BCの注目はジュヴェナイルとマイル

2011年11月02日(水) 12:00

 アメリカ競馬の祭典「第28回ブリーダーズC」が、4日(金曜日)、5日(土曜日)の両日にわたって、ケンタッキー州チャーチルダウンズを舞台に開催される。

 近年拡大の一途を辿るブリーダーズC。今年は2歳馬のための短距離戦BCジュヴェナイルスプリント(ダート6F)が新設され、2日間で合計15競走が、総額2550万ドルの賞金を懸けて催される。

 昨年に続くチャーチルダウンズ開催だが、レースの新設以外で昨年とは異なるのが、2日目のレース順だ。500万ドルレースの「クラシック(ダート10F)」をメイン競走とし、ダートと芝のレースを交互に行っている点では昨年と同様である。だが、長年にわたって準メインとして行われてきた「ターフ(芝12F)」が、今年は後ろから4番目に降格。代わって今年、BC史上初めて準メインの扱いを受けるのが「マイル(芝8F)」なのだ。

 更に、昨年は後ろから3番目、ダートに限れば準メインの扱いだった「ダートマイル(ダート8F)」が、今年は後ろから5番目に降格。変わってダートの準メインの座に据えられるのが、2歳牡馬・セン馬による「ジュヴェナイル(ダート8.5F)」なのである。

 すなわち、興業主としてのブリーダーズC協会が、今年は盛り上がりそうだと見ているのが「ジュヴェナイル」と「マイル」で、出走メンバーを見渡せば、そこには確かに昇格してしかるべき理由が見出されるのである。

「ダートマイル」を差し置いて「ジュヴェナイル」をダートの準メインに据えた背景にあるのは、北米競馬の現状である。思い返せば1年前、そこまで17戦無敗で来ていたゼニヤッタのラストランとなった第27回ブリーダーズCの、何と盛り上がったことか!!。発走前、向こう正面にある厩舎地区から、馬場を通ってゼニヤッタがファンの前に姿を現した時に、スタンド全体を包んだ熱狂は、アメリカスポーツ史に残る名場面と語り継がれている。そのゼニヤッタが競馬場を去り、アメリカの競馬は残念ながらスター不在の時代を迎えた。そうでなくても古馬勢の層が薄かった上に、期待の3歳世代もG1競走が行われるたびに猫の目のように勝ち馬が変わる有様で、競馬ファン以外にも名前を知られる競走馬は見当たらなくなってしまった。

 こうなると、期待がかかるのが現2歳世代だ。そして「ジュヴェナイル」には、次代のスター候補と目される存在が、確かにスタンバイしているのである。

 ダートの準メイン「ジュヴェナイル」で主役の座を務めるのは、ユニオンラッグス(牡2、父ディキシーユニオン)だ。

 ユニオンラッグスはフィリス・ウェイス氏のチャドス・フォード・ステーブルによる自家生産馬だが、実は2度せり市場をくぐっている。最初は1歳夏、ファシグティプトン・サラトガセールに上場され、IEAHステーブルに14万5千ドルで購買されている。続いて今年3月、同馬はファシグティプトン・フロリダ2歳セールに登場し、今度が39万ドルの値が付いて転売されたのだが、購買したのは同馬の生産者であるフィリス・ウェイス氏であった。すなわち、一度は手放した自分の生産馬を、2歳セールに気に入り買い戻した形になったのである。

 06年のケンタッキーダービー馬バーバロなどを手掛けたマイケル・マッツ調教師の下に送られたユニオンラッグスは、7月12日にデラウェア競馬場のメイドン(ダート5F)でデビューし、ここを1.3/4馬身差で制してデビュー勝ち。続いて8月15日にサラトガで行われたG2サラトガスペシャル(ダート6.5F)に駒を進め、なんと7.1/4馬身差で制して重賞初制覇。更に前走、10月8日にベルモントパークで行われたG1シャンパンS(ダート8F)も5.1/4馬身差で快勝。無傷の3連勝で、ブリーダーズCに挑むことになったのである。

 B・バファートが送り込む西海岸のG1デルマーフューチュリティ(AW7F)勝ち馬ドリル(牡2、父ロイヤーロン)や、そのドリルを破って西海岸の前哨戦G1ノーフォ-クS(ダート8.5F)を制したクリエイティヴコウズ(牡2、父ジャイアンツコウズウェイ)、中部地区の前哨戦G1ブリーダーズフューチュリティ(AW8.5F)らが相手となろう。

 だが、ユニオンラッグスが無敗の4連勝を飾って新たなスター誕生というのが、主催者やファンの期待するところなのだ。

「マイル」を準メインに持ってきた理由は、ひとえに、そこにゴールディコーヴァ(牝6、父アナバー)がいるからだ。

 御存知のごとく、2008年から2010年までこのレースを3連覇している女傑であり、空前にしておそらくは絶後のものとなろうブリーダーズC4連覇を成し遂げるために、6歳となった今季も現役に残った馬である。競馬史に燦然と輝く偉大な記録達成の瞬間を創造し、その興奮冷めやらぬうちにメイン競走のクラシックに突入するというのが、主催者の描いたシナリオであるはずだ。

 5月22日、後にG1英チャンピオンS(芝10F)を制することになるシリュスデゼーグル(セン5、父イーヴントップ)を退けて、今季初戦となったG1イスパーン賞(芝1850m)をモノにしたゴールディコーヴァ。前年に続く連覇を狙ったロイヤルアスコットのG1クイーンアンS(芝8F)では、英国の古馬最強マイラー・キャンフォードクリフス(牡4、父タギュラ)の2着に惜敗したものの、続くドーヴィルの牝馬限定G1ロスチャイルド賞(芝1600m)ではきっちりと勝利を収めてこのレース4連覇を達成するとともに、通算14個目のG1を手中にした。

 ところが、続くG1ジャックルマロワ賞(芝1600m)では、3歳年下のインモータルヴァーズ(牝3、父ピヴォタル)に、1馬身差を付けられる2着に敗退。前走、10月2日にロンシャンで行われたG1ラフォレ(芝1400m)でも、頭差ながらドリームアヘッド(牡3、父ディクタット)に遅れをとり、2連敗を喫したのである。

 ゴールディコーヴァが連敗するのは、3歳の春に、一般戦2着、G1仏1000ギニー2着、G1仏オークス3着と3連敗して以来、実に3年4か月振りのことなのだ。

 管理するF・ヘッド調教師は「瞬発力にいくらか翳りが出てきたかもしれない」とコメント。少なくとも、絶対的な存在ではなくなっていることは、間違いなさそうである。

 前走G1シャドウェルターフマイルで自身7度目のG1制覇を果たした、北米における芝の最強馬ジオポンティ(牡6、父テイルオヴザキャット)、前走G2ドラール賞(芝1950m)を勝って完全復活を印象付けた実力馬バイワード(牡5、父パントレセレブル)、前走ニューマ-ケットのG2チャレンジS(芝7F)を4.1/2馬身差で制した上がり馬ストロングスート(牡3、父ラーヒ)など、女王の足元を掬おうと狙う馬たちの顔触れも多彩だ。

 果たして主催者の思惑通りの結末になるか。ブリーダーズCの「ジュヴェナイル」と「マイル」の行方にご注目いただきたい。

▼ 合田直弘氏の最新情報は、合田直弘Official Blog『International Racegoers' Club』でも展開中です。是非、ご覧ください。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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