競馬をオリンピック種目に

2012年08月18日(土) 12:00

 気がついたらロンドンオリンピックが閉幕していた。

 盛り上がっていたことはもちろん知っていたが、競技を最初から終わりまでリアルタイムで見た種目は……ひとつもなかった。

 今ネットで調べたら、オリンピックが開幕したのは7月27日、金曜日だったようだ。私が相馬野馬追取材のため福島入りした日である。そのときはアジア競馬会議が行われたトルコから帰国したばかりで、まだ時差ボケが抜け切っていなかった。テレビでアナウンサーの絶叫を聴いて平常心でいられるような状態ではまったくなかったので、リモコンに触る気にもならなかった。

 福島から戻った私を待っていたのは〆切地獄だった。それらといくつかの打ち合わせをこなしてから、母が慢性硬膜下血腫の2度目の手術を受けることになったため札幌に帰省し、今も手稲山が見える生家で原稿を書いている。

 要は、オリンピックどころではなかったのである。

 これがもし、オリンピックの種目に競馬でもあれば、時差ボケがひどかろうが、〆切に追われていようが、家族が病気であろうがテレビを見るなり、場合によっては現地まで飛んで行ったかもしれないが、残念ながら、競馬はオリンピック種目に含まれていない。

 私はずいぶん前から、「競馬をオリンピック種目に加えてほしい」と、あちこちで書いたり言ったりしている。

 先日、武豊騎手がキャプテンをつとめた世界選抜が優勝したシャーガーカップがいいお手本である。ダッシュ、スプリント、マイル、クラシック、ステイヤーズといったネーミングで距離別のレースを設定し、そこに例えば4〜5か国のチームが3頭ずつ出走させ、着順ごとのポイントを競う形式にする。そうすると、チームの3頭でラインを組んだり、どれかに大逃げを打たせたり、離れたケツから行かせたりという戦術的な駆け引きも見られるだろうし、連続騎乗する騎手がいたり、テンからガンガン追うパワー型の騎手が短距離戦に集中的に騎乗したり……と、騎手の腕比べだけでも見どころ満載になる。

 予選を早めに実施して、中2週ぐらいで、前記のように4〜5チーム、あるいは、決勝に残ったチームが入賞という意味で8チームによるファイナルを戦うようにするといいのではないか(8チームが3頭ずつ出る24頭立てというのも迫力がありそうだ)。

 当然、馬の能力によって結果が大きく左右されることになるわけだが、馬術だって、ボブスレーだって、スキーだって、スケートだって、ヨットだって、自転車だって乗り物の性能によるところが大きいのだから、それもチーム力、国力のうちである。

 メダルの授与対象は、チーム(国)ということでいいのではないか。オリンピック種目としての競馬が成熟してきたら、個人(騎手)をメダルの対象とする方法をとり入れていけばいいと思う。

 ここに記したようなことがもし現実になれば、「最大目標は○○オリンピックです」と発言する関係者が出てきたり、「クラシック三冠と五輪の四冠馬」が現れたり、「オリンピックトライアル」として、オリンピックに出走する人馬を決定するレースが国内で行われたり、誰が監督になるかで議論になったりと、新たな楽しみがゴソッと誕生するはずだ。

 実施されれば、絶対に盛り上がる。日本のみならず、世界中の競馬熱が継続的に高まるきっかけになることは間違いない。

 では、どうすれば少しでも実施に近づけることができるのか。これまではその方策がまったくわからず、こんなふうに書きつづけるしかないと思っていたのだが、アジア競馬会議に参加して、「そうか」と思った。

 アジア競馬会議は、JRAの佐藤浩二総括監が会長をつとめるアジア競馬連盟の基幹会議であり、日本のほか、香港、インド、オーストラリア、UAE、南アフリカなど22カ国が加盟している。加盟国の馬券売上げは世界の59.7%、賞金額は44.7%を占める、世界最大の競馬会議である。この数字が示すように、影響力も大きい。

 そのアジア競馬会議の議題として「競馬のオリンピック種目化」が俎上に載せられるよう提案するぐらいなら、私にもできるかもしれない(もしかしたら、すでに提案した人がいるのかもしれないが)。

 ちょうど今月末、アジア競馬会議に参加した日本人関係者の意見交換会があるので、そこで発表してみようと思う。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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