悪くないものの、開催が無事行えるかどうか、今から気を揉んでいるファンが多いようだ。

 これから1週間、ヨーロッパの天候がおおいに気になるところである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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