凱旋門賞回顧

2011年10月05日(水) 12:00

アークウィークエンドのロンシャンから、残念ながら日本向けの吉報は聞こえて来なかった。

 まず、1日(土曜日)に行われた1950mのG2ドラール賞に出走したナカヤマナイト(牡3、父ステイゴールド)。スタートで安めを打った前走とは異なり、好スタートから道中は2番手に付けるという積極的な競馬をしたものの、直線に入ると脚を失くして11頭立ての10着に敗れてしまった。

 優勝したバイワード(牡5、父パントルセレブル)は昨年のG1プリンスオヴウェールズS(芝10F、ロイヤルアスコット)勝ち馬で、2着馬シリュスデゼーグル(セン5、父イーヴントップ)は前走G2ドーヴィル大賞典を10馬身差で制した実績を評価されワールドランンキングの7位に名を連ねている馬と、上位馬はいずれもG1級の馬たちだった。

 従って、致し方のない敗戦と見ることも出来るが、しかし一方で、2頭から12馬身以上離されるほど、ナカヤマナイトが能力的に劣る馬とも思えない。真価を発揮出来なかったとすれば、原因はアウェイの洗礼を受け、心身ともに本来の姿を見失っていたと見るのが妥当であろう。

 ドラール賞で、1.9倍の圧倒的支持を受けたシリュスデゼーグルが敗れた段階で、ロンシャンの馬場が相当に硬くなっていることが、誰の目にも明白になった。

 そんな舞台設定で迎えた、2日(日曜日)の凱旋門賞。残念ながら今年も、日本調教馬にとって悲願の優勝は実現しなかった。

 今年参戦した2頭は、1頭が昨年のこのレースの2着馬で、もう1頭は前哨戦の中でも水準が高かったG2フォワ賞の2着馬である。しかも、季節的に重馬場になる可能性の高いロンシャンの馬場が、異常気象と言っても過言ではない高温によってパンパンの良馬場になるという、日本馬にとって絶好の舞台が整ったのだ。

 客観的に見て、大きなチャンスがあると見られていただけに、残念な敗戦と言わねばなるまい。

 原因はいくつか挙げられよう。1つは、ヒルノダムール(牡4、父マンハタンカフェ)が最内の1番枠、ナカヤマフェスタ(牡5、父ステイゴールド)が大外の16番枠と、いずれも競馬がしやすいとは言えない枠順を引いてしまった点にあろうだ。

 仮柵をとって行う凱旋門賞は、明らかに内枠が有利と言われており、そんな中、1番枠という絶好過ぎる枠は包まれる危惧があったし、16番枠という大外は、その段階ですでに大きなハンデを背負っての出走となった。

 13番枠からスタートした1番人気のサラフィナ(牝4、父リフューズトゥベンド)や、14番枠からスタートした4番人気のソーユーシンク(牡5、父ハイチャパラル)らも、思い描いていたレースが出来ずに敗退している。

 ヒルノダムールについて言えば、まるで真夏のような気候にも左右されたかもしれない。究極の仕上げでいくらかピリピリしていたところへ持ってきて、暑さも加わりパドックを歩く頃から相当の発汗が見られた。ゲートに入るまでに余計な消耗があったとしたら、この水準のレースで勝ち負けするのは難しい。

 ナカヤマフェスタについて言えば、故障で10か月半休んだ後、実戦を一度使われたのみで本番をむかえた今年、心身ともに100%にあった昨年と同じパフォーマンスを望むのは、いささか酷であったかもしれない。

 硬かった馬場が、欧州のトップホースたちにすべからく何らかの影響を与えたことは確実で、前出のサラフィナやソーユーシンクのみならず、連覇を狙ったワークフォース(牡4、父キングズベスト)、前哨戦のG2ニエル賞で非常に良い競馬をした仏ダービー馬リライアブルマン(牡3、父ダラカニ)らの思ってもなかった大敗も、要因は馬場にあったと見るべきであろう。

 だからと言って、硬い馬場が得手と見られていた馬が勝ったわけではなく、むしろ下馬評では「道悪なら」と言われていた馬が勝利を収めるところが、競馬の難しいところである。

 勝ったのは、ドイツから遠征した3歳牝馬デインドリーム(牝3、父ロミタス)だった。ドイツ調教馬というだけで、道悪巧者とのイメージに捉われたわけではない。ドイツにおけるこの路線の最高峰と言われるG1バーデン大賞(芝2400m)で、古馬の牡馬を蹴散らして6馬身差の圧勝を演じた際の馬場がVery Softで、勝ちタイムは2分37秒52。

 前々走、同じく古馬の牡馬を相手に5馬身差でG1ベルリン大賞(芝2400m)を制した際には、馬場こそGoodだったが、勝ち時計は2分33秒50。5月にG2イタリアオークス(芝2200m)を制した際も、馬場はGoodで勝ち時計は2分15秒20と、力量の高さは充分承知していたものの、時計勝負を得手とする馬とはとても思えぬ戦績であった。

 そういう馬が、勝ち時計2分24秒49というレースレコードでの決着となった凱旋門賞を、2着以下に5馬身という決定的な差を付けて優勝したのである。これはもはや、圧倒的力量を誇る上に、馬場状態を問わないという、近年稀に見る大きなスケールを誇る名牝の誕生と評価せざるを得なさそうだ。

 馬が元気であれば、ジャパンC参戦も噂されるデインドリーム。日本の競馬を盛り上げるためにも、ぜひ来日して欲しいものである。

▼ 合田直弘氏の最新情報は、合田直弘Official Blog『International Racegoers' Club』でも展開中です。是非、ご覧ください。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

新着コラム

コラムを探す