凱旋門賞の騎手事情

2011年09月21日(水) 12:00

 欧州における秋の大一番G1凱旋門賞(10月2日、ロンシャン)まで10日余りとなり、有力馬の勢力分布がほぼ固まった中、未だファンとって気懸かりな不確定要素となっているのが、騎乗者にまつわる現状だ。

 当日、前売り上位人気に挙げられているワークフォース(牡4、父キングズベスト)とソーユーシンク(牡5、父ハイチャパラル)の鞍上に居るのは、はたして誰なのか?!

 ナカヤマフェスタを半馬身退けた昨年に続く連覇を狙うワークフォースの主戦は、イギリスのチャンピオンジョッキーのライアン・ムーア(28歳)だ。同馬のここまでの8戦全てで、ムーアが手綱を握っている。

 ところがそのムーアが負傷し長期戦線離脱を余儀なくされたのが、ワークフォースの前走となったG1キングジョージから1週間が経過した7月30日のことだった。アクシデントが発生したのは、夏のグロリアス開催最終日を迎えたグッドウッド競馬場の第2競走だ。直前入り口でクリス・カトリン騎乗のキャプテンジョンニクソン(牡4)が、前脚に故障を発生して転倒。すぐ後ろを走っていたムーア騎乗のヴァーディクト(牡4)が、避けきれずにキャプテンジョンニクソンに接触して転倒。地面に投げ出されたムーアは近くのセントリチャーズ病院に搬送され、診断の結果、右上腕と右手親指を骨折する重傷を負ったのである。

 それぞれの骨折箇所にプレートを埋め込む手術を受けたムーアは当初、今季中の復帰は難しいとされていたが、本人は凱旋門賞での騎乗を諦めず、懸命なリハビリを開始。ジムに通って動かせる部分の筋力維持に努め、本人いわく状態は悪くないという。9月19日に診断を仰いだ専門医は、9月末には騎乗出来るとの見通しを語ったが、復帰するには主催者BHA嘱託医による御墨付きが必要だ。

 ワークフォースは、決して乗りやすい馬ではないというのが、周辺の見方だ。仮にムーアが間に合ったとしても、状態が万全でなければ、一抹の不安は残る。

 一方、嘱託医のゴーサインが出なかった場合、誰が騎乗することになるのか。ムーアの戦線離脱以来、マイケル・スタウト厩舎の馬にはキーアラン・ファーロン、ジミー・フォーチュンらが起用されている他、9月10日にドンカスターで行われたG1セントレジャーに1番人気で出走したシームーン(牡3、父ビートホロウ)には、フランスからオリヴィエ・ペリエが呼ばれて騎乗している。

 9月3日にレパーズタウンで行われたG1愛チャンピオンSを制したのが、昨年まで在籍したオーストラリア時代を含めると8度目のG1制覇となったソーユーシンク。次の目標として、自身の3連覇がかかったコックスプレートを狙いにオーストラリアに凱旋帰国するプランを含め、複数の選択肢が検討されていたが、陣営から凱旋門賞出走表明が出たのが、9月15日のことだった。

 今季のエイダン・オブライエン厩舎は主戦騎手を置かず、手の空いている騎手から腕利きを選んで起用する方針でここまでやってきた。そんな中、オブライエンのファーストチョイスはライアン・ムーアで、大一番では可能な限りムーアを起用。ソーユーシンクも今季ここまで5戦のうち、2戦目のG1タタソールズGCと3戦目のG1プリンスオヴウェールスSではムーアが手綱をとっていた。一方、そのムーアが主戦契約を結ぶマイケル・スタウトの管理馬とかち合い騎乗出来なかった残りの3戦で、ソーユーシンクに騎乗していたのはシーミー・ヘファーナンだった。

 一方、オブライエン厩舎の馬がフランスに遠征する際に、しばしば起用されているのがフランスのトップジョッキー、クリストフ・スミヨンだ。例えば、9月11日にロンシャンで行われた凱旋門賞プレップのG2フォワ賞に出走したセントニコラスアベイ(牡4、父モンジュー)や、同カードのG1ヴェルメイユ賞に出走したワンダーオヴワンダース(牝3、父キングマンボ)の手綱をとったのはスミヨンだった。スミヨンが主戦契約を結ぶウィルデンシュタイン家の所有馬に凱旋門賞で有力視される馬はおらず、これまでの経緯か
らすると、凱旋門賞におけるソーユーシンクもスミヨンが騎乗するというのが、順当な線と見られていた。

 ところが、9月11日にロンシャンで行われた最終レースで、グラスハウトンに騎乗していたスミヨンが進路妨害を犯して降着処分となり、15日間の騎乗停止を科せられることになったのだ。現在、スミヨンは異議申し立てを行っているが、裁定が覆らなければ、10月2日の騎乗は不可能になったのである。

 こうなると、騎乗経験のあるシーミー・ヘファーナンが指名されるのか、それとも、ロンシャンを良く知るフランスの騎手で手の空いている腕利きを起用するのか。

 馬券を買うファンとしては、ぎりぎりまで気が揉めることになりそうである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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