凱旋門賞へ向けたヨーロッパ12F路線の現状

2012年08月15日(水) 12:00

 8月も半ばとなり、ヨーロッパの競馬はそろそろ後半のクライマックスへ向けての動きが本格化する時季を迎えている。

 王道である12F/2400m路線で言えば、7月21日のG1キングジョージで前半戦が締めくくられ、後半の大一番である10月7日のG1凱旋門賞へ向けて、トップホースたちが再始動を図る季節だ。具体的には、今からちょうど1週間後の8月22日にヨークで開催されるG1インターナショナルS(芝10F88y)から、凱旋門賞へ向けた最終プレップがスタートするというこの時季を捉えて、ヨーロッパ12F路線の現状を整理しておきたいと思う。

 ブックメーカー各社が、現在3.5倍から4.0倍のオッズを掲げて、凱旋門賞前売り1番人気に推しているのが、キャメロット(牡3、モンジュー)だ。6月2日にエプソムで行われたG1英ダービー(芝12F)、6月30日にカラで行われたG1愛ダービー(芝12F)と、この路線のG1を2つ手中にしている、今年の3歳世代では抜きん出た力を持つ馬である。英ダービーで退けた馬たちの、その後の成績が「今ひとつ」のため、英ダービーのレベルに疑問符を付ける声も一部では上がりつつあるが、一方で、8月2日にコークで行われたLRプラチナムS(芝8F)で、愛ダービー4着馬アキードモフィード(牡3、ドバウィー)が古馬相手に5馬身差の快勝。キャメロット信者はひと息つくことが出来た。

 今季初戦にG1英二千ギニー(芝8F)を制しているキャメロットの次走は、9月15日にドンカスターで行われるG1セントレジャー(芝14F132y)で、まずは1970年のニジンスキー以来となる3冠奪取に全力を注ぐ予定だ。セントレジャーから中2週になる凱旋門賞については、出否を含めて、セントレジャーが終わるまでは保留というのが現状である。

 オールドファンにしてみると、完璧なレース振りで3冠を達成したニジンスキーが、凱旋門賞ではあろうことかゴール前で寄れる失態を演じて2着に敗れた光景が、いまもってフレッシュな記憶として留まっており、そのあたりが、凱旋門賞へ向けた前売りでブックメーカー各社がキャメロットに提示しているオッズが意外につくことの背景にありそうだ。

 ブックメーカー各社が5.5倍から8.0倍のオッズを掲げて2番人気に推しているのが、前年に続く連覇を狙うドイツ調教馬デインドリーム(牝4、父ロミタス)である。

 今季初戦となったG2バーデン企業大賞(芝2200m)で、牡馬を相手に勝利を収め、健在振りを示すとともに、順調にシーズンのスタートを切ったデインドリーム。ところが、2戦目となったフランスのG1サンクルー大賞(芝2400m)では、得意と見られていた道悪になったにも関わらず、1番人気を裏切って4頭立ての4着に敗退。ハイペースの力勝負が得意な馬にとって、超のつくスローペースになったことも敗因の1つに挙げられたが、関係者の多くが指摘したのが、昨年のJC出走時で426キロという小柄な牝馬だけに、古馬になって背負う斤量が大きな負担になっているのではないか、という点で、シーズン後半へ向けて暗雲が垂れこめていたのが、この段階でのデインドリームだった。

 ところが、当初は「出ない」と言っていたキングジョージに、レース当該週になって出走を表明。近年でも有数の分厚い顔触れが揃ったと言われたこのレースで、58.97キロという斤量を背負いながら、牡馬のナサニエル(牡4、父ガリレオ)を力でねじ伏せる競馬で優勝。昨年秋、牡馬相手にG1を3連勝して示した類稀なる能力を、改めて実証して見せた。

 今後は、9月2日のG1バーデン大賞(芝2400m)から凱旋門賞という、昨年と同じ路線を歩む予定となっている。

 ブックメーカー各社が7.0倍から8.0倍のオッズで3番手に評価しているのが、鼻という僅差でキングジョージ連覇を逃したナサニエル(牡4、父ガリレオ)である。

 3歳時にキングジョージを制した後は秋まで休養し、10月にG1英チャンピオンS(芝10F)を使って5着に敗れ、シーズンを終了した同馬。4歳を迎えた今季は、調整の僅かな狂いに悪天候が追い打ちをかけ、シーズナルデビューが7月7日のG1エクリプスS(10F7F)までずれ込むことになった。

 いささか相手にも恵まれ、エクリプスSで2度目のG1制覇を果たした後、中1週で挑んだのが今年のキングジョージで、ここまで大事に使われてきた同馬にとっては、試練とも言える臨戦態勢だったと言えよう。デインドリームの驚異的な底力の前には屈したものの、3着以下には1.1/2馬身差をつけた競馬は見事なもので、この馬もまた、高い水準の力量を持つ馬であることを改めて実証したと言えそうだ。

 次走は当初、8月22日のG1インターナショナルSと言われていたが、ここへ来て、9月8日にレパーズタウンで行われるG1愛チャンピオンSに廻る公算大と伝えられている。

 ブックメーカー各社が9〜13倍のオッズで4番手に評価しているのが、キャメロットのステーブルメイト・セントニコラスアベイ(牡5、父モンジュー)である。

 2歳時、G1レイシングポストトロフィー(芝8F)を含めて3戦3勝の成績を残し、スーパースター候補と持て囃された同馬。ところが、3歳初戦のG1二千ギニー(芝8F)で6着に敗れると、3歳シ−ズンの残りを全休。4歳春に戦列戻り、復帰後3戦目にエプソムのG1コロネーションC(芝12F)を制して復活をアピール。その後は3連敗を喫して再びトンネルに入り込んだかに見えたが、4歳最終戦となったG1BCターフを快勝して昨シーズンを終えている。

 5歳を迎えた今季も現役に留まり、初戦に選んだドバイのG1シーマクラシック(芝2400m)がシリュスデゼーグルの2着。欧州初戦となったG3ムーアスブリッジS(芝10F)では、自陣が用意をしたラビットを捕まえ切れずにここでも2着と、再び足踏み状態に陥ったが、今季3戦目となったエプソムのG1コロネーションCでは、鮮やかな競馬で前年に続く連覇を達成。通算4度目のG1制覇を果たしている。

 前走のG1キングジョージは、鼻差の接戦をした2頭から、1.1/2馬身置いてきぼりにされる3着だった。

 キングジョージ前から言われていたことだが、右回りは左回りよりも成績が安定せず、なおかつ、良馬場に比べるとパフォーマンスが落ちる稍重になったから、この敗戦は想定の範囲内と見ることも出来ようが、しかしそれなら、右回りコ―スが舞台で、しかも重馬場になることの多い凱旋門賞は、この馬にとって適鞍とは言えないことになる。

 次走は、左回りコースで、良馬場で行われることの多いG1インターナショナルSと言われており、予定通りであればそこでフランケルとの対戦が実現することになる。

 ブックメーカー各社が13〜15倍のオッズで5〜6番手という評価なのが、フランス調教の3歳牝馬ヴァリラ(牝3、父アザムール)だ。

 アガ・カーン殿下の自家生産馬で、今年4月14日にボルドールブスカの条件戦(芝1900m)でデビュー勝ち。続く5月18日にシャンティで行われた一般戦(芝2000m)を3馬身差で連勝した後、6月17日にシャンティで行われたG1仏オークス(芝2100m)に5万5千ユーロの追加登録料を支払って出走し、見事に大本命馬のビューティパーラー(牝3、父ディープインパクト)を破って優勝。無敗のクラシック制覇を成し遂げたのがヴァリラである。

 現在は夏休み中で、次走は9月16日にロンシャンで行われる牝馬限定G1ヴェルメイユ賞(芝2400m)と言われている。

 ブックメーカー各社が13〜17倍のオッズで6〜7番手という評価なのが、メアンドル(牡4、父スリックリー)だ。3歳春のクラシックには間に合わなかったものの、G1パリ大賞(芝2400m)で重賞初挑戦にしてG1制覇を果たし、一気にトップ戦線に台頭した馬だ。

 春先は動きが硬いのか、仕上がりに時間がかかるタイプなのか、4歳となった今季も出だしはG2、G3で勝ちそびれたものの、その後、G1サンクルー大賞、G1ベルリン大賞(芝2400m)と連勝。着実にキャリアアップを図っている。

 次走は、9月2日のG1バーデン大賞が有力と言われている。

 さてそんな中、日本から参戦予定のオルフェーヴルはと言えば、ブックメーカー各社の中で最も評価が高いのが、オッズ11倍で4番人気に挙げているベット365社だ。逆に辛口なのが、オッズ17倍で9番人気というラドブロークス社である。

 こうしたオッズは言うまでも無く、オルフェーヴルが出走を予定している、9月16日にロンシャンで行われるG2フォワ賞(芝2400m)を含めて、前哨戦が消化されていくたびに動いて行くことになる。

 凱旋門賞は、本番だけでなく、ぜひ前哨戦からフォローしていただければと思う。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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