週刊サラブレッドレーシングポスト

2003年01月06日(月) 12:51

 年末から年始にかけて、アメリカのカリフォルニアで行われたテレビ番組(グリーンチャンネル放送予定)のロケに参加していた。取材対象は、『馬と話す男』の異名をとる馴致の達人モンティー・ロバーツ氏。12月28日に日本側スタッフと現地カメラクルーが合流し、1月1日まで都合5日間の収録スケジュールが組まれていた。

 モンティー・ロバーツと言えば、馬関係者の間では既にカリスマ視されている存在である。競馬の世界では、70年代の凱旋門賞連覇を達成したアレッジドや、ドイツの名馬ロミタスの馴致を行った人として高名である。

 馬という動物に、背中に人を乗せて運ぶことを教える『馴致』は、繊細さと大胆さの両方が求められる作業だ。背中に鞍すら置かれたことのない馬にとっては、鞍下の毛布を乗せられたたけで一体何をされるのかと恐れおののき、腹帯を締められでもしたら、あたかも体中を戒められたかのような過剰な反応を示すのが普通である。これを、おとなしく馬装を整えさせ、鞍上の指示に従って従順に動く様にするのは並大抵のことではなく、新馬調教が行われる季節の育成牧場では、ロデオさながらの場面が日常茶飯事のように展開されるのである。

 これが、モンティー・ロバーツの手にかかると、どんなに難しい馬でも30分もあれば喜んで人を乗せるまでに調教されてしまうのである。こうした文面だけを見ると、眉唾ものに聞こえる向きもあるかもしれないが、実際にモンティー・ロバーツは幾度も観衆の前でこれを実演して見せているので、嘘偽りは微塵も入り込む余地はないのである。

 29日は、ローズボウル・スタジアムの一帯で催されていた地域フェスティヴァルに参加していたロバーツ氏を取材。ここでの氏は、自著のサイン即売会をやったり、訪れる聴衆から寄せられる馴致に関する質問に丁寧に答えていた。

 30日は、午前中が氏へのロングインタビュー。午後がロサンゼルス・イクイストリアンセンター(市の乗馬センター)で、いよいよ馴致の実演を収録。この日は3頭の馴致を行ったが、1頭目が一般的な新馬調教。全くの新馬が、本当に30分後には鞍を付けて人を乗せているという、マジックを目の前で見せてくれた。

 2頭目には、傘に対して異常な恐怖心を持つ馬が登場。はじめは、閉じてある傘を近づけるだけでパニックに陥っていた馬が、1時間近くかけて、開いた傘を持つロバーツ氏の後を引き手も無しに付いて歩くようになった。

 3頭目が、馬運車に乗るのを嫌がる馬の調教。こちらは20分ほどで、モンティー氏が一声かければスタスタと乗る様になった。31日は、ロバーツ氏の本拠地であるフラッグイズアップ・ファームを訪問。最終日の1月1日は、カリフォルニアにおける元旦の風物詩『ローズボウル・パレード』に参加し、パサデナの街中を馬に乗って練り歩くロバーツ氏を取材した。

 番組はこれから編集作業に入るが、ハイライトは何と言ってもロングインタビューと、馴致の実演だろう。端くれながら乗馬の心得のある筆者としては、極めて興味深いインタビューだったし、実演はまさに目から鱗が落ちる思いがした。

 放送は、グリーンチャンネルで3月下旬の予定。競馬や乗馬とは無縁の方にとっても、人と動物にはこんなつきあい方もあるのだということを知る、貴重な機会になるだろう。ぜひ一人でもたくさんの方に御覧いただきたいと思う。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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