第44回ばんえい記念

2012年03月28日(水) 18:00

 2011年度開催の最後を飾る大一番の「第44回ばんえい記念」が3月25日(日)、帯広競馬場で行われた。

 前日から降り出した雪のために、日高から野塚トンネルを抜け十勝へ通じる国道236号線は、雪崩によりこの日の朝から通行止めになった。毎年、ばんえい記念だけは見に行くという人が日高に大勢いる。しかし、この通行止めのせいで、私はもちろんのこと他にもえりもを迂回するルートへの変更を余儀なくされた人が続出であった。所要時間は4時間余。1時間以上は余分にかかった計算になる。

 ずっと雪が降り続いていた。いつもの年ならば3月下旬ともなるといくら北海道とはいえ春めいてくるものだが、今年はどういうわけかいつまでも冬のままである。帯広競馬場も小雪であった。そのせいで馬場水分が高く、そりの滑りが良くなるために“軽馬場”である。

ニシキダイジンがラストラン飾る

ニシキダイジンがラストラン飾る

フクイズミ追い込み2着

フクイズミ追い込み2着

 この日だけはくる、という大勢のファンが来場しており、いつもより華やいだ雰囲気に映る。また、後述するが今回のばんえい記念がラストランで、翌26日に引退式を控えているニシキダイジン、フクイズミ、トモエパワーなどを応援しようと本州からも多くの人々が現地入りしていた。

 ばんえい記念を除く11Rすべてが個人もしくは企業の協賛レースとなっている。レースごとにラウンドガールがプラカードを持って登場する光景があるかと思えば、道立池田高校吹奏楽部の面々がファンファーレを奏でる場面もあり、まさに1年を締めくくる大レースならではの雰囲気が漂う。

 ばんえい記念は11レース。午後5時15分発走である。負担重量は1トン。牝馬は20キロのハンデがあるものの、それでも980キロ。さすがに1トンもの重量となると、容易なことでは曳けない。まして2つの障碍(しょうがい)を乗り越えてゴールを目指すのだから、曳く馬たちはもちろんのこと、見ているファンもまた手に汗を握りながらの応援となる。

 午後になり、ようやく雪が止んできた。太陽は顔を出していないものの、天候は曇りまで回復した。

 陸上自衛隊第5音楽隊による生演奏のファンファーレが場内に流れ、いよいよばんえい記念がスタートした。軽馬場のせいでレースの流れがいつもの年よりも速い。各馬が第2障碍の前までたどりつき、最初に坂を上がってきたのはニシキダイジン。続いてナリタボブサップがぐいぐいと障碍を乗り越えて行く。

 3番目に障碍を上ってきたのがフクイズミであった。前を行く2頭をフクイズミが追いかけるようにして第2障碍を降りてくると、場内からドッと歓声が上がった。

 一足早くニシキダイジンがゴールインし、フクイズミが怒涛の追い込みを見せてナリタボブサップを交わして2着に入った。3着にナリタボブサップ。人気上位3頭が1〜3着に入り、三連複は330円という順当な結果であった。

有終の美を飾って引退、ニシキダイジン

有終の美を飾って引退、ニシキダイジン

ベテラン、トモエパワーは種牡馬に

ベテラン、トモエパワーは種牡馬に

女性ファンも多かったフクイズミ

女性ファンも多かったフクイズミ

 この大レースを制したニシキダイジンは牡11歳。すでに今年度のリーディングが確定している鈴木恵介騎手は、初めてのばんえい記念制覇で、レース後のインタビューでは「これでやっと一流になれました」と涙ぐむ場面もあった。

 なお、勝ちタイムは2分34秒0。水分の少ない重馬場になると、5分以上もかかるレースだが、今年の2分34秒は歴代屈指の“好タイム”である。

 この日は4085人が来場したものの、1億2567万円余の売り上げに止まった。ばんえい競馬はこのところ入場者数がそのまま売り上げに直結しない傾向が続いており、今後の大きな課題である。

 さて、翌26日(月)は2011年度開催の最終日。前述したとおり、この日に合わせて、ニシキダイジン、トモエパワー、フクイズミの3頭が第7レース後に合同で引退式を行った。人気のあった3頭がパドックに登場すると多くのファンから盛んに声がかかった。

 ニシキダイジンとトモエパワーは種牡馬に、フクイズミは繁殖牝馬となる予定で、それぞれ新たな繋養場所に向け出発することになった。中でもフクイズミの人気はひじょうに高く、花束を手にした女性ファンが大勢駈けつけて引退式で別れを惜しんでいた。

 また、32年間の長きにわたりばんえい競馬の実況を務めてきた井馬博さん(63歳)も、今季限りで引退となった。この日をもって153日間の全開催を終了したばんえい競馬は、3週間後の4月14日(土)に2012年度開催が開幕する。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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