海外のフレッシュマンサイアーの記録

2011年01月11日(火) 00:00

 アイルランドのキルダンガンスタッドで供用中のイフラージ(父ザフォニック)、日本の社台スタリオンで供用中のディープインパクトは、いずれも2010年に初年度産駒が競走年齢(2歳)を迎えたフレッシュマンサイアーだった。そして2歳シーズン終了時までに、イフラージが38頭、ディープインパクトが35頭の勝ち馬を出し、イフラージはヨーロッパにおける、ディープインパクトは日本における、フレッシュマンサイアーが送り出した2歳勝ち馬数の新記録を樹立した。

 ちなみにこれまでの記録は、ヨーロッパが06年にインヴィンシブルスピリットが作った35頭、日本は、本邦新種牡馬としてトワイニングが03年に作った34頭だった。

 またこの部門の世界記録は、08年にアメリカのチャペルロイヤル、09年に同じくアメリカのワイルドキャットエアがマークした39頭で、イフラージは1頭、ディープインパクトは4頭、ワールドレコードには届かなかったわけである。

 実は、こうした若手種牡馬の頑張りが、これまで日の目を見ることなく埋もれていたととてつもない大記録を発掘することになった。

 フレッシュマンサイアーの記録が39頭なら、フレッシュマンサイアーに限ることのない、2歳勝ち馬数のワールドレコードは一体、どの種牡馬が作ったどんな記録なのか、という、過去の記録探しが各地域で始まったのである。

 ちなみに日本では、04年に、サンデーサイレンスの最後から数えて2代目となる世代が、地方所属馬だったモエレフェニックスを含めて47頭の2歳勝ち馬を輩出。更に同年、シャンハイの2歳世代も同数の47頭が勝ち上がっており、これが日本記録であろうと認識された。

 したがって、である。アイルランドのナショナル・スタッドが、アメリカの競馬日刊紙サラブレッド・デイリー・ニュースの昨年12月30日付けの紙面を借りて、「本場繋養のインヴィンシブルスピリットが今年(2010年)、42頭の2歳勝ち馬を輩出したが、これは北半球レコードであると思われる」との声明を発表した時、日本における競馬関係者やファンの一部は即座に、「これは誤り」と気付くことになった。

 もっとも、発表したアイリッシュ・ナショナル・スタッドのスタリオン・ノミネーション・マネージャー、ジュリー・リンチさんも「世界各国の種牡馬統計を集めるにあたっては入手の困難な地域もあり、なおかつ、これは自分自身の手作業による集計作業であった」と、あくまでも「手元の集計による」新記録という注釈付きの声明であった。

 日本以外にも、インヴィンシブルスピリットの数字が新記録ではないことに気付いた人がいて、その一人が、7月にノーザンホースパークで行われるJRHAセレクトセールの取材に毎年のように訪れている、フリーの記者ミシェル・マクドナルドさんだった。彼女は、ディープインパクトの初年度産駒が勝ち馬を量産していることを知り、これに関連した記録を調べているうちに、04年にサンデーサイレンスがマークした記録を把握するに至っていたのである。マクドナルドさんは早速、アイリッシュ・ナショナル・スタッドとサラブレッド・デイリー・ニュースに連絡し、日本にこういう記録がありますよと連絡をしたそうだ。

 更に、である。アイリッシュ・ナショナル・スタッドの声明が誤りであると指摘するについては、サンデーサイレンスの記録に誤りがあってはいけないと思ったマクドナルドさんは、自らの手で04年の記録を再調査したところ、以下の事実を発見したのである。

 2004年に2歳世代となったサンデーサイレンス産駒はヨーロッパにもおり、なんと4頭も2歳シーズンに勝ち馬になっていたのだ。

 まず、7月10日、フランスのドーヴィルで行われた2歳新馬戦を、ダーレーによる北米産のサンデーサイレンス産駒レイマン(母ライール、馬主シェイク・モハメド、調教師アンドレ・ファーブル)が優勝。

 続いて7月30日、イギリスのニューマーケットで行われたメイドンを、ゲインズボロー・スタッドによる日本産のサンデーサイレンス産駒サンキスト(母フライングキッス、馬主ゴドルフィン、調教師サイード・ビン・スルール)が優勝。

 9月4日には、イギリスのサースクで行われたメイドンを、ダーレーによる英国産のサンデーサイレンス産駒サンデーシンフォニー(母ダレリー、馬主ゴドルフィン、調教師サイード・ビン・スルール)が優勝。

 そして9月28日にフランスのシャンティイで行われた2歳戦を、ヴェルトハイマー兄弟による日本産のサンデーサイレンス産駒サイレントネーム(母ダンジグアウェー、調教師マダム・ヘッド・マーレク)が優勝。

 すなわち、サンデーサイレンスが2004年に送り出した2歳勝ち馬数は、日本の47頭にヨーロッパの4頭を足して、51頭に到達していたのである。

 サンデーサイレンスのモンスターぶりを、改めて知らしめる大記録と言えよう。

 果たしてこれが、正真正銘のワールドレコードか?! 南米あたりに更に上を行く数字が潜んでいないとも言い切れず、公式認定には更なる調査が必要のようだ。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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